2018年5月21日月曜日

人間の中での菌のバランス

「菌を移植」と聞くと、少しゾッとするかもしれませんが、近年、人間にとっての細菌の重要性が明らかになってきています。腸内細菌もその一つ。私たちの腸の内部には3万種類にも及ぶといわれる細菌が、およそ数百兆個も存在しているとか。私たちの腸の内面は小さなひだのような構造をとっており、腸の内面の表面積はテニスコート1面分にも相当するといわれます。

腸内細菌は、ビタミンを合成したり、消化を助けたり、あるいは腸に集まってくる免疫細胞をコントロールする役割をも担っているということがわかってきました。いろいろな人の腸内細菌の種類を調べると、その人の生活環境に応じて最近の種類やそれらの比率が異なっていることがわかっています。

潰瘍性大腸炎やクローン病などの腸の疾患に対して、健康な人の腸内細菌を移植するという治療法が研究されています。これらの疾患は、腸内細菌のバランスが乱れてしまった状況で起こるのではないかと考えられており、患者さんの腸内細菌を一度、抗生物質によって最近をリセットしてから、健康な人の糞を内視鏡で移植する、というものです(当たり前ですが、自分勝手に判断してはいけません)。

さらに、アトピー性皮膚炎に対しても、健康な人の皮膚の常在菌を移植することによって治療を行うという治療法も研究されています。アトピー性皮膚炎は、皮膚の常在菌の種類のバランスが崩れている可能性があり、このバランスを改善することでアトピー性皮膚炎の治療に結びつくのではないか、という研究が進められています。

自然界のバランス(生態系)を守っていくことが大切であると各方面で指摘されていますが、人間の体内の細菌バランスも考えなければならないのですね。

2018年5月15日火曜日

80地点で真夏日だった、ということですが・・・

今日は暑かったと、どのニュース番組でも伝えられていました。私が住んでいる八王子市も、気温は上がっていたようですが、室内にいるだけだとそれほど感じません。まだ建物が温まりきっていないせいかもしれません。室内が暑くなるのも、もうすぐかもしれませんが・・・

某ニュース番組では、「国内の80地点の観測地点で、30度以上の真夏日となりました」とアナウンスされていました。今日の暑さを感じると、80地点は多いなぁ、と感じるかもしれません。でも、よく考えてみると、全国の観測地点とはいくつかなぁ、とも思います。もし、全観測地点が100地点だとすれば、80地点は多いかもしれませんが、全観測地点が1,000地点であれば、多くはありません。全国でいくつ観測拠点があるのかも伝えてくれれば、「確かにたくさんあるよね」と納得するのですが・・・

もちろん、誤った伝え方であるとは言えませんが、数字がどのような意味をもつのか、ということは「全体と部分」、あるいは「数字と単位」などに注意しながら考えなければなりません。広告はこのあたりをうまく使っています。

たとえば、栄養ドリンクに含まれているタウリンを多く含んでいますよ、ということを強調するためには、「タウリン 1000mg 配合」と書いた方が、「タウリン 1g 配合」と書くよりも印象が強くなります。1000 mg も 1 g も同じことです。こういう数字のマジックにごまかされながら(?)、私たちは商品を選んでいるのかもしれませんね。

全国で観測地点がいくつあるのかは、宿題ということで。


2018年5月14日月曜日

海外にお金を送る

みなさんは海外にお金を送ったことはありますでしょうか。最近はインターネットで海外から商品を購入することもできるようになりましたので、いくつかの手段を経験した方もおられるでしょうか。

最近の気軽な方法といえば、PayPal でしょうか。これは、インターネット上に口座をつくり、これらの口座間で資金をやりとりする方法です。日本の利用者の場合、自分の PayPal の口座には銀行振込などではなく、クレジットカードから口座に入金しなければなりません。クレジットカードを持っていない人は利用できないという欠点はありますが、手数料が安いということもあり、広く使われているようです。ただ、かつてクレジットカードの番号を不正に入手し、PayPal を利用して現金化したという犯罪に使われたこともありました。最近はセキュリティーも厳しくなり、そのようなことに利用されないような工夫もされているようです。

ほかの方法としては、銀行口座にあてて送金するものがあります。こちらは各国の銀行が行うものですので、安心感をもって利用できます。ただ、海外の銀行口座を特定するために使われる方法(SWIFTコードやBICコード)があり、なかなか理解しにくい上に、日本では使われていない指定コード(IBANコード【欧州で使われる】やABAコード【米国で使われる】)などが海外振込依頼書に書かれており、銀行の担当者に聞かなければわかりにくいという問題があります。また、送金手数料が非常に高い(円貨口座から送金する場合、最低でもおよそ5,000円程度の手数料になる場合も)ことも事実です。

あるいは、為替証書や小切手で送付する、という方法もあります。銀行送金に比べて手数料も安いという利点があり、万一途中で紛失されてしまっても、取消手続きを行うこともできます。相手に届くまでに時間がかかるという欠点もあるのですが。

私に関係するところでは、国際学会に出席する場合の参加費など、ほとんどの場合がクレジットカードでの決済です。銀行振込の方法は立替払いができないときなど、特別な事情でなければ使われなくなっています。海外にお金を「送る」ということ自体が、クレジットカードの普及でかつてよりも格段に少なっているかもしれませんね。

2018年5月11日金曜日

科学ジャーナリスト賞2018

日本科学技術ジャーナリスト会議が科学技術に関する報道や出版、映像などで優れた成果をあげた人を表彰する、「科学ジャーナリスト賞」の今年の受賞者が先日、発表されました。

今年の科学ジャーナリスト大賞は、信濃毎日新聞社編集局 「つながりなおす」取材班(代表 小松恵永氏)「つながりなおす 依存症社会」(2017/1/3〜6/29)の連載に対して、薬物やギャンブル、アルコールなど様々な依存症に蝕まれる現代社会を幅広い取材に基づき多面的に捉えた秀逸なキャンペーン報道であることが評価され、贈呈されました。

科学ジャーナリスト賞は3件となりました。

1件目は、ドキュメンタリー映画監督・プロデユーサー 佐々木芽生氏「おクジラさま ふたつの正義の物語」(集英社)の著作に対して、クジラやイルカ漁への国際的な批判に対し、関係者への直接的な取材に基づき、異なる文化に立脚する多様な視点を提供した点が評価されました。

2件目は、川端裕人氏「我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な『人類』たち」(講談社)の著作に対して、次々と新発見が続くアジアの多様な原人について、化石発掘現場などを丹念に取材し人類進化の謎を紹介し、知的な興奮を呼ぶ好著であることが評価されました。

3件目は、日本放送協会報道局 政経・国際番組部 ディレクター 安部康之氏らによるクローズアップ現代+「中国“再エネ”が日本を飲み込む!?」の番組に対して、再生可能エネルギーの大量導入を進める中国の動向を紹介し、立ち遅れた日本の状況を浮き彫りにしたこと、またインパクトが大きく日本のエネルギー政策を考える材料を提供したことが評価されました。

今年は、神奈川県逗子市の住宅地にある手作りの科学館である「理科ハウス」館長の森裕美子氏に特別賞が贈呈されました。「身近な科学館」を目指した設立趣旨と地域コミュニティから親しまれている活動ぶりが総合的に評価されたものです。

2006年から毎年発表されている科学ジャーナリスト賞ですが、過去の受賞作はこちらのページからご覧いただけます。

2018年5月10日木曜日

会議を記録するために

最近、「記憶の限りでは」という言葉がニュースを賑わせています。「発言したかどうか定かではない」などという発言が取りざたされていますが、みなさんは会議や打ち合わせのとき、どのように記録されていますか。

一般的には、紙にメモを取ることが多いと思います。誰がどういうことを発言したか、どのような結果になったのか、次の会議までなにを用意しておけばいのか、などについて、短い時間で理解・判断しながら記録していきます。複数の人が記録をとれば、内容がわずかに(ときには大きく)違っているという可能性もあります。事実誤認と言われるものです。その場合は記録を突き合わせながら合意の道を探ります。合意できなければ、その合意を取ること自体が、次の会議の議題になるかもしれません。

最近の会議では、誰がなんと発言したかをより正確に記録するため、誰かが ICレコーダーで音声を記録していることが多くなりました。10年ほど前でも、比較的よく使われていたと思います。これがあれば、誰がなにを言ったのか、丸ごと記録できますし、デジタルデータとして永久的に保存できます。

現在の技術はさらに進んで、記録されたデジタルデータから「文字起こし」をしてくれるシステムも存在します。この技術は改良中で、人工知能(AI)の学習機能を活用し、誤字のない正確な文字起こしを行うための研究も行われています。

さて、最初に述べた話題で、その会議を ICレコーダーで記録していた人はいないのか、とても興味あるところなのですが・・・

2018年5月8日火曜日

原稿用紙、使っていますか?

みなさんが原稿用紙を最後に使われたのは、いつのことでしょうか。マス目が入って、行間が空いている、あれです。小学校の作文を思い出し、夏休みの宿題などのつらい(?)記憶が甦ってきた方もおられるのではないでしょうか。

私のゼミナールで、横書きの原稿用紙を使ってゼミ生に文章を書かせてみました。ゼミ生に聞いてみると、原稿用紙を使ったのは小学校以来という学生もいました。また、最近では大学でのレポート作成や論文などのほとんどが、パソコンのワープロソフトで作成されており、またメモをとることもスマートフォンのカメラで撮影するという、便利な時代になったので、「手書き」という機会が格段に減っています。

原稿用紙の利点は、①どれだけの量を書いたかが一目でわかること、②一度書いた文章を修正(推敲)するとき、行間に書き込む余裕がとられていること、③マス目に文字を書くため、文字を丁寧に書く効果を期待できること、などがあるでしょうか。

逆に、欠点もあります。現代の文章、とくに科学に関する文章には数字や単位、英単語、あるいはアルファベットと数字を組み合わせた記号など、マス目にはめ込みにくい事例が多いことです。これらにはそれなりの記述するルールが設定されていますが、臨機応変に対応することでなんとかなりそうです。

学生の就職試験などのときに、手書きによる書類の提出を求められますが、手書きの文章はそう簡単にきれいに作ることのできるものではありません。このような機会を捉えて、できるだけ文字を書かせて、伝わりやすい内容の文章を作る練習も、学生時代には必要なようです。

2018年5月7日月曜日

運転免許更新の講習

今日、自動車運転免許の更新に行ってきました。免許制度では、この免許更新のタイミングで「更新時受講」を受けなければ、運転免許は更新できないことになっています。一般的には、更新の申請書を提出し、視力検査などの適性検査を行い、そのまま講習を受けるという流れになっています。

講習では、変更となった道路交通関係の法規についての説明や、最近の交通事故の状況について説明され、運転者の注意喚起を呼びかけます。

その中で、交通事故死者数の推移について説明がありました。近年、交通事故死者数は減少傾向にあり、直近の5年間では
2013年  4, 388人
2014年  4, 113人
2015年  4, 117人
2016年  3, 906人
2017年  3, 694人
となっています(警察庁「道路の交通に関する統計」2018年1月発表)。

ここで発表されている「交通事故死者数」の定義は、交通事故によって亡くなったすべての人が計上されているわけではありません。この統計では、交通事故発生から24時間以内に亡くなった方の人数です。

交通事故発生後、24時間を超えてから亡くなってしまう場合もあります。現状を把握するため、「30日以内死者」についても統計が発表されています。最新の統計(警察庁「平成28年における30日以内交通事故死者の状況」2017年5月発表)は2016年のデータのようですので、2013年から2016年までを示してみると、
2013年  5, 165人
2014年  4, 838人
2015年  4, 885人
2016年  4, 698人
となっており、確かに減少傾向にはありますが、事故発生後24時間以内の死者より15〜20パーセントほど多い数値になります。 報道で発表される「交通事故死者数」は、24時間以内の死者数が発表されますが、その数に含まれないままに亡くなってしまう方も相当数で存在する、ということです。

慎重に運転していれば、より注意していれば、防ぐことのできた交通事故が多数あるという講習内容でしたが、悲惨な交通事故の当事者にならないように気をつけたいものです。

2018年5月6日日曜日

火星探査機 “InSight”

5日の朝7時(米国東部標準時間)、アメリカのカリフォルニア州バンデンブルグ空軍基地から、NASAの火星探査機 InSight(インサイト:Mars Interior Exploration using Seismic Investigations, Geodesy and Heat Transport)が打ち上げられました。InSight は今年11月に火星の赤道付近に着陸し、火星の地震に関する調査や地形の測地、熱の計測などを通じて火星内部の構造の研究データを収集する予定です。

火星は地球の外側に位置する惑星で、地球から見ると赤い星として観測できます。赤く見える理由は、表面に酸化鉄が大量に存在しているため。酸化鉄とは私たちの身の回りでいうと、赤さびです。これまでも火星には探査機が打ち上げられており、表面の様子が写真撮影されています。

下の写真は、現在も運用されているNASAの火星探査機キュリオシティが撮影したもの。火星のシャープ山(Mt. Sharp)からの光景です。

(C) NASA/JPL-Caltech

このように、火星にはこれまでも探査機が送られています。今回のインサイトの特徴は、火星で起きている地震を探査し、内部の状況を明らかにしようとする点にあります。火星内部を探査することで、太陽系の地球型惑星がどのようにして形成されたのか、という手がかりをつかむことができると考えられています。

2018年5月5日土曜日

足尾銅山で使われた削岩機

前回紹介した「足尾銅山写真データベース」から、1枚を示します。足尾銅山でどのような技術が使われていたかを知ることができます。下の写真をご覧ください。

所有:小野崎敏氏

鏨岩機(さくがんき)とは削岩機のこと。削岩機にはドリル式とハンマー式があり、圧縮された空気で動かしたものです。削岩機で岩盤に孔をあけ、そこにダイナマイトを挿入して発破しました。このような技術によって採鉱の効率が上がったことで、銅の生産の飛躍的増大が可能となりました。



圧縮された空気は地上のコンプレッサーでつくられ、数キロ離れたところからパイプで送られていました。コンプレッサー自体の動力は、初めは木材を燃やして駆動していましたが、次にスチーム、やがて電気となりました。足尾銅山で水力発電が早期に建設された理由の一つだったのです。




削岩機のホースはこの写真では1本。削岩機を使用すると、視界を遮るほどに粉塵が発生したとのことです。肺に沈着すると珪肺病(よろけ)にかかってしまいますが、この時代では作業員の安全対策はとられていませんでした。その後、削岩機に2本のホースが取り付けられるようになります。1本は圧搾空気、もう1本は水で、この水が粉塵対策でした。


この写真は、実際の作業を行なっている場面ではないことがわかっています。というのは、実際の採掘作業では、上下方向で2カ所を掘削することはありえないためです。万一、上の部分からの岩石が落下した場合、下で作業している人が怪我をする恐れがあるため。この写真は、作業員が撮影のためにポーズをとったものと考えられています。

2018年5月3日木曜日

足尾銅山写真データベース

先日のブログで触れた、足尾銅山の話題について、このブログをお読みいただいている方々から、問い合わせをいただきました。そのため、私たちの研究グループが作成を進めていた、「足尾銅山写真データベース」のウェブサイトのアドレスをお知らせします(どんな写真が収録されているのだろうか、を知りたいだけであれば、入力箇所にはなにも入れずに「検索」のボタンを押すと、すべての写真が表示されます。もちろん、どなたでも無料でアクセスできます)。

このデータベースを活用してもらうことで、足尾銅山が操業していたころの写真を現在に再びよみがえらせ、『今に生きる私たちは足尾銅山の鉱毒事件を教訓にできているだろうか』と考える機会にもなると考えています。

以下、このデータベースが発表されたときのプレスリリースの一部を転載します。文章の執筆は小出五郎さん(故人)です。

足尾、水俣、フクシマ。有害廃棄物の処理ができないシステムは、人間の健康を損ない生態系を脅かします。足尾銅山の教訓はその原点としていまなお貴重です。足尾銅山・映像データベース研究会(代表者:小出五郎)が4年がかりで作成してきた「足尾銅山写真データベース」を、Web上に正式に公開します。
 栃木県日光市にある足尾銅山は、明治時代の国策「殖産興業、富国強兵」の国策を牽引する象徴的な産業でした。海外の最先端技術を導入、国産化し、優秀な人材を養成、輩出しました。生産した銅は絹製品に次ぐ輸出品で、外貨獲得に寄与しました。見物に来る外国人で横浜に次ぐ賑わいだったといいます。
しかし同時に大量の鉱毒の混じった土砂、廃水が、渡良瀬川を通じておよそ100km下流に至る北関東一帯を汚染することになりました。田中正造を指導者とする反鉱毒運動激化に、社運を賭けて実行された明治30年の鉱毒予防工事も、一定の効果をあげるにとどまりました。
 その一部始終を記録していた写真家がいました。小野崎一徳です。足尾に来た明治16年(1883年)から46年間、昭和6年(1929年)に亡くなるまで銅山と人の営みを白黒の写真に記録しました。
最先端技術を輸入して国産化した削岩機、100馬力の水車4基の水力発電所、銅の純度を飛躍的に挙げた転炉、電気鉄道、ロープウェイの輸送システム・・・。作業員の顔つきや服装、労働の様子。森林が消え荒廃した山肌、鉱毒予防工事命令を受けて建設中の広大な沈殿池、砂防ダム、世界初の排煙脱硫塔・・・。産業遺産、その光と影。小学校、山神祭り、運動会、裁判の様子、芸者たち、迎賓館、町並み・・・。鉱山都市の人の営み。
 実は、一徳の写真は、時代の流れとともに散逸していました。1000枚を越える写真を改めて収集したのは、一徳の孫に当たる小野崎敏氏です。問題は写真に説明がないことでした。そこで足尾銅山・映像データベース研究会は、金属の専門家であり足尾歴史館の中核でもある小野崎敏氏からの聞き取りを行い、文献も参照して1枚ごとに説明を付してきました。
 「足尾銅山写真データベース」は、これまでの成果として足尾銅山の光と影をWebに公開するものです。さらに、「足尾、水俣、福島」の今日性と国際性を考慮して英語版を作成し、世界に発信する計画です。

ぜひ多くの方々にご覧いただき、関心をお寄せいただきたいと思います。