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2020年3月11日水曜日

エボラウイルスと人間社会との戦い

今月の Nature ダイジェストの Nature Video 活用事例には、「エボラウイルスと人類社会との戦い」というタイトルの記事が公開されています。ぜひ、上記の記事もお読みください。

エボラウイルスはエボラ出血熱という感染症を引き起こすウイルスです。コロナウイルスのように世界中に広がっているわけではありませんが、アフリカ中央部や西部の国々で発生し、2014年に大流行が発生したほか、2018年からの大流行が現在も引き続いており、世界保健機関(WHO)はコンゴ民主共和国の流行地域を「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」に指定しています(2020年3月11日現在)。

今回の記事は、私たちの社会で感染症の流行を抑え込むことがいかに難しいか、ということが記されています。そのことが記事のタイトルに「人間社会」とした意味です。世界のそれぞれの地域で、さまざまな感染症が発生します。ある状況では感染症は克服されますが、うまく制圧できない場合もあります。その原因はさまざまで、地域の風習や文化が感染を助長させる原因になることもありますし、あるいは住民の感染症予防への理解の度合いも、成果を左右する要因です。政情が不安定であれば、地域へのルールの徹底が難しくなるとともに、住民にストレスが加わり健康状態も悪化します。このように、感染症の制圧がうまくいくかどうかはさまざまな要因が複雑に絡み合っているのです。

また、支援の手を差し伸べることができるか、さまざまな情報をスムーズに交換できるかなど、周辺各国やその他の国々との関わりも重要です。

国境を越えて自由に人々が行き来する時代では、ある国の感染症が決して対岸の火事ではなく、やがて自分の国の問題になりうるという意識をもって対処しなければならないことは、感染症が発生するたびに教訓となってきたはずなのですが…


2020年3月3日火曜日

ところで、ウイルスってなにもの?

新型コロナウイルスが蔓延するのではないかと心配されている今日この頃。ニュースなどではいろいろな側面から取り上げられていますが、「ウイルスとはどういったものなのかがあまり知られていないのではないでしょうか。ウイルスとはなんなのでしょう」という質問をペンネーム・チャメさんからいただきました。

コロナウイルスという名前は知られていても、ウイルスとはそもそもなんなのか、ということについては、あまり知られていないかもしれません。今回はウイルスと感染症について基本的なことを理解しましょう。

鼻炎や咽頭炎などのような、いわゆる風邪を引き起こす原因はウイルスです。また、抗生物質は細菌には有効でも、ウイルスには効果がありません。風邪で病院にかかっても抗生物質が処方されないのはこのためです(もちろん、細菌による感染症と診断された場合には抗生物質が処方されます)。


ウイルスはタンパク質からできている殻と、その内側に遺伝物質である核酸をもつという、非常に簡単な構造からなっています。ウイルスは多くの生物とは違い、自分で殖えることができません。ウイルスが殖えるためには、ほかの生物の細胞を利用します。生物の特徴である「核酸をもっている」という一方で、「自分で殖えることができない」という非生物的な面を合わせ持っているのです。また、ウイルス自身でエネルギーをつくることもできないため、やはりほかの生物の細胞を利用します。

細胞はほかのものが内部に入ってこられないようにしっかりと守られていて、細胞表面の「鍵穴」にはまる「鍵」をもっているものでなければ侵入を許さないしくみになっています。細胞のもつ鍵穴は、身体の組織ごとにそれぞれ違っています。ところが、ウイルスの表面にはこの「鍵」のはたらきをする突起が付いていて、この鍵で開けられる鍵穴をもった部分にとりついて、細胞の内部に侵入してしまいます。喉が痛い風邪にかかった場合はウイルスが喉の表面の細胞にとりついたことになりますし、お腹の不調をともなう風邪にかかった場合はウイルスが消化管の細胞にとりついたということです。

ウイルスがこのようにして細胞に侵入し、自らを増殖させる状態になることを「感染」といいます。とても簡単に言うなら、細胞がウイルスに乗っ取られた状態です。

私たち生物は、細胞をウイルスに乗っ取られたままでは困ります。そのため、さまざまなしくみが備わっています。私たちがウイルスに感染したことを脳が感知すると、体温を上げるように指令を出します。筋肉が震えて熱を出したり、汗の量を減らして熱が逃げないようにしたりするわけです。つまり、風邪を引いて熱が上がるとウイルスが増殖しにくくなると同時に、私たちの免疫細胞がより活発にはたらくためです。

あるいは、腸にウイルスが感染したりすると下痢になります。これは単純に言うと、腸管内のウイルスを身体から早く排出しようとして下痢を起こしてしまうわけです。鼻水や咳も、このようにウイルスを身体から出してしまおうとするためのしくみです。このように、私たちのウイルスという外敵に立ち向かうためのしくみが、逆に私たちに「つらい症状」を引き起こしているわけです。

「風邪を引いてだるい」というのは、それは「休養してほしい」という身体からのメッセージ。風邪で発熱した場合の37度ほどは、人間がもっともだるく感じる体温だとも言われます。可能な限りは休養と栄養、それに水分を十分にとって、免疫細胞がウイルスに戦っている状態を応援してください。

数日しても快復しないのであれば、身体の免疫反応が、ウイルスの増殖に打ち勝てない状態になっているかもしれません。そのときは病院を受診することが必要です。医師に症状と経過を正しく伝え、あなたの状態にあった処置を受けましょう。あらかじめこれらのことを書いたメモを作っておけば、医療関係者にスムーズに伝えられますね。


今、問題になっている新型コロナウイルスの日常的な対策は、私たちが日頃、感染症にかからないための予防策と同じ。きちんと手を洗い、栄養と睡眠をしっかりとることが重要な予防方法です。


2018年5月11日金曜日

科学ジャーナリスト賞2018

日本科学技術ジャーナリスト会議が科学技術に関する報道や出版、映像などで優れた成果をあげた人を表彰する、「科学ジャーナリスト賞」の今年の受賞者が先日、発表されました。

今年の科学ジャーナリスト大賞は、信濃毎日新聞社編集局 「つながりなおす」取材班(代表 小松恵永氏)「つながりなおす 依存症社会」(2017/1/3〜6/29)の連載に対して、薬物やギャンブル、アルコールなど様々な依存症に蝕まれる現代社会を幅広い取材に基づき多面的に捉えた秀逸なキャンペーン報道であることが評価され、贈呈されました。

科学ジャーナリスト賞は3件となりました。

1件目は、ドキュメンタリー映画監督・プロデユーサー 佐々木芽生氏「おクジラさま ふたつの正義の物語」(集英社)の著作に対して、クジラやイルカ漁への国際的な批判に対し、関係者への直接的な取材に基づき、異なる文化に立脚する多様な視点を提供した点が評価されました。

2件目は、川端裕人氏「我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な『人類』たち」(講談社)の著作に対して、次々と新発見が続くアジアの多様な原人について、化石発掘現場などを丹念に取材し人類進化の謎を紹介し、知的な興奮を呼ぶ好著であることが評価されました。

3件目は、日本放送協会報道局 政経・国際番組部 ディレクター 安部康之氏らによるクローズアップ現代+「中国“再エネ”が日本を飲み込む!?」の番組に対して、再生可能エネルギーの大量導入を進める中国の動向を紹介し、立ち遅れた日本の状況を浮き彫りにしたこと、またインパクトが大きく日本のエネルギー政策を考える材料を提供したことが評価されました。

今年は、神奈川県逗子市の住宅地にある手作りの科学館である「理科ハウス」館長の森裕美子氏に特別賞が贈呈されました。「身近な科学館」を目指した設立趣旨と地域コミュニティから親しまれている活動ぶりが総合的に評価されたものです。

2006年から毎年発表されている科学ジャーナリスト賞ですが、過去の受賞作はこちらのページからご覧いただけます。

2018年5月3日木曜日

足尾銅山写真データベース

先日のブログで触れた、足尾銅山の話題について、このブログをお読みいただいている方々から、問い合わせをいただきました。そのため、私たちの研究グループが作成を進めていた、「足尾銅山写真データベース」のウェブサイトのアドレスをお知らせします(どんな写真が収録されているのだろうか、を知りたいだけであれば、入力箇所にはなにも入れずに「検索」のボタンを押すと、すべての写真が表示されます。もちろん、どなたでも無料でアクセスできます)。

このデータベースを活用してもらうことで、足尾銅山が操業していたころの写真を現在に再びよみがえらせ、『今に生きる私たちは足尾銅山の鉱毒事件を教訓にできているだろうか』と考える機会にもなると考えています。

以下、このデータベースが発表されたときのプレスリリースの一部を転載します。文章の執筆は小出五郎さん(故人)です。

足尾、水俣、フクシマ。有害廃棄物の処理ができないシステムは、人間の健康を損ない生態系を脅かします。足尾銅山の教訓はその原点としていまなお貴重です。足尾銅山・映像データベース研究会(代表者:小出五郎)が4年がかりで作成してきた「足尾銅山写真データベース」を、Web上に正式に公開します。
 栃木県日光市にある足尾銅山は、明治時代の国策「殖産興業、富国強兵」の国策を牽引する象徴的な産業でした。海外の最先端技術を導入、国産化し、優秀な人材を養成、輩出しました。生産した銅は絹製品に次ぐ輸出品で、外貨獲得に寄与しました。見物に来る外国人で横浜に次ぐ賑わいだったといいます。
しかし同時に大量の鉱毒の混じった土砂、廃水が、渡良瀬川を通じておよそ100km下流に至る北関東一帯を汚染することになりました。田中正造を指導者とする反鉱毒運動激化に、社運を賭けて実行された明治30年の鉱毒予防工事も、一定の効果をあげるにとどまりました。
 その一部始終を記録していた写真家がいました。小野崎一徳です。足尾に来た明治16年(1883年)から46年間、昭和6年(1929年)に亡くなるまで銅山と人の営みを白黒の写真に記録しました。
最先端技術を輸入して国産化した削岩機、100馬力の水車4基の水力発電所、銅の純度を飛躍的に挙げた転炉、電気鉄道、ロープウェイの輸送システム・・・。作業員の顔つきや服装、労働の様子。森林が消え荒廃した山肌、鉱毒予防工事命令を受けて建設中の広大な沈殿池、砂防ダム、世界初の排煙脱硫塔・・・。産業遺産、その光と影。小学校、山神祭り、運動会、裁判の様子、芸者たち、迎賓館、町並み・・・。鉱山都市の人の営み。
 実は、一徳の写真は、時代の流れとともに散逸していました。1000枚を越える写真を改めて収集したのは、一徳の孫に当たる小野崎敏氏です。問題は写真に説明がないことでした。そこで足尾銅山・映像データベース研究会は、金属の専門家であり足尾歴史館の中核でもある小野崎敏氏からの聞き取りを行い、文献も参照して1枚ごとに説明を付してきました。
 「足尾銅山写真データベース」は、これまでの成果として足尾銅山の光と影をWebに公開するものです。さらに、「足尾、水俣、福島」の今日性と国際性を考慮して英語版を作成し、世界に発信する計画です。

ぜひ多くの方々にご覧いただき、関心をお寄せいただきたいと思います。

2018年4月24日火曜日

科学技術の光と影

先週の19日(木)に、横浜サイエンスフロンティア高等学校で2年生を対象とした「進路ガイダンス」という催しがあり、法政大学を紹介するために出かけてきました。横浜サイエンスフロンティア高等学校は、横浜市立の学校で、ほとんどの生徒は理科に強い関心をもっているとのこと。そのため、やや科学の内容に近い話をしました。

科学技術は私たちの生活を便利にすることに大いに役立っていますが、その陰にはいろいろな課題があったります。ある物体に光が当たれば、当たった部分は明るいけれども、必ず影ができるのと同じこと。

明治から昭和の時代に銅鉱石を採掘し、精錬作業を行っていた足尾銅山(栃木県)についての話をしました。明治期の足尾銅山で製造された銅は、当時の外貨の獲得源として重要な輸出品でした。最盛期には日本で生産される銅の 40パーセントを占めるまでになっていきます。この生産量の高さは、海外からの技術を積極的に取り入れ、さらに日本独自の工夫を加えて、より効率を高めたのでした。足尾は鉱山で働く人々に加え、技術を学ぶために海外からの技術者が訪れ、大変に賑わっていた様子が写真に記録されています。これは足尾銅山の輝かしい「光」の部分でした。

しかし、広く知られているように、足尾銅山は日本最初の公害をもたらしてしまったのです。重金属が渡良瀬川に流れ込み、渡良瀬川流域に鉱毒被害を広めました。当時の技術によって水質汚染は改善しましたが、排気中に放出される亜硫酸ガスの除去は残念ながら不可能でした。そのため、排煙が流れていった方向の山々には、今でも緑がありません。これは足尾銅山とその周辺の人々の生活に刻まれた「影」の部分です。

すべてのものごとにはこのように見方によっていろいろな側面があり、ただニュースを見聞きするだけでなく、「どうしてだろう」とか「こういう考え方はできないのかな」と自分で考えることが大切である、ということを話したのでした。

みなさんもこのようにして日々のニュースを見聞きすれば、いろいろな考え方が存在することに気がつくことでしょう。

2018年4月2日月曜日

話を伝える技術?

TBSラジオ『荒川強啓デイ・キャッチ!』の番組から電話でインタビューを受けました。ニュースで話題になっていた、中国が打ち上げた天宮1号の落下について、この人工衛星の目的や最近の宇宙開発についてのものでした。放送では、私の答えた内容を時事ネタ芸人のプチ鹿島さんが要領よくまとめて話してくださいました。内容にご関心のある方は、こちらのサイトで 4月9日まで聞くことができるそうですので、ぜひお聞きください。

さて、Aさんが Bさんの話を聞いて、Aさんが聞いた話を要領よくまとめて話すことは、とても難しいものです。うまくいかない場合、(1) Aさんに問題があった、(2) Bさんに問題があった、というどちらか、あるいは両方ということになります。

大学の授業などをしていると「どうしてそんなふうに理解しちゃうかな・・・?」ということがあったりしますが、多くの学生が誤解している場合はおそらく私の伝え方がうまくなかった、ということになります。誤解した学生が少なければ、聞き手が十分に理解できなかった、などという原因がありそうです。そこで、そういう誤解ができるだけ少なくなるように、さまざまな工夫を凝らすわけです。

たとえば、講義のときには資料を用意するとか、身振り手振りを交えて話すとか、スクリーンを見やすくつくるなどの方法があります。しかし、ラジオという音声のみを伝える手段ではそうもいかず、できるだけゆっくりと滑舌良く話すぐらいしかできません。

今日のプチ鹿島さんの場合は、ご本人が知りたいことを明確にして、具体的な質問をして答えやすい場をつくる、という工夫もありました。ラジオの番組制作の極意かもしれませんね。


2016年8月9日火曜日

広島と長崎

 この2016年の夏も、NHKラジオ第一放送の『夏休み子ども科学電話相談』で、たくさんの子どもたちからの質問が寄せられています。その質問の中に、次のような質問がありました。
  • どうして広島と長崎に原爆が落とされたのですか。
 それぞれ動物や植物、昆虫といった専門分野の回答者の方々は「『科学』には、こういう質問もくるんですねぇ」と、感心とも驚嘆ともつかない声が放送前に交わされました。この質問は、「科学」つまり私に寄せられた質問です。自然科学ではない質問ですが、小さな子どもたちにとっては、何が自然科学で何が自然科学でないのか、その線引きは重要ではないのでしょう。しかも、このような質問に的確に答えられる大人はどれだけいるでしょうか。

 放送には採用されていない質問でしたが、その答えとも言える番組が NHK で先日放送されました。『決断なき原爆投下~米大統領 71年目の真実~』です。

 この番組をもとに、寄せられた質問に答えると、
  • 原爆開発の責任者である、陸軍グローブズ将軍らは原爆の投下地点として、軍事施設があり、空襲を受けていない 17の都市を選んだ。新型爆弾の威力を確認するため、周囲が山で囲まれた地形の都市であることなども条件だった。
  • その中で広島と京都が有力候補になった。しかし、選ばれた都市に軍事施設が存在するという根拠は薄く、当時のトルーマン米大統領は「米軍が無差別殺人を行った」と国際的に非難されることを恐れ、一般市民に多大な犠牲者が出ないようにするため、京都には投下しないように軍に指示した。
  • その結果、軍は原爆投下の都市として、軍事拠点である ①広島 ②長崎 ③小倉 ④新潟 を提示した。これらの提示された都市は軍事都市であると強調されていたが、これらの都市には一般市民も暮らしていた。軍は新型爆弾の開発・実証のため、投下地点の検証を十分に行っていなかった。
  • 陸軍グローブズ将軍が作成した原爆投下指令書には、「原爆を広島、小倉、新潟、長崎のうち一つに投下せよ。それ以降は準備ができ次第、投下せよ」と記されていた。
 このようにして広島・長崎に原爆が投下された後、その現状の報告を受けたトルーマン大統領は「新たに10万人、特に子どもたちを殺すのは、考えただけでも恐ろしい」と8月10日の会議で述べ、その後の原爆投下の計画を中止したと、当時の政府関係者の日記に記されています。

 原爆開発のために多額の費用をつぎ込んだ軍の「できるだけはやく原爆を使用し、実証したい」という思惑と、原爆の使用による国際的な批判を受けることは避けたい、また戦争終結後の日本を取り込む方策を考えた政府の思惑とがすれ違っていた事実が番組では明らかにされました。

 上に書いたことを、小さい子どもたちが理解することは難しいかもしれません。しかし、自然科学と同様に、社会のしくみや歴史的事実について、「なぜだろう」と考え、尋ねたり調べたりすることで、自分の考え方が醸成されていくことを大切にしなくてはいけません。

 質問してくれたお子さんに、このことが伝わるといいのですが。

2015年8月6日木曜日

広島・原爆の日

 今日は 1945年8月6日に広島に原爆が投下されてから 70年目。原爆の惨禍を繰り返すことがないようにと、今年も多くの人が祈りを捧げています。

 第二次世界大戦では、それこそ世界中の国の人々が直接的・間接的に戦火に巻き込まれたのは、誰もが知っていること。それでもなお、戦争の危機はこの地球上から消えません。今、日本には、戦時を経験した人は総人口の 18.8%しかいません。80%以上の人々は「戦時中」と呼ばれる時代を経験しておらず、戦争体験は教科書などに書かれた文章や、テレビ番組のドキュメンタリー、あるいは家族からの伝承で知るのみです。

 戦後、このような戦争を二度と繰り返すことのないように、また世界の人々が戦火に巻き込まれることがないようにとの願いが「日本国憲法」に込められたのだと、小学校で学びました。それは、前文に示されています。
日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。
 戦争に巻き込まれたいという人など、だれもいないでしょう。そういう人々の思いだけでは、戦争のない世界への実現はほど遠いので、日本国憲法という形に具現化し、国際的な問題をいかなる武力も用いることなく解決することを、将来にわたって時の権力者に約束させたものです。

 9日には長崎の原爆の日、15日には終戦の日がやってきます。戦後 70年という長い時間が過ぎた今、人々が願う平和を実現する手段はなんであるのか、考える時代であると思います。

2015年6月18日木曜日

18歳以上に選挙権

 昨日の国会で公職選挙法が改正され、18歳以上の国民が投票権を持つことになりました。18歳以上20歳未満のあなたが、投票できるのです。

 さて、新たに投票権を手にした若い人々が、果たして投票に出かける行動をとるのか、議論されています。18歳以上20歳未満のあなた、投票に行きますか。学生たちに尋ねてみたところ、「行かない」と答えた人の方が多いようです。その理由を聞くと、「訴えている政策が年代の上の人に向けられたもので、若い人々に訴えるものではないから、関心がわかない」というものでした。このことは、おそらく「現在の選挙で立候補者が訴えている政策は、自分たちの現在の状況から遠く離れていることで実感がわかず、誰に投票するかの判断ができない」というように言い換えることができるでしょう。

 現在の若い人々は、どんな政策に関心があるかを聞くと、「年金」や「労働賃金」という返答がありました。年金問題は彼らの将来の問題ではないかと思っていましたが、「きちんともらえるものなのかどうか、はっきり示してほしい」ということです。

 2004年に「年金100年安心プラン」の名のもとに、年金制度が改革されました。この改革により、今後100年間、現役時代の収入に対する年金額の割合は最低50%を保証する、とうたわれました。しかし、この時の年金運用利率は現実的な値よりも高く仮定されているほか、出生率も高く仮定されていました。この「年金100年安心プラン」が行なわれている中でも、内閣に設置された社会保障制度国民会議は2013年、年金支給開始年齢の引き上げで意見が一致したとの報道がなされました。このような状況では、若者が年金をきちんと手にすることができるのか不安に思うのは当然といえば当然です。

 「政治家は選挙に落ちればただの人」とはよく言われることです。これまで、若年層は投票権を持っていないので、彼らの方を向いていなかった、ということは否定できません。これからは政治家も若い人が何を求めているか、より注意するようになるでしょう。しかし、耳障りのいい言葉に踊らされてはいけません。自分で情報を集め、本当にその政策には実現性があるのか、きちんと判断することが必要です。

 そういう判断をできるようにする教育が、今、必要ということでしょうか。

2015年6月4日木曜日

MERS

 韓国でMERSの感染が拡大しています。MERSとは、Middle East Respiratory Syndrome (中東呼吸器症候群)の頭文字をとったものです。感染症自体の詳細は国立感染症研究所から情報が提供されています。

 6月8日(月)から11日(木)まで、韓国ソウル市で科学ジャーナリスト世界大会が開催される予定で、各国から科学ジャーナリストが集まります。主催団体は速報を発信し、感染者はきちんと抑え込まれており、国内の移動制限などは発令されておらず、現状では必要以上に恐れることはない、と発表しました。しかし、ニュースでは「感染拡大」などという文字が大きく示され、不安を増大させます。

 このような事態になると、(たとえ科学ジャーナリストでも)出席を取りやめようかどうかを考える人も出てくるでしょう。さて、あなたならどうしますか。

 このような場合は、まず正しい情報を入手することが先決です。一般に、このような感染症の場合は WHO(世界保健機関)が情報を発信します。日本国内では、最初に示した国立感染症研究所や、厚生労働省が情報を発表します。そしてどのような行動をすれば感染する可能性が高くなるかを考え、自分がそのような行動をとる可能性があるかを考えます。

 今回のMERSでは、ヒトからヒトへの感染は感染者が入院している病院などの極めて限られた範囲で起こることが知られています。また、万一感染してしまった場合、呼吸器に持病のある人や、重症の糖尿病の人が重症化することもわかっています。

 そうなると、まずは病院に近づかない、という対策をとることができます。当然ですが、マスクをするとかトイレから出たら手を洗うなど、一般的な風邪予防の対策をとることで感染の可能性を減らすことができます。

 もし、現在あなたの体調が悪く、喘息発作を起こす体質であったりした場合は、慎重に考えたほうがいいかもしれません。それは、本人が体調を考えて判断する、ということになります。

 さまざまな立場の人、さまざまな健康状態の人がいて、判断基準もさまざまです。どのように判断したとしても、その人の判断は尊重されるべき。単純に一つの物差しだけで判断できる問題ではないのです。日本にも感染者が入国する場合があるかもしれません。皆さんそれぞれの判断で行動しなければならないとき、冷静に考えることが何よりも大切です。

2015年5月26日火曜日

日本の曲がり角

 今、日本は曲がり角に来ているのだと思います。それは、今日から国会で審議が始まった、安全保障関連法案に関係するものです。皆さんはどのように考えておられますか。

 「平和をただ願うだけに終わってはならない。果敢に行動していかなければなりません」と国会で述べた安部晋三総理大臣。「果敢に行動」という意味は、法に基づく自衛隊海外派遣などの軍事的オプションを持つことによって、平和を願うべきなのだ、ということでしょう。

 私は、この議論はあまりに飛躍していると思います。歴史的に日本は複数の戦争を経験し、さらにその中で広島・長崎は原爆の惨禍に見舞われました。さらに、第五福竜丸はビキニ環礁での米軍の水爆実験による死の灰を浴び、被爆しました。私たち日本人は、戦争の恐ろしさや平和の尊さを、世界中に伝えるべき存在と思います。

 「平和をただ願うだけに終わってはならない」と述べられていますが、それではこれまでの政治家は、国内で、また海外で、「戦争は決して行ってはならない」「平和はかけがえのないものだ」ということを、積極的に、機会あるごとに、広く伝えてきた努力をしてきたといえるでしょうか。まずは憲法に示されている「平和主義」を、積極的に諸外国に広めることが先なのではないのかな、と思います。そのような活動を行わないまま、軍事的オプションを導入するための法整備を進めることは憲法の精神に反していると考えます。

 「平和を手に入れるより、戦争を始める方がはるかに易しい」とフランスの元首相・ジャーナリストであったジョルジュ・クレマンソーは言いました。議論になっている安全保障関連法が整備されてすぐ、日本が戦争を始めるとは思いませんが、諸外国には日本の姿はどのように映るでしょう。クレマンソーが「難しい」と言った平和を手に入れた日本が行うべきことは、「平和をただ願うだけに終わってはならない。この平和を希求する憲法を世界に広めていかなければなりません」ということだと思うのですが。

2015年5月19日火曜日

麻薬をつくる酵母菌?

 麻薬と聞くと、犯罪を連想するでしょうか。確かに麻薬は、資格をもった医師が適正に処方しなければならないことが法律で定められています。麻薬には強い鎮痛作用(痛みを止めるはたらき)があります。近代医療では、「がん」などの痛みの軽減のために麻薬が使用されているほか、非常に強い咳を鎮めるため、あるいは腰痛を伴うような激しい下痢などに対しても麻薬が使われることがあります。ふつうの人が考えているよりも、広い範囲で麻薬が使われています。

 アメリカで、酵母菌に麻薬を合成させようという研究が進められ、あと一歩というところまでたどり着いたということが Nature Chemical Biology に発表されました。酵母菌といえば、私たちにはとても馴染みのある菌です。いわゆる「アルコール発酵」をする菌で、醤油や味噌、酒などになくてはならない微生物。パンをふくらませるためにも使われます。

 この研究は、モルヒネのような複雑な化合物を、安全に、そして安価に合成できるようにすることが目的です。酵母菌の遺伝子の一部を作り変え、モルヒネを合成するための酵素を酵母菌がつくりだし、モルヒネの物質構造の一歩手前まで生成することができた、というものです。この研究が完成すると、ブドウ糖からモルヒネをつくることができるようになるわけです。

 もちろん、悪用されるための研究ではありません。今後、高齢化に伴って、モルヒネのような強力な鎮痛剤を必要とする人々が増えてくると考えられます。そのような中で、本当に必要な人に薬が行き渡るように、という研究です。

 しかし、犯罪に使われる可能性も否定できません。研究者には、このようなはたらきをもった酵母菌を病原体と同じように厳重に管理すべきだ、という意見を述べている人もいます。人々の幸せや、人類の叡智のために行われていた研究が、当の研究者が望まない方向に進んでいった事実を、現代の私たちはいくつも知っているはずです。適切な監視や管理はどのようなものなのか、本当にそういうことができるのかを、多くの人が議論することが必要かもしれません。このような問題に対して、科学ジャーナリズムができることを考えていかなければなりません。

<SMC-Japan.org から配信された情報を利用しています。>

2015年4月19日日曜日

選挙シーズン

 今、統一地方選挙が行われています。八王子では市会議員の選挙が26日(日)に行われる予定で、候補者が朝から選挙カーで応援を訴えています。近所の選挙ポスターの掲示板には、さまざまに目を引くポスターが貼られてもいます。

 さて、昨今の選挙での投票率の低さがマスコミで報じられていますが、皆さんはどうお感じでしょうか。具体的には、どのくらいの投票率なのでしょう。12日(日)に行われた統一地方選挙前半では、
・ 10道県知事選 47.14%
・ 41道府県議選 45.05%
・ 5政令市長選 51.57%
・ 17政令市議選 44.28%
となっていて(毎日新聞 2015/04/13)、いずれも過去最低の投票率だったとか。

 投票率が低いと、「本当に民意を反映しているのか」という疑問が生じます。一般に、選挙戦では候補者を支持する団体が存在する場合があります。そのような団体の組織力が強ければ強いほど、特定の候補者に対する投票数が多くなる、ということになります。知事選で投票率が50%を切っているということは、その地域の人々の半数以上は棄権しており、そのような人々は「誰も適切と考えない」という考えの反映であると考えることができるかも知れません。

 魅力的な候補者が立候補していない、という可能性はありますが、日本は民主主義の国であり、民主主義とは「いろいろな考えがあることを十分に認識した上で、よい方向に進みましょう」という考え方です。立候補者と有権者の考えが 100% 一致しているというということは通常ありません。さまざまな候補者の中から、自分にもっとも近い考え方の人物を選ぶということが必要です。

 「きっと誰がなっても変わらないから」とか「どうせみんな同じだから」といって、投票することをやめてはいけないと思います。そうすることは、民主主義を諦めることで、さまざまな考えを反映させることができなくなります。今一度、選挙広報を見たり、街頭演説などを聞いて、「自分の意見にもっとも近い人」を探してみてください。あなたが理想とする未来を実現させるための第一歩になるはずです。

2015年4月6日月曜日

平和を考える


 4月から入学した新1年生の皆さんは、今日までオリエンテーションや健康診断などを受けています。7日(火)から、いよいよ授業が始まります。

 大学はいろいろな建物がありますので、広いキャンパスの中、地図を見ながら歩く新入生を見かけます。そんな中、何人かが立ち止まって見ている石碑があります。

法政大学多摩キャンパス内の石碑


 経済学部棟の東側に設置されている、法政大学経済学部同窓会が設置した石碑です。何が書かれているかというと、

     多くの学生が業なかばにして
     軍や工場に動員され
     学園と学問を放棄せざるをえない
     不幸な時代があった
     50年前のことである
     君たちは決してそのような青春を送ってはならない
      1995年8月
       法政大学経済学部同窓会

との文言が石碑に示されており、下の金属プレートには英語・中国語・ハングル語で示されています。学生に語りかけているように書かれている文章ですが、よく考えると、これは「学生を戦場に送ってはならない」という、この大学で教鞭をとる教員に向けられている文章でもあります。

 平和な時代を過ごし、戦争が終わって70年も経てば、戦争の悲惨さを伝えることもどんどん難しくなっていきます。それでも、この石碑を眺めながら、戦争をするということはどういうことなのかを考えることはできるはずです。広島・長崎の原爆の日や終戦記念日にのみ、平和を考えるのではなく、日常から平和を考えてほしいと願っています。