2018年4月14日土曜日

地球外生命体からのメッセージが届いたら…

昨日は「総合講座I」で地球外生命体を話題にしたと紹介しました。そして「もし、地球外生命体からメッセージが届いたら、あなたはどうしますか?」と問いかけました。

学生のみなさんが答えてくれたことと同様に、まずは分析することが必要でしょう。相手が何を伝えようとしているかわからなければ、答えようがないかもしれません。メッセージの意味がわかっても、あるいはわからなかったとしても、次の行動はメッセージの送信かもしれません。なにか声をかけられたら、なんらかの回答をしなければ、と考えることは人間の本質なのかもしれません。

先日亡くなった、スティーブン・ホーキング氏はかつて、「地球外生命体からのメッセージには返答すべきではない」と語っていました。地球外生命体は必ずしも友好的かどうかはわからない、というため。地球にターゲットを絞ってメッセージを送るくらいであれば、なんらかの明確な目的をもっているのかもしれません。

もし、ホーキング氏の考え方に同意するとしたら、地球人は宇宙空間に自分の存在をむやみに「宣伝」することは控えた方が賢明ということでしょうか。しかし、残念ながらそれは手遅れのように思います。

なぜなら、私たちはすでに探査機「ボイジャー1号・2号」に地球人のメッセージを載せて、太陽系探査のために打ち上げているから。これらの探査機は現在、太陽系の外縁まで到達し、これからは太陽系をどんどん離れていきます。また、宇宙物理学的には地球からは赤外線や電波など、天体の大きさにしては不自然な放射が起こっています。

はるかに遠い将来、地球外知的生命体が、宇宙空間に漂う「ボイジャー1号・2号」を見つけるかもしれません。地球は非常に小さすぎて、なかなか観測できないでしょうが、探査機に搭載された地球人からのメッセージを確認することで、太陽系のある惑星には知的生命体が存在していることを知るかもしれません。そのとき、その知的生命体はそういう行動をとるのでしょうか…?

2018年4月13日金曜日

授業科目「総合講座I」

法政大学経済学部では、春学期に「総合講座I」という授業科目が金曜の 1時限に開講されています。この授業は、複数の教員がひとつのデーマに沿って講義を担当する「オムニバス」という形式で行われ、教員 4名が数週間ずつ担当します。

今回のテーマは「異文化コミュニケーション」で、授業の概要は
一般に私たちは日本語を使って人々の間でコミュニケーションをとっているが、使用する言語が違えば文化的な側面も異なってくる。いくつかの文化圏を取り上げ、そのような文化と私たちがどのように関わりあうことができるかを探る。また、科学は特有の言語で伝えられることが多いが、私たちが科学を理解し、知識を共有する取り組みである「科学技術コミュニケーション」にも触れ、理解を深める。
というものです。このようなオムニバス形式の授業は、半年の間にいろいろな専門家の幅広い話を聞くことができるという利点があります。

本日は最初の授業でしたので、この科目の取りまとめ役になっている私が担当となり、どのような内容か、評価はどのように行うかなどを説明しました。私以外の 3名の先生方は文化圏というキーワードを通じてコミュニケーションを講義される予定ですので、私からは自然科学的な分野からの話題として(初日ということもあり、柔かい話題として)、「地球外生命体とのコミュニケーションはどうあるべきか」という話題を紹介しました。

もちろん、現時点で地球外生命体が確認されているわけではありません。地球外生命体が地球人に向けて特定のメッセージを送ったり、あるいは地球にやってきたりという事態は科学的には極めて非現実的です。とくにアメリカのロズウェル事件として有名な「未確認飛行物体(UFO)に乗って宇宙人がやってきて、軍が宇宙人を解剖した」などという話は、さまざまな面から総合的に考えると、おそらく事実ではないのでしょう。

そんな話題を紹介しながら、学生たちに「地球外生命体からメッセージを受け取ったとしたら、あなたならどうするか」と聞きました。「まず、何を伝えているのかについて、言語学の専門家を集めて解析する。地球上に似た文字をもつ文化圏があるかもしれない」という答えが返ってきました。続いて、「メッセージに返答するつもりか」を尋ねると、8割ほどの学生が「返答したい」と答えました。この答えについて正解はありませんが、多くの専門家がいろいろな考えをもっています。今後、このことを紹介していきましょう。

さて、みなさんならどうしたいとお考えですか?

2018年4月12日木曜日

トランス脂肪酸って?

近年、話題の「トランス脂肪酸」。どのように話題になっているかというと、世界保健機構(WHO)がトランス脂肪酸の摂取量を、一日あたりおよそ 2 g 未満にすべきと勧告し、デンマーク、スイス、オーストリアなどでトランス脂肪酸の含有量を規制する行政命令を出しました。その後、南米、北米、東アジアではトランス脂肪酸を含んだ食品の表示を義務付けました。日本では、現時点で規制や表示義務は行われていません。

トランス脂肪酸は、私たちの栄養素である脂質の構成要素です。しかし、脂肪酸にはさまざまな種類があり、トランス脂肪酸を食品から摂取する必要はないと考えられています。トランス脂肪酸を摂りすぎによって、肥満などによる生活習慣病にかかるリスクが高まることが明らかになっており、このことが WHO による規制の根拠となっています。

一方で、一般的な日本人の食生活では、トランス脂肪酸を摂取する機会は欧米諸国に比べて少ない(一日あたり 0.7 g)とされており、またトランス脂肪酸の日本人の体質に対する影響については、まだ明らかになっていません。

しかし、日本の食生活の西洋化により、トランス脂肪酸を摂取する機会は以前より増えていることは確かです。そのため、一部の乳製品企業では、トランス脂肪酸の低減に取り組んでいます。

健康的な食生活は、さまざまなものをバランスよく取り入れることが大切です。「脂肪が体に悪そうだから」と極端に制限すると、からだをつくるための栄養素が不足します。かつて、食生活に関していろいろな視点から述べた記事(サイエンスウィンドウ・2010年春号)に取り組んだことがありました。全文をPDFでご覧いただけますので、ぜひご覧ください。

2018年4月11日水曜日

ハイブリッド花粉

今年の春は、花粉症の悩みからなかなか解放されないようです。明日以降、黄砂が日本に到達することが予想されています。気象庁が提供している、こちらのページでは黄砂の分布の予想が示されています。

花粉と黄砂が同時に存在する環境では、アレルギー症状が悪化する可能性が指摘されています。「ハイブリッド花粉」と名付けられたこの状況では、これまで花粉症の症状を示していない人でも、発症するリスクが高まるという研究者の指摘があります。

花粉などが原因となるアレルギー症状かどうかを確認するために、病院では「アレルゲン検査」が行われます。代表的なアレルゲンには、スギやヒノキの花粉、ハウスダスト、カビなどがあり、これらはいずれもタンパク質。黄砂そのものはタンパク質ではないので、アレルギー症状を引き起こすアレルゲンにはなりません。

黄砂がアレルギー症状を引き起こすというのではなく、起こっているアレルギー症状を悪化させるのだと考えられています。また、黄砂に付着したカビや細菌がアレルゲンとなって、アレルギー症状を引き起こすことも指摘されています。

まだまだ続きそうな花粉シーズン。日本各地の花粉飛散量を集約しているサイトがあります。「環境省花粉観測システム」、愛称「はなこさん」です。いったいどのくらいの量の花粉が飛んでいるのか、関心のある方はぜひ、ご確認ください。見ているだけでくしゃみが出ても、私には責任を負うことはできませんが…

2018年4月10日火曜日

Nature Video 解説ページのご紹介

今年度のゼミは、今日から始まりました。今年度は新2年生に加えて、1名の新3年生という新しいメンバーを迎え、雰囲気が多少変わりました。なにごとも一生懸命に取り組む新人らしく、緊張してもいるのでしょうが、頑張っているようです。

今年度のゼミの活動は、昨年度まで行っている Nature Video の解説記事の作成を行います。イギリスの科学雑誌 Nature の編集セクションが制作している Nature Video は、最新の研究成果を映像で紹介しているものです。Nature Video はどなたでも無料でアクセスすることができるのですが、なにぶん英語でのナレーションです。日本人にとっては、なかなか敷居が高いことも事実かもしれません。

そこで、日本語の解説文を作成すれば、映像作品もより多くの人々の目に触れる機会が増えるのではないかと考え、この企画を始めました。制作した記事は、Nature Japan の方々の手によって、『Nature ダイジェスト』のホームページ「活用事例・取り組み」のコーナーに掲載されています。

映像のナレーションを日本語に吹き替えることはできないのですが、映像を見た後に解説文を読んでいただければ、どんな内容であるかを理解できるのではないでしょうか。

おおむね 1ヶ月に 1回を目処に更新しています。さまざまな分野に及んでおりますので、きっとご関心のある内容があることと思います。ご覧いただいて、もしさらに深く知りたいという内容があれば、このブログで取り上げることもできますので、ご遠慮なくお知らせください。

2018年4月9日月曜日

インターネットの功罪

インターネットは大学の授業でも積極的に活用されています。私の担当する物理学という授業では、授業中に簡単な確認問題やアンケートなどをインターネットを使って回答するしくみになっています。

最近のインターネット上のツールは、このような活用法をあらかじめ想定しているのだと思いますが、多くの人々を対象にデータを収集するためのページを作成できるようにつくられています。

インターネットを利用することには、いくつかの利点があります。

  • 用紙の配付や回収にかかる時間を節約できる
  • これまでのような回答用紙を配付する必要がないので、紙資源の節約や環境への配慮に役立つ
一方で、また弱点もあります。
  • スマートフォンを持っていない学生がいた場合、別に回答手段を用意しなければならない
  • インターネットのアクセスポイントは、一度にアクセスできる人数に制限があり、同時に大量のアクセスが殺到すると回線がパンクしてしまう
  • データが収集されるサーバーにも、処理能力の限界があり、大量のデータが一度に流れ込むと不具合を生じてしまう
などがあげられるでしょうか。従来どおりの紙媒体での処理の仕方から、データそのものを収集する方法へと時代は変わりつつありますが、すべてで代替が効くわけではありません。

最近の学術論文は、インターネット上でのみ発表され、冊子体では配付されないという事例もどんどん増えています。印刷や配送が行われない分、購読料金が抑えられたりします。私はそれでも、必要な論文は紙にプリントアウトして読んでしまうのですが…

2018年4月8日日曜日

変わりゆく教科書

私は現在、47歳ですが、小学校の頃に学んだ「十七条の憲法」をつくったとされる聖徳太子の描かれた絵の写真(3人の真ん中が聖徳太子とされているもの)を、きっとこのブログをお読みの皆さんも記憶にあるはず。かつては一万円札にも肖像が描かれ、日本人なら誰もが知っている人物と思います。

ところが最近の研究によると、その肖像画に描かれている人物は聖徳太子かどうかがはっきりせず、さらには聖徳太子そのものが実在しなかったのではないか、とまで言われているとか。

さらに、アメリカの歴史を教わる上で、奴隷解放の項目で名前があがる第16代アメリカ大統領リンカーンは、現在の教科書では「リンカン」と示され、ニューディール政策で有名な第32代大統領ルーズベルトは「ローズベルト」と示されていると、本日放送されていた情報番組(TBS「噂の!東京マガジン」)で知りました。

外国人の呼び名は、できるだけ原語の発音に近くなるように表記する流れになっています。先の大統領ルーズベルト(Roosevelt)は、確かに英語の発音に忠実に表記すれば、ローズベルトになりそうです。同じように、日本にキリスト教を伝えたとされるフランシスコ・ザビエルも、今では「フランシスコ・シャビエル」と表記されているようです。

最初の聖徳太子が実在しないのでは、というのは現時点では学説の一つに過ぎませんが、歴史的書物を分析し、史実を確認していくことによって、これまでの通説が覆されるということも十分にあり得ることです。

「教科書には正しいことが書いてある」という認識は、「教科書には(執筆時点で)正しい(と考えられている)ことが書いてある」と解釈するのが正しいようです。もちろん、このようなことは歴史だけではなく、新事実が発見されたり、解釈が変更されたりと、世の中すべてのことに言えるのでしょうね。長い間に人間の価値観そのものが変わってしまうことだってあるかもしれません。

2018年4月7日土曜日

東京・日本橋の道路元標

本日午後から、所用で日本橋へ。東京駅八重洲口から「さくら通り」を抜ければ「中央通り」に出られます。ここを左に進めば、「日本橋」があります。日本橋の上には首都高速の高架がかかっています。この橋を渡って左側に、「東京市道路元標」と示された建造物があります。これは日本の国道の起点を示すものです。もともとここにあるものとばかり思っていたのですが、そうではなかったようです。

東京市道路元標(東京・日本橋)

この写真を撮っていたら、ご婦人が「こんなにいいところに移されて、よかったねぇ」と話しています。その後、私に「これはもともと道路の真ん中にあったの。道路の真ん中は危ないから、ここに寄せられたのね」と話してくださいました。

そのとおりのことが碑に示されています。どうやら1972年に、道路の真ん中から現在のところに移設されたようです。ご婦人はもともとの場所にあったときのものしか見たことがなく、今の場所に移されたものを初めて見たとのことです。そして「移したかわりに、道路の真ん中に印が残っているはずなんだけど」と話します。「ところでね、この向こう側に、富山県のアンテナショップがあって、かまぼこがおいしいのよ」と東京駅の方に歩いて行かれました。

さて、道路の真ん中の印はどんなものなのか、気になります。橋の中央まで戻って眺めて見ると、確かにありました。金属でつくられたと思われるものが埋め込まれているようです。

道路の真ん中の道路元標
複製がありました

この金属板の複製が、先ほどの建造物の横に設置されていました。さすがに道路の真ん中まで見に行くわけにはいきませんね。

今日のご婦人の話を聞かなければ、いつも見ているこの建造物を改めて見つめることはなかったでしょう。また一つ、新しいことを知りました。そうそう、富山県のアンテナショップには行かずに帰ってきてしまいましたが、美味しいものがいろいろあるそうですよ。

2018年4月6日金曜日

ホーキング博士の偉大な足跡

先月の14日、イギリスの宇宙物理学者スティーブン・ホーキング博士がこの世を去りました。日本でも訃報はニュース速報で取り上げられました。「車椅子の物理学者」として知られるホーキング博士は、難病の筋萎縮性側索硬化症を抱えながら研究に邁進しました。

ホーキング博士にはさまざまな業績がありますが、それらの中から 3つを取り上げて、物理学、特にブラックホールに関する研究の発展や、科学の普及への貢献を紹介した Nature Video(英語版)が Nature から公開されました【Stephen Hawking: Three publications that shaped his career in Nature Video】。

この動画の内容について、私のゼミナールのメンバーが日本語で解説記事を作成しました。Nature ダイジェストのウェブサイトから公開されており、どなたでも無料でご覧になることができます。ぜひ、こちらからアクセスしてご覧ください

紹介した日本語記事にあるとおり、ホーキング博士は市民向けの科学書の執筆も手がけ、それらの科学書は多くの人々に読まれました。日本語訳として出版されているものを紹介すると、
  • 『ホーキング、宇宙を語る』 林一訳・アーティストハウスパプリッシャーズ
  • 『時間順序保護仮説』佐藤勝彦解説・監訳・NTT出版
  • 『ホーキングペンローズが語る時空の本質』 林一訳・早川書房
  • 『ホーキング、未来を語る』佐藤勝彦訳・アーティストハウスパプリッシャーズ
  • 『ホーキング、宇宙のすべてを語る』佐藤勝彦訳・ランダムハウス講談社
  • 『宇宙への秘密の鍵』さくまゆみこ訳 ・岩崎書店
  • 『宇宙に秘められた謎』さくまゆみこ訳 ・岩崎書店
  • 『ホーキング、宇宙と人間を語る』佐藤勝彦訳・エクスナレッジ
  • 『宇宙の誕生・ビッグバンへの旅』さくまゆみこ訳・岩崎書店
  • 『ホーキング、自らを語る』佐藤勝彦、池央耿訳・あすなろ書房
などがあります。ご関心があれば、ぜひお読みください。

2018年4月5日木曜日

広がる知識

数日前のブログで、可憐な紫色の花を取り上げました。その植物の名前を知らない私に、その花は「スミレ」だと教えてくださった「つんちゃん」さん、ありがとうございました! これがスミレなのですね。スミレって、もっと背の高い植物だと思っておりました…   なんの植物と勘違いしているのでしょうね。

今日の昼過ぎ、外勤のために都心の市ヶ谷を歩いているとき、足元を注意深く見ると街路樹の茂みにもスミレが咲いていました。今までまったく気がつきませんでした。名前を教えてもらうと、なんだかとても得をしたような気がします。おかげでスミレがいろいろなところで見かけられることを知りました。

こうやって知識を増やしていくのだな、と今さらながらに感じます。ちょうど午前中に、法政大学に留学してきた新入生のオリエンテーションで、学生たちにそのようなことを話したばかりでした。そこではこんなことを話しました。
みなさんは出身国から日本にやってきて、文化や環境などが違うところが多く目につくかもしれない。それでも、みなさんの国と日本には、同じことがきっとあるはず。私のように日本にいる人々には、外国と比べて日本がどういう国なのか、それほど実感することはないけれども、みなさんから教えてもらえば、私たちも新しく日本を知ることができるし、みなさんの国のことを知ることにもなる。ぜひ、多くの人といろいろな話をしてください。
多くの留学生が頷きながら聞いてくれていましたが、留学生の日本語のレベルはおそらくまちまちなのだと思います。途中で単語を言い換えたり、身振り手振りで話したりと、これまた先日のブログに書いたように、懸命に伝えようと頑張りました…   あまりに頑張ったので、留学生のみなさんも一生懸命頷いてくれたのかもしれません。

これまでも、物理学を受講している留学生が質問のために私の研究室を訪ねてくれます。そのとき、私は単純な興味・関心から、留学生の出身国のいろいろな話を聞いてみるのですが、とても熱心に説明してくれます。「そういう風習があるんだ」とか、「ああ、そういう意味だったのか」など、いろいろと知ることができて、とても楽しいひとときです。今年もそんな時間があることを願っています。