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2018年4月27日金曜日

バナナの斑点「シュガースポット」

昨日紹介した、バナナの話。バナナはバショウ科バショウ属に分類されます。バショウ属の植物には、繊維として利用されるマニラ麻があります。ちなみに、湿地に見られる美しいミズバショウは、サトイモ科の植物です。

バナナは熟すると黄色くなり、そのころには表面に黒い斑点が出てきます。この斑点のことを「シュガースポット」と呼ぶそうですが、これは果実の糖度が高くなった状況を示す目安になるそうです。

なぜシュガースポットが出現するかというと、バナナの皮に含まれているポリフェノール類が酵素によって酸化され、褐色の物質へと変化するため。「熟する」ということは、言い方を変えれば細胞の老化が進んでいることになります。細胞が老化すると、細胞内のつくりも弱くなり、細胞内に蓄えられていたポリフェノールがもともと存在していた場所を離れて、酸化酵素と触れ合ってしまうために起こる現象です。

実は、バナナの果実が熟することと、シュガースポットの出現するしくみとは関係がないことがわかっています。あくまで目安というわけです。シュガースポットが出現した頃にはすでに十分に果実は甘くなっているので、おいしく食べられるというわけです。シュガースポットが出現したけれど、今は食べられない! というときは、冷蔵庫に入れてしまいましょう。バナナの皮は黒ずんでしまいますが、バナナは13℃以下では追熟できないので、熟しすぎることなく、食べることができるのです。

2018年4月26日木曜日

バナナの追熟

先日、スーパーマーケットで「青い」(熟していないような)バナナを見かけました。最近のバナナは甘い食感を消費者が好んでいるということなのか、かなり熟しているものが店頭に並べられていることが多いようで、青いバナナはずいぶん久しぶりに見たような気がします。私が学生だった頃は、バナナは青いものがかなりあったように思ったのですが…   私はそれほど甘くないバナナが好みなのですが。

日本バナナ輸入組合の発表によると、日本の2016年のバナナ輸入量はおよそ96万トンで、どのような国々から輸入されているのかというと、

  1. フィリピン(78.5%)
  2. エクアドル(16.5%)
  3. グァテマラ(1.8%)

が上位3カ国となっています。

バナナは熟した状態で輸入されるのではなく、現地では熟す前の状態で収穫されます。熟した状態では傷みやすいことと、害虫がつくことを防ぐためたとか。日本に輸入された後、検疫を受けたら、まだ熟していないバナナを追熟するための施設に運ばれます。この施設では温度管理された「室(むろ)」と呼ばれる部屋で、エチレンガスや二酸化炭素、湿度をコントロールしながら保管されます。エチレンガスは果実の呼吸を盛んにし、果実を柔らかくしたり、糖分を高めたりするはたらきをするものです。

八王子には「バナナ熟成センター」と看板を掲げた施設があり、どういうことをしているのか疑問だったのですが、こういうことをしていたのですね。それほど追熟の進んでいないバナナをもう少し見かけることができるようになると、嬉しいのですが。

2018年4月25日水曜日

「チョウ」と「ガ」の違いはなに?

春になるといろいろな種類のチョウが飛び始め、花から花へと飛び移っていくようすを見かけます。同時に夕方を過ぎるとガが目立ち始めます。街頭近くにはずいぶん多くのガが集まっています。

朝、玄関付近に止まっている虫がチョウなのか、あるいはガなのか、どっちなのだろうと思うことがあります。きれいな羽だからチョウなのか、羽を開いて止まっているからガなのか、そういえば見分け方がはっきりしないように思います。どのように分類されているのでしょうか。生物の分類は広い順に、ドメイン/界/門/綱/目/科/属/種と分類されていきます。たとえば私たちヒトは、「真核生物/動物界/脊椎動物門/哺乳綱 /サル目/ヒト科/ヒト属/Homo sapiens」と学術的に分類されています。

実は、チョウもガも鱗翅目(りんしもく)というグループの昆虫。この鱗翅目とは、大きな2対の羽を持ち、羽にうろこ状の鱗粉(りんぷん)がならんでできた模様を持つものです。この鱗翅目をさらにグループ分けして、セセリチョウ科・アゲハチョウ科・シロチョウ科・シジミチョウ科・シジミタテハ科・タテハチョウ科の6つの科に属しているものを「チョウ」、それ以外の鱗翅目のものを「ガ」と呼んでいます。

チョウにも夜を好んで活動するワモンチョウやジャノメチョウなどもいますし、ツバメガというガは美しい羽をもっています。

チョウという名もガという名も、結局は人間の都合でつけたもの。それでも人間がつけた名である以上、名付け方のルールや名前の由来があるのですね。

2018年4月24日火曜日

科学技術の光と影

先週の19日(木)に、横浜サイエンスフロンティア高等学校で2年生を対象とした「進路ガイダンス」という催しがあり、法政大学を紹介するために出かけてきました。横浜サイエンスフロンティア高等学校は、横浜市立の学校で、ほとんどの生徒は理科に強い関心をもっているとのこと。そのため、やや科学の内容に近い話をしました。

科学技術は私たちの生活を便利にすることに大いに役立っていますが、その陰にはいろいろな課題があったります。ある物体に光が当たれば、当たった部分は明るいけれども、必ず影ができるのと同じこと。

明治から昭和の時代に銅鉱石を採掘し、精錬作業を行っていた足尾銅山(栃木県)についての話をしました。明治期の足尾銅山で製造された銅は、当時の外貨の獲得源として重要な輸出品でした。最盛期には日本で生産される銅の 40パーセントを占めるまでになっていきます。この生産量の高さは、海外からの技術を積極的に取り入れ、さらに日本独自の工夫を加えて、より効率を高めたのでした。足尾は鉱山で働く人々に加え、技術を学ぶために海外からの技術者が訪れ、大変に賑わっていた様子が写真に記録されています。これは足尾銅山の輝かしい「光」の部分でした。

しかし、広く知られているように、足尾銅山は日本最初の公害をもたらしてしまったのです。重金属が渡良瀬川に流れ込み、渡良瀬川流域に鉱毒被害を広めました。当時の技術によって水質汚染は改善しましたが、排気中に放出される亜硫酸ガスの除去は残念ながら不可能でした。そのため、排煙が流れていった方向の山々には、今でも緑がありません。これは足尾銅山とその周辺の人々の生活に刻まれた「影」の部分です。

すべてのものごとにはこのように見方によっていろいろな側面があり、ただニュースを見聞きするだけでなく、「どうしてだろう」とか「こういう考え方はできないのかな」と自分で考えることが大切である、ということを話したのでした。

みなさんもこのようにして日々のニュースを見聞きすれば、いろいろな考え方が存在することに気がつくことでしょう。

2018年4月23日月曜日

歩測を体験する

皆さんは、自分の一歩がどれだけの長さか、知っていますか。実際に測る機会がない、というのが実情ではないでしょうか。しかし、この「歩いて長さを測る」ことは、かつて伊能忠敬が日本地図を作り上げたときに行った方法です。

私が担当している、「自然科学特講」の授業では、からだを使って、数のしくみや私たちの生活の中でどのように使われているかを再認識するということを行っています。

実際に自分の一歩を測ってみると、意外と長かったり、あるいは短かったりという印象を受けるようです。この歩幅と、何歩歩いたかを知ることができれば、距離がわかります。このような体験をすることで、街中での距離感を再認識することができるようです。実際に、学校から自分の家まで歩測して距離を測った、という学生もいました。地図を見て、どれくらいの時間がかかるかを予測することにも応用できますね。

授業で行ったように、わざわざ巻尺で計測しなくても、同じ大きさのタイルが敷き詰められた部屋やホールでも計測できます。タイルの一辺の長さを測っておけばいいわけです。計測するとき、一歩だけの長さを測るのではなく、10歩あるいは20歩を進んで、その距離を歩数で割ったほうがより正確な値がでます。一歩だけだと、意識するせいか、「いつもの歩幅」と変わってしまうようです。

皆さんも、どこか広い場所を見つけて、一度測ってみたらいかがでしょうか。

2018年4月22日日曜日

太陽黒点

東京は急に暑くなりました。今週中頃の雨のあと、今度は涼しくなっていくとのことですが、こんなジェットコースターのような気温の上下に、身体がとてもついていきません… 暑くなると、まるで太陽が近くなったのではないかというような錯覚を覚えます(私だけ?)が、太陽について紹介しましょう。

太陽には「しみ」のように見える黒い点があります。これを黒点と呼んでいます。実際の太陽を観測した画像を見てみましょう。

(C) NASA


この画像にも、太陽の中心部に黒点が見えています。この黒点の温度は約 4,000 ℃。その周囲の太陽表面の温度は、約 5,800 ℃。黒点は温度が低いのです。黒点がその名のとおりに黒く見える理由は、そこにあります。

物体は、その温度によって光を放ちます。光にはいろいろな種類があり、電波・マイクロ波・赤外線・可視光線・紫外線・X線・γ線などです。5,800 ℃ という温度は、ちょうど可視光線をもっとも強く放出する温度です。それに対して、4,000 ℃ は赤外線を強く放射する温度で、可視光線は弱くなります。私たちが見ることのできる光は、可視光線のみですから、温度の低い黒点の部分は周りに比べて光っていないように見える、つまり黒っぽく見える、というわけです。

ではなぜ、黒点は温度が低いのでしょうか。それは、太陽表面の強力な磁場が、太陽内部から浮き上がってくるガスの流れを妨げ、温度の上昇を防いでいるためです。太陽の表面の下には、「対流層」と呼ばれる部分があります。対流層は、太陽中心部からの熱をガスとともに効果的に太陽表面へと運びます。太陽の表面に強い磁場を生じる部分ができると、磁気のはたらきでガスの流れを妨げるわけです。

2018年4月20日金曜日

恐竜絶滅の原因は・・・

昨日の恐竜の子孫の話題に引き続き、恐竜の絶滅の話題です。

今から2億2千万年前から6,550万年前の間、地球上には現在でいう「恐竜」が生きていましたが、6,550万年前に恐竜は絶滅してしまいました。じつは恐竜だけではなく、このとき地球上の70パーセントの動植物が絶滅したと考えられています。

このときの大絶滅の理由について、いくつかの学説がありました。
  • 巨大な隕石が地球に衝突して、環境が大きく変化してしまったから
  • 大規模な火山噴火があり、噴き出した噴煙で太陽光が遮られ、環境が変わったから
  • 伝染病が大流行した
などです。

2010年、この絶滅の理由を説明する、非常に有力な研究結果が発表されました。その理由とは、「ユカタン半島に地球外天体が衝突した」ことによるものです。ユカタン半島には、「チチュルブクレーター」と名付けられた、巨大なクレーター(直径180キロメートル)があります。 このクレーターを作り上げた地球外天体は、直径約15キロメートルの小惑星ではないかと考えられています。この衝突のとき作り出された物質が、世界中の350か所で白亜紀後期の地層中に観測されています。現在、チチュルブクレーターを地上に確認することはできません。海の中にあるのです。Google Map で確認してみましょう。メキシコ湾の南側に位置していることを確認できます。

中央のマークされた位置がチチュルブクレーター (c) Google Map


衝突の衝撃で、地球上の物質が瞬間的に大量に放出され、太陽からの光を遮り、急激に寒冷化した結果、数日中に大半の生物が死滅したと考えられています。

太陽光はまさに自然の恵みですが、こんなふうにしてその恵みを受けられなくなることもあるのです。それでも、現在の地球で私たちが生きているのは、この大量絶滅があったからこその話。もし、大量絶滅がなかったら、どんな生物が地上を歩いているでしょうか・・・

2018年4月19日木曜日

恐竜と鳥は親類関係?

 子どもたちに大人気の恐竜。大型肉食恐竜のティラノサウルスや、大型草食恐竜のステゴザウルスなどは、ずいぶん広く知られています。これら恐竜は、今からおよそ 6,600万年前に絶滅しました。

 大繁栄した恐竜は、絶滅で確かに存在は消えてしまいましたが、進化によって姿を変え、現代にも生き延びています。その一つの例は、ティラノサウルスなども含まれている竜盤類と呼ばれる生物の一部から、鳥類へと進化したと考えられています。

 そんな恐竜の研究で、ジュラ紀(1億9960万年前にはじまり、約1億4550万年前)に生きていた「スカンソリオプテリクス」と呼ばれる恐竜の化石に、両手首から長い棒状の骨が伸び、その骨と手指との間に皮膜状の組織が残されている様子が発見されました(Nature 521, 70)。実はこの恐竜は、羽毛が生えていたことがわかっています。この化石の発見は、恐竜のなかには「飛ぶ」ための構造として、ムササビやモモンガのように「滑空」するための構造も持っていた可能性を示しています。

 進化の研究からは、スカンソリオプテリクスの仲間が、後に鳥類へ進化したと考えられています。恐竜に限らず、生物は長い長い時間をかけて、姿を変えて環境に適応しながら生き延びています。

 私たちが食べているトリ肉は、もとをたどれば恐竜だった、と考えるのはあまりに短絡的かもしれませんが、そう思って食べると味わいも変わるかな?

2018年4月18日水曜日

科学オタクな中高生を探しています!

 メンター(mentor)、メンティー(mentee)という言葉があります。mentor がいる人を mentee と呼びます。mentor とは「指導者」という意味です。そしてmentee とは「(特定の指導者による)指導を受けている人」です。

 日本ではあまり馴染みのない言葉ですが、海外ではかなり一般的な言葉だとか。海外の中高生がより進んだ教育を受けたいとき、大学教員から直接指導を受け、自らの能力を高めるという制度があるそうです。

 科学が好きで、学校の科学部などで活動している中高校生が、より専門的な指導を受けたいと思っても、現在の制度ではなかなかそういう機会に恵まれません。そこで、日本科学協会は「サイエンスメンター制度」を行っています。キャッチフレーズは「科学オタクな高校生、探しています」。

 この制度は、メンティーとなる高校生と、メンターとなる大学教員を結びつけるものです。中高校生が進めたいと考えている研究分野の専門家を、自分で探すことは大変です。そこで、日本科学協会のメンバーが、さまざまなネットワークを通じて適切な大学教員を探し出し、その人に指導してもらえるように段取りをつけましょう、というわけです。

 指導を受けるといっても、大学教員がいつもその場にいるわけではないので、電子メールでのやりとりが必要になります。夏休みやそのほか都合を合わせて、高校生に大学に出向いてもらい、大学の実験室などで研究を進めることもあります。

 今年度の募集はこちらのページに公開されています。「我こそ科学オタク」という高校生のみなさん、ぜひどうぞ。

2018年4月17日火曜日

「はしか」が流行?

ニュースでも取り上げられていますが、沖縄で「はしか(麻疹)」に感染した方が増えており、学級閉鎖が行われたり、沖縄への観光旅行のキャンセルが出ているということです。今回のはしかは、台湾からの旅行客が感染源だったことがわかっていますが、今後、急速に拡大するおそれもあり、注意が必要です。

はしかは麻疹ウイルスによって発症します。このウイルスの感染力は極めて強いことが知られており、免疫のない人々の中に1人の感染者がいた場合、12〜14人程度もの人々が感染してしまいます。さらに、感染すると約 90パーセントの人が発症することが特徴で、症状は高熱と全身の発疹が見られます。

一度、はしかに感染して発症すると免疫を獲得し、その後の感染を防ぐことができます。それ以外には、はしかを予防する手段は予防接種しかありません。日本でのはしかの予防接種が任意接種だった時期があり、念のためご自分が接種を受けたかどうかを確認しておいたほうがよさそうです。こちらのNHKニュースの記事に、はしかの予防接種の実施状況が示されています。母子手帳などで記録を確認することが確実です。

日本では 2007年から 2008年に大きな流行がありました。そのため、この後5年間にわたって中学1年生と高校3年生に相当する年齢時に予防接種を行うことで感染の拡大を防ぎました。

2015年、世界保健機構(WHO)は、日本がはしかの排除状態(日本の麻疹ウイルスによる感染が3年間確認されないこと)にあると認定しました。しかし、この後も海外からの麻疹ウイルスが日本に流入し、感染の広がった例が報告されています。

あと数週間後にはゴールデンウィークが控えており、多くの人々が旅行などを計画していることでしょう。感染する可能性があるという人は、一度主治医に相談されるといいかもしれません。

2018年4月15日日曜日

花粉を利用した年代測定

この時期、なにかと厄介者扱いされる花粉ですが、科学的には重要なはたらきをすることが知られています。

花粉は植物の種類によって形や大きさに特徴があり、しかも極めて丈夫です。大昔の花粉であっても、そのまま地層に残されています。気温や湿度などによって、その環境で繁栄する植物は異なります。

寒冷地に広がる針葉樹のトウヒ属や、比較的温暖な気候で生育するカシワ属やクルミ属、湿地に広がるミズバショウ属など、地層にどんな花粉が含まれているかによって、その地層がつくられた年代の気候がわかります(私は専門ではないので、おおまかにしか理解していませんが、さまざまな植物の生育分布と気候を結びつけることができます)。

この研究は、世界中のさまざまなところで行われており、地球上の環境がいつ、どのように起こったかが明らかにされつつあります。

このような研究を花粉分析というのですが、学生の頃に実際の地層サンプルから花粉を取り出し、顕微鏡で花粉を同定(その花粉がなんの種のものかを決めること)する実習がありました。ほんとうにいろいろな種類の花粉がありますが、私は花粉の形の違いを覚えられず、とても困った記憶があります…

2018年4月14日土曜日

地球外生命体からのメッセージが届いたら…

昨日は「総合講座I」で地球外生命体を話題にしたと紹介しました。そして「もし、地球外生命体からメッセージが届いたら、あなたはどうしますか?」と問いかけました。

学生のみなさんが答えてくれたことと同様に、まずは分析することが必要でしょう。相手が何を伝えようとしているかわからなければ、答えようがないかもしれません。メッセージの意味がわかっても、あるいはわからなかったとしても、次の行動はメッセージの送信かもしれません。なにか声をかけられたら、なんらかの回答をしなければ、と考えることは人間の本質なのかもしれません。

先日亡くなった、スティーブン・ホーキング氏はかつて、「地球外生命体からのメッセージには返答すべきではない」と語っていました。地球外生命体は必ずしも友好的かどうかはわからない、というため。地球にターゲットを絞ってメッセージを送るくらいであれば、なんらかの明確な目的をもっているのかもしれません。

もし、ホーキング氏の考え方に同意するとしたら、地球人は宇宙空間に自分の存在をむやみに「宣伝」することは控えた方が賢明ということでしょうか。しかし、残念ながらそれは手遅れのように思います。

なぜなら、私たちはすでに探査機「ボイジャー1号・2号」に地球人のメッセージを載せて、太陽系探査のために打ち上げているから。これらの探査機は現在、太陽系の外縁まで到達し、これからは太陽系をどんどん離れていきます。また、宇宙物理学的には地球からは赤外線や電波など、天体の大きさにしては不自然な放射が起こっています。

はるかに遠い将来、地球外知的生命体が、宇宙空間に漂う「ボイジャー1号・2号」を見つけるかもしれません。地球は非常に小さすぎて、なかなか観測できないでしょうが、探査機に搭載された地球人からのメッセージを確認することで、太陽系のある惑星には知的生命体が存在していることを知るかもしれません。そのとき、その知的生命体はそういう行動をとるのでしょうか…?

2018年4月12日木曜日

トランス脂肪酸って?

近年、話題の「トランス脂肪酸」。どのように話題になっているかというと、世界保健機構(WHO)がトランス脂肪酸の摂取量を、一日あたりおよそ 2 g 未満にすべきと勧告し、デンマーク、スイス、オーストリアなどでトランス脂肪酸の含有量を規制する行政命令を出しました。その後、南米、北米、東アジアではトランス脂肪酸を含んだ食品の表示を義務付けました。日本では、現時点で規制や表示義務は行われていません。

トランス脂肪酸は、私たちの栄養素である脂質の構成要素です。しかし、脂肪酸にはさまざまな種類があり、トランス脂肪酸を食品から摂取する必要はないと考えられています。トランス脂肪酸を摂りすぎによって、肥満などによる生活習慣病にかかるリスクが高まることが明らかになっており、このことが WHO による規制の根拠となっています。

一方で、一般的な日本人の食生活では、トランス脂肪酸を摂取する機会は欧米諸国に比べて少ない(一日あたり 0.7 g)とされており、またトランス脂肪酸の日本人の体質に対する影響については、まだ明らかになっていません。

しかし、日本の食生活の西洋化により、トランス脂肪酸を摂取する機会は以前より増えていることは確かです。そのため、一部の乳製品企業では、トランス脂肪酸の低減に取り組んでいます。

健康的な食生活は、さまざまなものをバランスよく取り入れることが大切です。「脂肪が体に悪そうだから」と極端に制限すると、からだをつくるための栄養素が不足します。かつて、食生活に関していろいろな視点から述べた記事(サイエンスウィンドウ・2010年春号)に取り組んだことがありました。全文をPDFでご覧いただけますので、ぜひご覧ください。

2018年4月11日水曜日

ハイブリッド花粉

今年の春は、花粉症の悩みからなかなか解放されないようです。明日以降、黄砂が日本に到達することが予想されています。気象庁が提供している、こちらのページでは黄砂の分布の予想が示されています。

花粉と黄砂が同時に存在する環境では、アレルギー症状が悪化する可能性が指摘されています。「ハイブリッド花粉」と名付けられたこの状況では、これまで花粉症の症状を示していない人でも、発症するリスクが高まるという研究者の指摘があります。

花粉などが原因となるアレルギー症状かどうかを確認するために、病院では「アレルゲン検査」が行われます。代表的なアレルゲンには、スギやヒノキの花粉、ハウスダスト、カビなどがあり、これらはいずれもタンパク質。黄砂そのものはタンパク質ではないので、アレルギー症状を引き起こすアレルゲンにはなりません。

黄砂がアレルギー症状を引き起こすというのではなく、起こっているアレルギー症状を悪化させるのだと考えられています。また、黄砂に付着したカビや細菌がアレルゲンとなって、アレルギー症状を引き起こすことも指摘されています。

まだまだ続きそうな花粉シーズン。日本各地の花粉飛散量を集約しているサイトがあります。「環境省花粉観測システム」、愛称「はなこさん」です。いったいどのくらいの量の花粉が飛んでいるのか、関心のある方はぜひ、ご確認ください。見ているだけでくしゃみが出ても、私には責任を負うことはできませんが…

2018年4月10日火曜日

Nature Video 解説ページのご紹介

今年度のゼミは、今日から始まりました。今年度は新2年生に加えて、1名の新3年生という新しいメンバーを迎え、雰囲気が多少変わりました。なにごとも一生懸命に取り組む新人らしく、緊張してもいるのでしょうが、頑張っているようです。

今年度のゼミの活動は、昨年度まで行っている Nature Video の解説記事の作成を行います。イギリスの科学雑誌 Nature の編集セクションが制作している Nature Video は、最新の研究成果を映像で紹介しているものです。Nature Video はどなたでも無料でアクセスすることができるのですが、なにぶん英語でのナレーションです。日本人にとっては、なかなか敷居が高いことも事実かもしれません。

そこで、日本語の解説文を作成すれば、映像作品もより多くの人々の目に触れる機会が増えるのではないかと考え、この企画を始めました。制作した記事は、Nature Japan の方々の手によって、『Nature ダイジェスト』のホームページ「活用事例・取り組み」のコーナーに掲載されています。

映像のナレーションを日本語に吹き替えることはできないのですが、映像を見た後に解説文を読んでいただければ、どんな内容であるかを理解できるのではないでしょうか。

おおむね 1ヶ月に 1回を目処に更新しています。さまざまな分野に及んでおりますので、きっとご関心のある内容があることと思います。ご覧いただいて、もしさらに深く知りたいという内容があれば、このブログで取り上げることもできますので、ご遠慮なくお知らせください。

2018年4月6日金曜日

ホーキング博士の偉大な足跡

先月の14日、イギリスの宇宙物理学者スティーブン・ホーキング博士がこの世を去りました。日本でも訃報はニュース速報で取り上げられました。「車椅子の物理学者」として知られるホーキング博士は、難病の筋萎縮性側索硬化症を抱えながら研究に邁進しました。

ホーキング博士にはさまざまな業績がありますが、それらの中から 3つを取り上げて、物理学、特にブラックホールに関する研究の発展や、科学の普及への貢献を紹介した Nature Video(英語版)が Nature から公開されました【Stephen Hawking: Three publications that shaped his career in Nature Video】。

この動画の内容について、私のゼミナールのメンバーが日本語で解説記事を作成しました。Nature ダイジェストのウェブサイトから公開されており、どなたでも無料でご覧になることができます。ぜひ、こちらからアクセスしてご覧ください

紹介した日本語記事にあるとおり、ホーキング博士は市民向けの科学書の執筆も手がけ、それらの科学書は多くの人々に読まれました。日本語訳として出版されているものを紹介すると、
  • 『ホーキング、宇宙を語る』 林一訳・アーティストハウスパプリッシャーズ
  • 『時間順序保護仮説』佐藤勝彦解説・監訳・NTT出版
  • 『ホーキングペンローズが語る時空の本質』 林一訳・早川書房
  • 『ホーキング、未来を語る』佐藤勝彦訳・アーティストハウスパプリッシャーズ
  • 『ホーキング、宇宙のすべてを語る』佐藤勝彦訳・ランダムハウス講談社
  • 『宇宙への秘密の鍵』さくまゆみこ訳 ・岩崎書店
  • 『宇宙に秘められた謎』さくまゆみこ訳 ・岩崎書店
  • 『ホーキング、宇宙と人間を語る』佐藤勝彦訳・エクスナレッジ
  • 『宇宙の誕生・ビッグバンへの旅』さくまゆみこ訳・岩崎書店
  • 『ホーキング、自らを語る』佐藤勝彦、池央耿訳・あすなろ書房
などがあります。ご関心があれば、ぜひお読みください。

2018年4月4日水曜日

とってもつらい花粉症

このごろ、鼻水が止まりません。なんらかのアレルギー反応によるものらしいのですが、とにかくつらい。つい 1ヶ月前ほどは、目が痒くてたまりませんでしたが、これは治まったものの、ティッシュペーパーを手放せない生活が続きます。

耳鼻科で処方される薬を飲んで症状を抑えますが、今はさまざまな種類の処方薬があり、自分にあったものを使うことが大切だとか。私は少し強い薬を飲むと、眠くて眠くて大変です。「花粉症の薬を使うと眠くなる」とよく聞きますが、これは実は正しい表現ではないのだとか。

アレルギー症状を引き起こすのは、ヒスタミンという化学物質です。花粉症の症状を和らげるためには、簡単に言うとヒスタミンが細胞と結びつくことを妨げて、症状が起こらないようにすればいいわけです。このようなはたらきをする薬が、抗ヒスタミン薬です。速やかに、しかも的確に作用することから、よく使われています。

鼻水やくしゃみの原因となるヒスタミンは、一見すると私たちにとっては悪者のように思えてしまいますが、実は「脳を活性化させる」という重要な役割があるのです。つまり、アレルギー症状を抑えるために抗ヒスタミン薬を飲むと、血液に溶け込んだ抗ヒスタミン薬が脳にたどり着き、脳を十分に活性化させることができなくなってしまうと考えられています。脳の活性が低下すると、的確な判断ができなくなったり、思考力が低下するといった状態になります。この状態を私たちは「なんだか眠気がする」と表現するのですね。

もちろん、眠くなりにくいという新しい薬も開発されていますし、眠気を誘う薬であっても、寝る前に飲めばそれほど問題にはなりません。自分がもっともつらいと感じている症状と、生活のパターンなどを的確に医師に伝えることが、自分にあった薬を探すことのできる近道かもしれません。

2017年10月3日火曜日

重力波天文学の未来

2017年のノーベル物理学賞の受賞者は、重力波の初観測に貢献したレイナー・ワイス氏、バリー・バリッシュ氏、キップ・ソーン氏の 3名に決まりました。

重力波は一般相対性理論を構築したアインシュタインが予言したものです。アインシュタインは、時間と空間が互いに関連したものであると考え、「時空」という考え方を生み出しました。さらに、質量をもった物質は時空の構造をゆがませると考えました。その質量が十分に大きければ、そのゆがみはほかの物体を引きつける力、つまり重力の原因となるのではないかと考えたのです。そしてアインシュタインは、時空が伸びたり縮んだりして生じたゆがみが波となって宇宙を伝わっていくだろう、とも考えました。この波が重力波と呼ばれるものです。

最先端の科学記事を紹介している Nature の動画を、法政大学の私の研究室のゼミ生とともに、日本語でできるだけわかりやすく説明しているページには重力波の解説記事「ついに捉えられた重力波」が収録されていますので、関心のある方はぜひごらんください。


これまでは観測できないと考えられていた重力波を観測できるようになったことで、重力波を利用してブラックホールや中性子星などを研究する「重力波天文学」が誕生したわけです。まだまだ謎に包まれているブラックホールを明らかにするツールを人類が手に入れました。今後の研究成果に期待が持たれています。

2017年9月30日土曜日

黒潮の蛇行

気がつけば、もう 9月末。あと 3カ月も経てば今年も終わりですね。

29日に気象庁から「黒潮は、8月下旬から、紀伊半島から東海沖で大きく離岸して流れる状態が続いており、12年ぶりに大蛇行している」という発表がありました。黒潮とは日本近海を流れる海流のひとつです。

この黒潮は、本州の太平洋岸に沿って流れる状態(非蛇行)と、紀伊半島から東海沖で大きく離れる状態(蛇行)の 2つの状態を繰り返すことが知られています。大きく蛇行すると漁業に大きな影響を及ぼすほか、船の航路にも影響が及ぶため注意が必要です。下の図は黒潮の非蛇行(左)と蛇行(右)の状態を数値シミュレーションで再現した状況です。

黒潮の非蛇行(左)と蛇行(右)の状態を示した数値シミュレーション。
本州の太平洋岸に沿って流れる海流が黒潮です。
Matsuura & Fujita, Journal of Physical Oceanography, Vol. 36, No. 7, 1265-1286, 2006

実は、なぜ黒潮がこのように蛇行したり、しなかったりするのかについての理由はよくわかっていません。以前、私の所属していた研究チームで、海流の運動の状態を 2つの渦の相互作用で説明することができるのではないかという研究を行なっており、そのときに発表した論文の一部が上の図でした。

黒潮のような海流は、単なる海の水の流れではなく、巨大なパイプの中を流れる海水の流れのようなものだと専門家から聞いたことがあります。確かに、この黒潮にのって温かい海にすむ魚たちが北上し、それらを捕獲して私たちは食べているわけです。そのため、黒潮が蛇行すると漁場が南下していきます。経済的には漁船は港から離れて操業することになるため、費用がかさむというわけです。

回転する方向が違う 2つの渦が並んで存在しているとき、2つの流れが接して同じ方向に流れるところでは、流れのパターンが直進的になったり、ならなかったりという状態を周期的に繰り返します。この物理的なメカニズムが、黒潮の蛇行・非蛇行に応用できるのではないかという研究でしたが、現在も多くの研究者がこの問題に取り組んでいます。

宇宙はまだまだわからないことがたくさんありますが、実はこの地球上のことにもわからないことがたくさんあるのでした・・・

2017年9月17日日曜日

血液は鉄の味?

ブログをご覧の方から、「血液の味は鉄の味がすると誰もが感じますが、鉄を食べたことはないのに、どうして鉄の味っていうのでしょうね。そもそも本当に血液は鉄の味なのでしょうか?」という質問が寄せられました。

確かに、冬など乾燥した時期に唇が切れて血が出てしまったとき、「鉄の味」といいますね。鉄を食べる人はいませんが、どうして鉄とわかるのでしょうか。

血液をつくり上げている成分のうち、赤血球には確かに鉄が含まれています。赤い色を示すヘモグロビンがそれです。ヘモグロビンはおもに脊椎動物の赤血球に含まれる成分で、酸素の豊富なところでは酸素と結びつき(こういう状態になったヘモグロビンをオキシヘモグロビンといいます)、酸素が少ないところでは酸素を放出する(こちらはデオキシヘモグロビンといいます)という性質をもった物質です。酸素が豊富な肺で酸素を取り込み、毛細血管で酸素が少ないところでは酸素を手放して、私たちの体じゅうに酸素を届けます。

このヘモグロビンが鉄のような味の原因なのだと思います。出血したものが舌に触れたとき、赤血球の細胞膜が壊れて、赤血球の内容物が外に出てくるので、その味を感じているのかな、と思います。この赤血球の細胞膜が壊れてしまう現象を溶血といいます。高校の生物などで浸透圧などを習った方もいらっしゃると思います。人間をはじめとする哺乳類の浸透圧は 0.9%の濃度の食塩水と同じなのですが、それより薄い溶液に赤血球がおかれると、赤血球が破裂してしまいます。溶血はこれだけでなく、血液を乱暴にかき混ぜたり、冷凍させたりなど、さまざまな原因でも起こります。

ただ、食べたことのない「鉄」の味、ということをなぜ認識しているのか、答えが見つかりません。鉄棒遊びやおもちゃ遊びなど、小さい頃からのいろいろな経験から、鉄の味を認識させてくれるのでしょうか。

鉄分の補給を目的に、鉄瓶など鉄製品を利用しようとしている方もいらっしゃることでしょう。果たして鉄瓶の利用が生物に対して鉄分補給に役立つのでしょうか? このような研究をテーマにした研究論文がありました。対象はラットですが、鉄鍋を使って作成した餌には鉄分の補給に役立つということです。日本人に必要な毎日の栄養素が紹介されているページはこちら(江崎グリコ)ですが、これだけの量を鉄瓶や鉄鍋だけで補給することは難しいでしょうが、鉄分の摂取が不足気味の人には、補助的な効果を期待できるかもしれませんね。

好き嫌いなく、いろいろなものをバランス良く食べる、ということが健康の秘訣かもしれませんね。