2015年5月19日火曜日

麻薬をつくる酵母菌?

 麻薬と聞くと、犯罪を連想するでしょうか。確かに麻薬は、資格をもった医師が適正に処方しなければならないことが法律で定められています。麻薬には強い鎮痛作用(痛みを止めるはたらき)があります。近代医療では、「がん」などの痛みの軽減のために麻薬が使用されているほか、非常に強い咳を鎮めるため、あるいは腰痛を伴うような激しい下痢などに対しても麻薬が使われることがあります。ふつうの人が考えているよりも、広い範囲で麻薬が使われています。

 アメリカで、酵母菌に麻薬を合成させようという研究が進められ、あと一歩というところまでたどり着いたということが Nature Chemical Biology に発表されました。酵母菌といえば、私たちにはとても馴染みのある菌です。いわゆる「アルコール発酵」をする菌で、醤油や味噌、酒などになくてはならない微生物。パンをふくらませるためにも使われます。

 この研究は、モルヒネのような複雑な化合物を、安全に、そして安価に合成できるようにすることが目的です。酵母菌の遺伝子の一部を作り変え、モルヒネを合成するための酵素を酵母菌がつくりだし、モルヒネの物質構造の一歩手前まで生成することができた、というものです。この研究が完成すると、ブドウ糖からモルヒネをつくることができるようになるわけです。

 もちろん、悪用されるための研究ではありません。今後、高齢化に伴って、モルヒネのような強力な鎮痛剤を必要とする人々が増えてくると考えられます。そのような中で、本当に必要な人に薬が行き渡るように、という研究です。

 しかし、犯罪に使われる可能性も否定できません。研究者には、このようなはたらきをもった酵母菌を病原体と同じように厳重に管理すべきだ、という意見を述べている人もいます。人々の幸せや、人類の叡智のために行われていた研究が、当の研究者が望まない方向に進んでいった事実を、現代の私たちはいくつも知っているはずです。適切な監視や管理はどのようなものなのか、本当にそういうことができるのかを、多くの人が議論することが必要かもしれません。このような問題に対して、科学ジャーナリズムができることを考えていかなければなりません。

<SMC-Japan.org から配信された情報を利用しています。>

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