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2020年3月2日月曜日

3種類の「北極」

昨日の記事で、
・・・地球の自転軸の北端(北極点)と地球が磁石からできていると考えたときの「地磁気北極」とはわずかにずれています。じつはもう一つ、北極があるのですが・・・
と書きました。まず、地球には次の2種類の「北極」があります。
  • 自転軸の北端(北極点)
  • 地球が磁石であると考えたときの「地磁気北極」

このうち地磁気北極はあまり聞いたことがないかもしれません。これは地球内部に長い棒磁石が埋まっていると考えたときに、棒磁石と地表とが交わる場所のうち、北にある方です。2020年の地磁気北極の位置は、北緯 80.7度、西経 72.7度(クィーンエリザベス諸島付近)にあるとされています。

残りの「北極」とは「北磁極」です。これは、磁場がつくる磁力線が地表で鉛直になる場所で、この場所では方位磁針が上下を向くことになります。棒磁石を厚紙の下に置き、砂鉄を厚紙の上に撒いて厚紙を少し揺らせば、砂鉄が棒磁石のN極とS極を結ぶ曲線を描きます。この曲線が磁力線です。地球の磁場は北半球と南半球で対称になっているわけではないので、棒磁石で見られるようにきれいな対称形にはなりません。

地球の磁場は地球内部(約3,000キロメートルの深さ)にある外核での液体の鉄の運動によって変化すると考えられています。地球の磁場の変動が近年は大きくなっており、2019年の観測では、北磁極の位置は1年で55キロメートルも移動していることがわかりました。北磁極の位置の変化の様子自体も、かなり不規則に変化するのですが、近年の変化はかなり大きいということです。しかし、南磁極の位置はそれほど変化していないとか。北磁極の大きな変化の原因はよくわかっていません。

地球の内部深いところで起こっている変化を理解するには、まだまだ時間がかかりそうです。


2020年3月1日日曜日

東向きの方位磁針は作れる?

3月1日(日)のNHKラジオ「子ども科学電話相談」(10:05〜11:50)に科学担当で回答しました。今回は番組内で「鉄道」の質問と合わせて10問が取り上げられました。質問を寄せていただいたお友達や、放送をお聞きいただいたみなさま、ありがとうございました。

それらの質問の中に、『東を向く(方位)磁石はありますか?』という小学校3年生のお子さんからの質問がありました。お子さんの質問を聞いた瞬間には、

  • Q:どうして方位磁針は北と南を向くのか?

という質問だと考えました。そのため、

  • A:方位磁針とは赤い針が北を向くもので、それは地球が大きな磁石になっているから。東というのは北でも南でもないので、針が向くことはない

という回答を思いついたのですが、その直後、いくつか疑問が浮かびました(回答者なのに…)。もしかすると、この質問は

  • Q’:東を示すようなしくみをもった器械を作ることはできないのか?

という質問なのかなと(なぜか)瞬間的に考え直し、先ほどの回答に加えて

  • A':北を向いた針と直角に針をつければ、東の方角を向く器械を作ることができます。北に向かって右手を東というのですよね

というようなことを回答しました。お子さんは納得(?)してくれましたが、お子さんのこの質問には次のような内容が含まれていたのでした。

  • Q'':将来的に東の方向が変わることはないの?

という、とてもおもしろく、興味深い疑問です(私はどうして将来的に東が変わるかもしれない、と思ったのかを聞いてみたい衝動に駆られたのですが)。地球は大きな磁石になっていますが、それは方位磁針のN極が北を向くということから、地球という磁石は北極が磁石のS極、南極が磁石のN極であることになります。ところが、この状態は過去も、そして未来も続くわけではありません。今から77万年前から258万年前までは、北極が磁石のN極、南極が磁石のS極であったことがわかっています。このようなことを「地磁気逆転」といいます。過去360万年の間に11回の逆転現象がありました。

ごく簡単に、このようなことを回答したのですが、私の頭の中に、一つ大きな疑問が浮かんでしまいました…

  • Q''':地磁気が逆転するとしたら、東という方角を現在と同じように定義できるのだろうか? もし逆転したとしても、これまでと同じ方向を北と定義し直したりすることもあったりして…    最近の地磁気逆転が起こった77万年前は、このような方角などという文化はなかったわけだし…

と考え出し、『あ、そっか…   (東の定義を考え直す必要があるかもしれない…    でも、今の質問はこういうことじゃないから)まぁ、いいか』という独り言が、しっかり放送に流れてしまったのでした。


これまでにこのような地磁気の逆転現象があったわけですから、今後も同様にこのようなことが起こると考えられますが、それがいつのことかはわかりません。この回答中、私が大学生のころ、この地磁気逆転に非常に興味を覚えていろいろな専門書を読んだ記憶が鮮明に甦りました。

さらにもう一つ言えば、地球の自転軸の北端(北極点)と地球が磁石からできていると考えたときの「地磁気北極」とはわずかにずれています。じつはもう一つ、北極があるのですが、そのことはまた明日。

2018年9月18日火曜日

夏休み子ども科学電話相談

今年も NHKラジオ「夏休み子ども科学電話相談」が8月31日(金)に無事に終了しました。ただ、今年の放送では、この番組のすべての放送の「聞き逃し」サービスが、9月末日まで延長されています! 聞き逃しはこちらからアクセスできます。さらに、いくつかの質問は NHK が文字起こしをして、ホームページに公開されています。ぜひ多くの方々にお聴きいただき、またテキストをご覧いただきたいと思います。

この番組で私は「科学」という分野を担当していますが、この「科学」という枠組みはとても広いと思われがち。でも、世の中のすべての現象はきっと「物理学」という学問で説明できると信じて(?)いる私にとっては、いかに矛盾なく現象を説明できるか、ということを考えて説明しています。物理学といえば、みなさんもすぐに連想するであろう、運動・熱・波などを扱う分野です。これらの法則を使って、きっと世の中は説明できるだろうと考えて、小さなお友だちにもわかるように説明しているのです…

毎日の天気の移り変わりや、テレビに映像が出るしくみ、生き物の心臓が動くことも、物理的に説明することができます。物理というのは自然科学の分野のなかでも、もっとも基本的な領域なのです。

「なんでも科学で説明できます」と言っても、世の中には現代の物理では説明できないことがあるかもしれません。でも、それはきっと、

  • 私たちがまだ知らない科学法則があるから
  • 私たちが見たり認識したりした現象が、じつは正しく認識されたものではなかったから
のどちらかなのだろうなぁ、と私などは思ってしまいますが。

でも、子どもたちはそんなことにお構いなく、質問を投げかけてきます。こんな質問には、みなさんならなんと答えますか? 「妖怪って、いるんですか?」

これはかつての放送で実際に取り上げられた質問で、私が答えた(「これも科学なの?」とネット上で呟かれたのですが)ものですが、みなさんなら、なんと答えますか? 後ほど、私からの回答を取り上げます。それまで、みなさんの回答をご用意ください。



2018年8月29日水曜日

コアラのゲノムを解析!

法政大学の私のゼミナールでは、最先端の科学研究の成果を伝える Nature Video の内容について解説記事を作成し、Nature ダイジェストのホームページから発信されています。8月号の記事が公開されましたので、ご紹介します。

今月は「コアラのゲノム解析」についての話題です。愛くるしい姿で多くの人気を集めるコアラですが、出産した子どもを腹部の袋で育てるという、オーストラリア大陸で特異な進化を遂げた動物の一種。動画にはとても可愛いコアラが収められています。

コアラは、多くの動物が食べないユーカリを食べて生きています。ユーカリの葉には毒があり、ふつうの哺乳類が食べてしまうと死んでしまうほどの強い毒をもっています。なぜ、コアラはそんなユーカリを食べることができるのでしょうか?

また、コアラの世界では「クラミジア」という感染症が大流行しています。コアラにとってクラミジアは失明、膀胱炎、さらには不妊の原因となる病気。野生動物の病院に入院するコアラの40%は、クラミジア感染症の末期の状態にあるといわれます。なぜ、コアラの間でクラミジアが流行しているのでしょうか?

それらの問いの答えは、コアラのゲノム解析によって明らかになっていくでしょう。ほかにも、コアラを含む有袋類という種類の動物に共通と考えられている、母乳の大切な役割についても解説されています。


ブログをお読みの方で、なにかご質問がありましたら、こちらからお寄せください。ご遠慮なくどうぞ。

2018年8月27日月曜日

「不安定な」大気って…?

ブログをご覧の方から、質問をいただきました。「不安定な大気って、なにが『不安定』なのですか? 天気が不安定っていうこと?」というものです。

27日の関東地方は、まさにこの「大気が不安定な」状況になり、急激な雷雨が発生しました。東京では浸水被害もあったとニュースで伝えられています。

確かに、大気が不安定になると、結果的に天気は急変します。大気の不安定とは、「大気の構造が非常に変化しやすい状態になる」ことをいいます。ものの性質として、同じ体積だと温かいものは上方に、冷たいものは下方に運動します。よく混ぜていないお風呂と同じです。とくに沸かしたばかりのお風呂では、上は熱くても下の方は冷たいことがありますね。

大気の上の方が冷たく、下の方が温かい場合、下にある大気が上に向かって上昇していきます。すると大気が冷やされていくので、大気に含まれていた水蒸気が水滴や氷の粒となって現れてきて、急速に雲が発生します。このような雲は「積乱雲」です。温かい大気が大量に存在すると、それだけ積乱雲も大きくなります。

積乱雲の内部では、水滴や氷がぶつかることで静電気が発生し、雷が発生します。ぶつかることによって大きくなった水滴などは重くなり、上昇気流で浮かんでいることができなくなり、雨となって地表に降ってきます。このようにして、激しい雷雨が起こるのです。


ブログをお読みの方で、なにかご質問がありましたら、こちらからお寄せください。ご遠慮なくどうぞ。

2018年8月2日木曜日

サンゴ礁を取り巻く危機

Nature Video の日本語解説記事の最新版が、Natureダイジェストのウェブページにアップロードされました。この暑さですので、涼しげなサンゴの研究を取り上げました。ぜひ、お読みください。簡単に内容をお伝えすると…

サンゴ礁は「海の熱帯雨林」とも呼ばれており、多くの生き物のすみかとなっていて、生態系で重要な役割を果たしています。サンゴ礁はクラゲやイソギンチャクと同じ仲間のサンゴによって造られます。そう、サンゴ礁は動物が造ったものなのです。サンゴは石灰質の骨格をつくります。小さな小さなサンゴが、長い年月をかけて大量に集まってサンゴ礁を造り上げていたのです。

サンゴの生態はよくわかっていません。それは、小さなサンゴを海中で直接観察することが難しい、ということがあります。近年、海中で使用できる顕微鏡が開発され、サンゴの生態が明らかになってきました。ウェブページの映像をご覧ください。

そのサンゴ礁が、危機に脅かされています。それは海水温の上昇と、海中のゴミのためです。サンゴは海水温が高くなると、内部に共生させている「褐虫藻」という植物が逃げ出してしまい、最悪の場合はサンゴが死んでしまうのです。また、海中に捨てられたゴミがサンゴを傷つけ、プラスチックの表面に付着した病原菌がサンゴを弱らせているのではないか、という研究も報告されています。

プラスチック製品は私たちの生活を便利にしてくれましたが、環境に及ぼす影響は、私たちが考えているよりも大きいようです。つい最近、スターバックスがプラスチックストローの削減を発表しました。プラスチックを使っても、どこかに捨てるのではなく、定められた方法できちんと処分するということが、私たちにできる方法かもしれません。


2018年8月1日水曜日

トンネルと新幹線

今日から8月。すでに NHKラジオ第一放送の「夏休み子ども科学電話相談」が7月23日から始まっておりましたが、私のこの夏の担当は今日が初日。いろいろな質問が寄せられておりました。

さて、本日の放送で取り上げた、「新幹線はどうして滑り台みたいな形をしているの?」という質問への答えで、私が考えていた内容を正しく伝えられなかったところがあったように思っていました。

新幹線の先頭の形が滑り台みたいな形(流線型)をしているのは、2つの理由があります。

  1. 空気が乱れず、スムーズに流れるようにすることによって、より速く走行できるようにするために、流線型になっています。
  2. 列車がトンネルに入ったとき、反対側から「ドーン」という音が発生します。この音は、空気鉄砲と同じようなしくみで発生するものです。トンネルに列車が入ると、トンネル内の空気がぐっと縮められます。トンネル内の空気を、列車が「押し込んで」いるわけです。この押し込まれた空気が、音の原因です。この空気はそのままトンネル内を進み、トンネルの出口まで到達すると一気に解放され、「ドーン」という音が発生します。この音の発生をできるだけ抑えるためには、トンネル内の空気を一気に押し込まないようにすればいいわけです。そのため、新幹線の先頭の形は、流線型になっています。
放送では「空気がトンネルから出るときに音が出る」のか、「列車がトンネルから出たときに音が出る」のかについて、適切に伝わらなかったようで、失礼いたしました。上に書いたとおり、「空気がトンネルから出るときに音が出る」のです。

番組の最後にもお話ししましたが、気をつければ正しく伝わるところを、うまく説明できないと、「もやもや」します。飴玉をお湯に入れたときの「もやもや」が気になるように、「もやもや」は気になるもの!?

2018年7月31日火曜日

火星、土星、木星・・・

東京の町田市にある法政大学多摩キャンパスは、自然が豊かな環境にあります。当然、夜空にはきれいな星を見ることができます。ということは、今夜の火星大接近を見てみたくなるのは誰でも同じ。

「明日は朝早いので…」とやや後ろ向きな私(じつは天体望遠鏡を操作するのがあまり得意ではない…)でしたが、いろいろな人々に要望(?)され、天体望遠鏡を出して火星を観ることに。この時期は火星だけでなく、土星や木星も観測できます。土星はリングが存在する様子を確認できるのでは、と期待して望遠鏡を向けていきます。

学生たちだけでなく、「大きなお友達」にも声をかけてみました。そのときの写真が下のものです。一人がレンズを覗きながら、「あ、わぁー」と声をあげると周りの皆さんは笑い声を上げますが、じつは皆さん、大なり小なり同じような歓声を上げます。

観測している前を車が通り過ぎました。キャンパス内の
この場所はほとんど街灯がなく、観測には最適です。
インターネットやテレビ、図鑑などを見れば、きれいな写真を見ることはできますが、やはり自分の目で見ることが大切なのかもしれません。「科学する心」というのは、今日の土星や火星を見たときのような、臆せず歓声を上げられる心なのかもしれませんね。

2018年7月30日月曜日

火星大接近!

ここ数日であれば、真夜中に真南の30°くらいの高さに、赤く輝く星を見ることができるはず。これは火星です。国立天文台は「今日のほしぞら」というホームページを通じて、どんな天体が、いつ、どの位置に見えるかという情報を提供しています。このページは天体観測の強い味方になりそうです。

新聞やテレビでも大きく取り上げられているとおり、火星は7月31日に地球に大接近します。これから9月ごろまでは明るく輝いて見えているので、明日が曇って星を見ることができなくても、次の機会を待ちましょう。

大接近といっても、このときの火星までの距離は 5759万キロメートル。月までの距離の150倍という遠いところにある天体ですので、双眼鏡で何かが見えるというわけにはいかないようですが、天体望遠鏡を使えば、火星表面の模様は確認できるとのこと(ビックカメラの特設ページ)。

「これを機会に天体望遠鏡を買おう!」という人以外は、近くの科学館やプラネタリウムで観望会などが行われるでしょうから、ぜひお出かけください。「科学館」とお住いの地名などでインターネット検索をすれば、近くの施設を知ることができるでしょう。

子どもたちにとっても、思い出に残る夏休みになるといいですね。

2018年7月24日火曜日

太陽系の過去のピースを持ち帰る

数日前、日本の小惑星探査機「はやぶさ2」の現在の状況について、宇宙航空研究開発機構(JAXA)から記者発表がありました。現在(7月24日)は、「はやぶさ2」は小惑星リュウグウから20キロメートル離れたところに位置しています。8月に入ると、リュウグウから5キロメートルのところまで接近して、表面の状況などを観測することになっています。

「はやぶさ」は、世界で初めて小惑星(イトカワ)の一部を地球に持ち帰り、その成分を分析したという成果を残しました。「はやぶさ2」はその後継機であり、「はやぶさ」を上回る成果を得るため、さまざまな工夫が凝らされています。

この「はやぶさ2」が何を目的をしていて、どんな工夫がされているかを紹介した Nature Astronomy に掲載された日本語記事『太陽系の過去のピースを持ち帰る』(原題:“Bringing home a piece of our past” が一般公開されていますので、ぜひご覧ください(無料でご覧いただけます)。

Nature Astronomy は天文学の最新の成果が発表される学術雑誌です。科学探査機の目的や、期待される成果などが詳細に紹介されることもあります。今回は「はやぶさ2」による探査に関して取り上げられた記事が掲載され、多くのみなさんに知っていただくために日本語に翻訳されました。

「はやぶさ2」の最新の状況は、こちらのページで確認できますので、関心のある方はご覧ください。

2018年7月23日月曜日

つまめる水!?

今日は法政大学多摩キャンパスの近くにある、グリーンヒル寺田という団地で、サイエンスカフェが行われました。この団地には「グリーンヒルおひさま広場」と名付けられた部屋で、法政大学がこの地域のみなさんとの交流活動を行なっています。

昨年度は、私がサイエンスカフェで科学に関するいろいろな話をしたり、夕方から夜にかけて「星空探検隊」と称した観望会などをそれぞれ3回ほど行なったりしました。今年度は今日が第1回目です。

子どもたちも夏休みに入ったこともあり、また暑いので水を使った実験を行いました。今日の実験テーマは「『つまめる水』をつくろう!」です。大勢の子どもたちと「大きなお友達」で会場が満席になりました。この実験は、食品添加物となっているものを使ってつくるものですので、子どもたちも安心して参加できます。

金曜日から日曜日の3日間で、子どもたちにも簡単にできるように実験をしてみましたが、私の作った「つまめる水」は下の写真のものです。私が3日間で習得した技術を、子どもたちは30分で獲得したという…



今日の子どもたちの作ったものは、食用色素やジュースで色をつけたので、もっと見栄えのするものになりました。小さな滴になるようにすると、まるで「人工イクラ」のように見えたり、うすい緑色をつけると涼しげに見えたりと、みなさん楽しんで参加されていました。

この実験は、アルギン酸ナトリウム(昆布のねばりの主成分)の水溶液を、乳酸カルシウムの水溶液に入れることでできあがります。中身は水ですので、水を持ち運ぶことができるわけです。これはイギリスの研究者たちが “Ooho!”(オーホー)と名付けてレシピを公開したもので、ペットボトルなどを使わずに水を持ち運ぶ方法を探ったものです。

実験中の写真があると、とても楽しそうに実験に取り組む子どもたちと「大きなお友達」の姿をみなさんにもご覧いただけたのですが、そこまで気が回らなかった私。今日の実験は、法政大学経済学部4年生の井藤大輔くんが「実験のお兄さん」として大活躍してくれました。ありがとうございました。

子どもたちは楽しい夏休みを過ごせるといいですね。

2018年7月22日日曜日

海水から真水をつくる

先日の海の塩分の質問をされた方には、もう一つの質問がありました。「海水からどうやって真水をつくるのですか」というものです。

大きく分けると2種類の方法があります。一つは、海水を蒸留させて、真水にするもの。海水を温めていくと、やがて液体の水がどんどん水蒸気となっていきますが、この水蒸気を集めて冷やすと、液体の水に戻ります。これらを集めて、使用するものです。海水を加熱する必要があるため、運用し続けるにはそれなりにコストがかかりますが、中東諸国ではこの方法を用いて真水を手に入れています。

もう一つは、海水を膜を通して塩分を除き、真水にするものです。非常に目の細い膜を通すため、水に強い圧力をかけて濾しとる(ろ過する)ことになります。そのときに使われている膜は、下の写真にあるようなものです。真ん中に濾しとられた水が通ります。膜自体は非常に小さな穴(2ナノメートル以下(ナノメートルは1ミリメートルの百万分の一)が空いていて、そこを海水が通り抜けて、不純物を通さないようにしているわけです。

©︎ David Shankbone

蒸留する方法でも、ろ過する方法であっても、採取された真水は飲み水にするためには適していない段階で、殺菌や滅菌、あるいいはミネラルを添加して飲めるようにする必要があるそうです。

2018年7月8日日曜日

どんな種類の鳥の卵も、食べられるの?

前回の話題に引き続き、いただいた質問にお答えしていきます。今回の質問は、「にわとり以外の鳥の卵でも食べられるのでしょうか」というものです。もしかすると、ご家族の健康維持のために、毎日の献立に取り入れる卵料理を考えているときに、ふと生じた疑問かもしれません。

現在、私たちが日常的に利用している「鳥の卵」は、よく知られているとおり、ニワトリの卵ですが、鳥には野鳥も含めて、多くの種類があり、それらも当然、卵を産みます。卵は非常に栄養価が高いため、自然界では多くの生き物が野鳥の卵をえさとして狙っています。

大昔、私たち人間がまさに自然界の中で生きていたときには、おそらくほかの動物と同じように、さまざまな鳥の卵を食べていたのではないか、と一般に推測できると思います。現代社会でも、ニワトリ以外の卵を実際に食べる例があります。たとえば、比較的小さい大きさである、アヒルやガチョウの卵はヨーロッパで食用とされていますし、日本でもウズラの卵は一般的です。世界最大の鳥といわれるダチョウも、その卵が食べられています。

しかし、多くの国では野生の鳥やその卵を捕獲することは、法律などで禁止されています。日本も「鳥獣保護法」によって、許可なく鳥やその卵を捕獲することは禁止されています。

法律で禁じられているというだけでなく、野生の鳥の卵を、店頭で売られているニワトリの卵と同様に扱うことは衛生的にも望ましくありません。野生の鳥の卵の外側には、食中毒を引き起こす可能性のあるサルモネラ菌などが付着していることがあるためです。

店頭に並んでいるニワトリの卵は、養鶏場で卵が集められた後、消毒・洗浄・乾燥され、パックに詰められて出荷されます。この手順が示された有限会社サカイフーズのホームページがありますので、ぜひご覧ください。

2018年7月4日水曜日

海はどこでも塩の濃度は同じなの?

気がつくと、もう7月。東京は梅雨が明けましたが、今日は一日中、降ったり止んだりの天気でした。

さて、知り合いの方から質問が寄せられました。「海は世界中でどこでも同じ塩分なのでしょうか」というものです。海はすべてつながっていることは、いわば常識。ということは、海水の塩分だって、どこでも同じだと思ってしまいますね。

つながっているはずの海ですが、塩分はじつは違っています。

海の水が蒸発することが多いところでは、塩分は高まります。大西洋の亜熱帯の海は、世界の海でも塩分が高く、おおよその数値は 3.58〜3.78パーセント。太平洋では 3.42〜3.56パーセントほど。海に大量の川の水が流れ込んだり、流氷が融けたりする地域の海で塩分は低くなります。地球上では北極付近の海が、もっとも塩分が低く(3.12パーセント)なります。

大洋の年間平均の表面塩分の分布 ©︎ Plumbago

地球上の海で塩分を平均すると、およそ3.5パーセントになるそうです。上の図を見ると、地中海は塩分が特に高いようです。地中海は大きな海流の直接的な流れ込みがないことと、海面からの蒸発量が多いためです。

表面の塩分には、海の場所によって違いがありますが、深さ方向にも違いがあります。塩分が高いということは、密度も高いことになりますので、海底に向かって沈み込んでいきます。この塩分が海の深さによって違いがあるこということで、「海の大循環」という、地球全体での大きな海の流れが起こっているのです。

2018年5月21日月曜日

人間の中での菌のバランス

「菌を移植」と聞くと、少しゾッとするかもしれませんが、近年、人間にとっての細菌の重要性が明らかになってきています。腸内細菌もその一つ。私たちの腸の内部には3万種類にも及ぶといわれる細菌が、およそ数百兆個も存在しているとか。私たちの腸の内面は小さなひだのような構造をとっており、腸の内面の表面積はテニスコート1面分にも相当するといわれます。

腸内細菌は、ビタミンを合成したり、消化を助けたり、あるいは腸に集まってくる免疫細胞をコントロールする役割をも担っているということがわかってきました。いろいろな人の腸内細菌の種類を調べると、その人の生活環境に応じて最近の種類やそれらの比率が異なっていることがわかっています。

潰瘍性大腸炎やクローン病などの腸の疾患に対して、健康な人の腸内細菌を移植するという治療法が研究されています。これらの疾患は、腸内細菌のバランスが乱れてしまった状況で起こるのではないかと考えられており、患者さんの腸内細菌を一度、抗生物質によって最近をリセットしてから、健康な人の糞を内視鏡で移植する、というものです(当たり前ですが、自分勝手に判断してはいけません)。

さらに、アトピー性皮膚炎に対しても、健康な人の皮膚の常在菌を移植することによって治療を行うという治療法も研究されています。アトピー性皮膚炎は、皮膚の常在菌の種類のバランスが崩れている可能性があり、このバランスを改善することでアトピー性皮膚炎の治療に結びつくのではないか、という研究が進められています。

自然界のバランス(生態系)を守っていくことが大切であると各方面で指摘されていますが、人間の体内の細菌バランスも考えなければならないのですね。

2018年5月15日火曜日

80地点で真夏日だった、ということですが・・・

今日は暑かったと、どのニュース番組でも伝えられていました。私が住んでいる八王子市も、気温は上がっていたようですが、室内にいるだけだとそれほど感じません。まだ建物が温まりきっていないせいかもしれません。室内が暑くなるのも、もうすぐかもしれませんが・・・

某ニュース番組では、「国内の80地点の観測地点で、30度以上の真夏日となりました」とアナウンスされていました。今日の暑さを感じると、80地点は多いなぁ、と感じるかもしれません。でも、よく考えてみると、全国の観測地点とはいくつかなぁ、とも思います。もし、全観測地点が100地点だとすれば、80地点は多いかもしれませんが、全観測地点が1,000地点であれば、多くはありません。全国でいくつ観測拠点があるのかも伝えてくれれば、「確かにたくさんあるよね」と納得するのですが・・・

もちろん、誤った伝え方であるとは言えませんが、数字がどのような意味をもつのか、ということは「全体と部分」、あるいは「数字と単位」などに注意しながら考えなければなりません。広告はこのあたりをうまく使っています。

たとえば、栄養ドリンクに含まれているタウリンを多く含んでいますよ、ということを強調するためには、「タウリン 1000mg 配合」と書いた方が、「タウリン 1g 配合」と書くよりも印象が強くなります。1000 mg も 1 g も同じことです。こういう数字のマジックにごまかされながら(?)、私たちは商品を選んでいるのかもしれませんね。

全国で観測地点がいくつあるのかは、宿題ということで。


2018年5月6日日曜日

火星探査機 “InSight”

5日の朝7時(米国東部標準時間)、アメリカのカリフォルニア州バンデンブルグ空軍基地から、NASAの火星探査機 InSight(インサイト:Mars Interior Exploration using Seismic Investigations, Geodesy and Heat Transport)が打ち上げられました。InSight は今年11月に火星の赤道付近に着陸し、火星の地震に関する調査や地形の測地、熱の計測などを通じて火星内部の構造の研究データを収集する予定です。

火星は地球の外側に位置する惑星で、地球から見ると赤い星として観測できます。赤く見える理由は、表面に酸化鉄が大量に存在しているため。酸化鉄とは私たちの身の回りでいうと、赤さびです。これまでも火星には探査機が打ち上げられており、表面の様子が写真撮影されています。

下の写真は、現在も運用されているNASAの火星探査機キュリオシティが撮影したもの。火星のシャープ山(Mt. Sharp)からの光景です。

(C) NASA/JPL-Caltech

このように、火星にはこれまでも探査機が送られています。今回のインサイトの特徴は、火星で起きている地震を探査し、内部の状況を明らかにしようとする点にあります。火星内部を探査することで、太陽系の地球型惑星がどのようにして形成されたのか、という手がかりをつかむことができると考えられています。

2018年5月5日土曜日

足尾銅山で使われた削岩機

前回紹介した「足尾銅山写真データベース」から、1枚を示します。足尾銅山でどのような技術が使われていたかを知ることができます。下の写真をご覧ください。

所有:小野崎敏氏

鏨岩機(さくがんき)とは削岩機のこと。削岩機にはドリル式とハンマー式があり、圧縮された空気で動かしたものです。削岩機で岩盤に孔をあけ、そこにダイナマイトを挿入して発破しました。このような技術によって採鉱の効率が上がったことで、銅の生産の飛躍的増大が可能となりました。



圧縮された空気は地上のコンプレッサーでつくられ、数キロ離れたところからパイプで送られていました。コンプレッサー自体の動力は、初めは木材を燃やして駆動していましたが、次にスチーム、やがて電気となりました。足尾銅山で水力発電が早期に建設された理由の一つだったのです。




削岩機のホースはこの写真では1本。削岩機を使用すると、視界を遮るほどに粉塵が発生したとのことです。肺に沈着すると珪肺病(よろけ)にかかってしまいますが、この時代では作業員の安全対策はとられていませんでした。その後、削岩機に2本のホースが取り付けられるようになります。1本は圧搾空気、もう1本は水で、この水が粉塵対策でした。


この写真は、実際の作業を行なっている場面ではないことがわかっています。というのは、実際の採掘作業では、上下方向で2カ所を掘削することはありえないためです。万一、上の部分からの岩石が落下した場合、下で作業している人が怪我をする恐れがあるため。この写真は、作業員が撮影のためにポーズをとったものと考えられています。

2018年5月2日水曜日

雨が降ったときの匂い

5月の雨が降っています。毎日晴天ばかりだと雨不足になってしまいますから、適度な雨も必要です。

NHKラジオの「夏休み子ども科学電話相談」で、毎年寄せられる質問に「雨が降ると、どうして匂いがするのですか」という質問です。みなさんはそんな匂いを感じることはありますか。コンクリートに囲まれたオフィス街の真ん中で過ごしていると、なかなか感じないかもしれませんが、ちょっとした植え込みなどでも感じられるものです。

この匂いは「ゲオスミン(ジオスミンとも呼ばれます。英語では geosmin)」という物質です。土の中の微生物がつくりだすもので、もともと土の中に含まれています。雨が降ることで土の表面がわずかにかき乱されて、内部のゲオスミンが空気中に出てきて、私たちはこの匂いを感じるそうです。

「雨の匂い」と表現されますが、「カビのような匂い」と表現する人もいます。実は、人間はこのゲオスミンの匂いにはとても敏感で、ほんのわずか(5 ppt = 5兆分の1)の濃度でも、この匂いを感じるとか。あまりに高い濃度では具合が悪くなりそうですが、雨の匂いは落ち着く、という人もいるようです。図書館の地下書庫に入ると、なんとなく落ち着きますが、それはわずかなカビの匂いに理由があるのかもしれませんね。

2018年4月30日月曜日

宇宙の外側はどうなっているか

物理学の授業では、毎回の授業内容の確認問題と合わせて、学生がどのような感想をもったか、何か質問があるか、などを自由に記述してもらうことにしています。多数の質問が寄せられますが、もっとも多いものの一つが、
宇宙の外側はどうなっているのか
というものです。

これは実に難しい質問でもあります。私たちが知っている物理法則は、「この」宇宙の内側で成立すると考えられているものです(例外はブラックホールの内側)。言い方を変えれば、この宇宙ではないところ(たとえば「宇宙の外側」や「別の宇宙」)では私たちの知っている物理法則が適用できるかどうか、を判断する材料はなにもありません。

そういう意味では、この宇宙の外側にどういうものが存在しているのか、どのような世界になっているのか、ということについての現代物理学の答えは「わからない」ということです。それでも、宇宙は「真空」から生じたという理論が広く受け入れられていますので、「真空」という言葉はキーワードになるかもしれません。このあと、少しずつ宇宙論についても紹介することにしましょう。