2016年6月16日木曜日

Nature Video の解説ページが公開されました

 Nature は、最新の科学技術を伝える週刊の専門雑誌です。全世界で読まれるため、記事はすべて英語で書かれています。そうなると、なかなか日本人には敷居が高い… そこで、日本人にも Nature の記事に触れてもらうために、10年以上前から 『Nature ダイジェスト』という月刊誌を発行しています。

 一方、Nature では英語で編集されていますが、“Nature Video” という動画も提供されています。この動画は、Nature に掲載された科学技術の研究内容を紹介したり、科学ニュースをわかりやすく伝えることができるように編集されています。Nature Video は美しい映像で構成されており、研究内容が直感的に得られるような作品になっています。ただ、英語で作られているため、やはり日本人には敷居が高い…

 そこで、私のゼミナールでは、この Nature Video の内容を日本語で解説し、映像で紹介されている科学技術について学生たちがどのように考えているかを紹介する取り組みを行っています。この解説ページが、本日から公開されています。日本語の解説文はできるだけわかりやすく、科学を専門としない人々にも関心を持たれるように制作したつもりです。また、科学を専門としない学生たちがどのようなところに興味をもったか、あるいはどのように感じているかも掲載されています。科学技術はいわゆる理系の人々のためのものではなく、人類共通の財産です。社会が科学技術をどのように受け入れるか、科学技術がどのような方向に進むべきであるを考えることは、文系・理系を問わず、すべての人が考えるべきことです。そのようなことを考えるきっかけになって欲しいと思っています。



2016年6月7日火曜日

宇宙望遠鏡による観測

 私たちの宇宙についての理解をより深めたハッブル宇宙望遠鏡。宇宙空間に浮かぶ天文台です。

(C) NASA
 長さは13メートル、重さは11トンもあり、バスのような大きさの望遠鏡です。宇宙空間には大気がないので、天体からの光を鮮明にとらえることができます。

 このハッブル宇宙望遠鏡は、高度約560キロメートルのところを周回しており、地球を約90分で一周します。 その間に、世界中の天文学者から提案された研究計画に沿って、天体を観測します。一つの天体を長い時間観測しますが、その間もハッブル宇宙望遠鏡自体は地球の周りを運動しています。どうやって目的の天体を観測し続けるのでしょうか。

 それは、ハッブル宇宙望遠鏡に姿勢を制御する機器が取り付けられており、姿勢を安定させ、望遠鏡を正しい方向に向けることができるためです。このような機器は「ジャイロ」と呼ばれ、飛行機の自動航行システムやカーナビゲーションシステムにも使われています。

 この機器の原理が紹介されているページです。関心のある方はご覧ください。

2016年6月5日日曜日

「重さ」と「質量」

 物理学では、「重さ」と「質量」について考えます。

 日常生活で「質量」という言葉はまず使いません。一方で、「重さ」という言葉は皆さんよく使います。
・ 卵1個の重さは 40 [g]、とか
・ 生まれた子どもの重さは 3200 [g]
などといいますね。実はこれらの使い方は、物理学的には間違っています。

 「重さ」とは、重力の大きさのことで、力の大きさを示すものです。もっと噛み砕いていうと、「地球がものを引きつけている力の大きさ」のことです。力の大きさの単位は、[N] (ニュートンとよみます)です。さらに面倒なことに、ある物体の地球表面での重力の大きさと、同じ物体の太陽表面での大きさは違います。太陽の方が、ものを引きつける力が大きくなるので、重さも大きくなります。

 一方で「質量」とは、そのものの性質のひとつです。この質量は宇宙のどこであっても同じです。物体の性質は、どんな状況であれ変化しないためです。質量の単位は、皆さんがおなじみの [kg] や [g] です。体重計で量った皆さんの体重は、皆さんの「質量」を計測していることになります。

 つまり、日常生活では「重さ」と「質量」が混同されていることになります。なにも日常生活で「重さ」と「質量」をきちんと言い分けなさい、といっているわけではありません。自分が使っている言葉は、物理学的に正しいのだろうか、と心の中で確認することで十分でしょう。

 日常生活で、「卵の質量は 40 [g] でした」などと言ってしまうと、ちょっと(かなり?)浮いてしまいますね。

 さて、体重が 60[kg] の人がいたとします。この人の「重さ」を物理学的に正しく表現するとき、この人の「重さ」はどう表せますか? 重力加速度を 9.8 [m/s^2] とします。答えは、ブログのコメントへどうぞ。

2016年6月1日水曜日

太陽の黒点

 これまでのブログで紹介したとおり、太陽には黒点と呼ばれる黒いシミのようなものがあります。このシミは周囲より温度が低いために黒く見えるものです。黒点は太陽の磁場がつくりだします。太陽が活発に活動すればするほど黒点の数も多くなり、長い期間に増減を繰り返します。およそ 10年周期と言われています。

1610年から2000年までの太陽黒点の経年変化 (C) NASA

 黒点の数の増減を見出したのは、ドイツ人のハインリッヒ・シュワーベでした。彼は1826年から 1843年まで太陽を観測し、その黒点の数を記録したのです。その後、彼の研究はベルン天文台のルドルフ・ウォルフの関心を引き、継続して観測が行われました。実はシュワーベは太陽の黒点に関心があったわけではなく、当時存在すると考えられていた惑星バルカンを探していたのだとか。

 最近の太陽黒点はどのような変化を示しているかは、下の図でわかります。青い線は太陽の北半球の黒点数、赤い線は南半球の黒点数、緑色が合計数です。現在の太陽活動は極大期(ピーク)を過ぎたところで、これまでの変化の傾向と変わりありません。

黒点相対数の変動 (C)国立天文台

 黒点は太陽のどこにでも出現するわけではありません。太陽の北緯 40度から南緯 40度までの間に多く見られます。私のところにも太陽を観測するための専用の器材がありますので、関心のある人は声をかけてください。

2016年5月31日火曜日

絶対零度

 この時期の東京の気温は 25℃ くらいでしょうか。真夏になれば 35℃ という気温になることもあり、最近は毎年のように最高気温が更新されています。気温が低い方では北海道・旭川市の −41 ℃ が記録されています。さて、温度の下限は存在するのでしょうか。

 温度は −273.15 ℃ を下回ることはありません。この温度を「絶対零度」と言います。物体の温度は「原子や分子の振動」が熱の由来になっており、原子・分子の振動が止まった状態が絶対零度になるためです。原子・分子の振動が止まった状態とは、エネルギーがゼロになっている状態です。この状態は極限的な状態と考えられ、自然にあるいは人工的に絶対零度に到達することはありません。

 絶対零度に極めて近い温度、一般的には −269 ℃ を下回るほどの環境での物質の振る舞いなどを研究する分野を「極低温物理学」と呼びます。このような状態では、例えば物体の電気抵抗がゼロになる「超電導」という現象が確認されています。もし、超電導をより高い温度で実現することができれば、現代社会の送電の課題を解決することができる可能性があります。どういうことかというと、発電所でつくられた電気は、送電線を通じて送られていきますが、この電気エネルギーは送電線の電気抵抗によって熱エネルギーに変わってしまっています。つまり、せっかくつくった電気が途中でなくなっているということです。

 超電導の性質を利用して、電気抵抗の少ない送電線をつくることができれば、より効率的に電気を利用できるというわけです。

2016年5月30日月曜日

熱中症を防ぐために

 これからの時期、気温が高くなってくると熱中症にかかってしまう人が増えてきます。湿度の高い室内で、うまく温度調節ができずに熱中症になってしまうことも。暑い中ではちょっと歩いたりした後でも、水分を適切に補充しなければいけません。

 では、暑い日に熱中症の予防のため、水を飲むだけで十分なのでしょうか。暑いとき、人間は大量の汗で水分を失っていきます。汗をかきはじめのとき、汗にはマグネシウムイオン・カルシウムイオン・カリウムイオン・ナトリウムイオンなど、いわゆるミネラル成分が含まれています。

 汗をかき続けると、水分と同時にこれらのミネラル成分も失われていきます。このときに真水を飲むと、体の中のミネラル成分が薄まってしまいます。私たちの体にはミネラル成分を含む体液が薄まってしまわないような工夫があります。それは、「のどの渇きを止める」というものです。結局、真水だけを飲んでいる状況では、失われた水分を補給する前に、のどの渇きが止まってしまうため、水分の補給ができなくなってしまいます。

 では、どうしたらよいかというと、ミネラル成分を含んだ飲料を補給することです。いわゆる「スポーツ飲料」とか「ミネラル飲料」と呼ばれるものです。これらの飲料はミネラルも同時に補給できるため、のどの渇きを止めることなく、必要な水分量を補給できます。これからの季節、適切な水分とミネラルを補給することで健康的な生活を送ることができるといいですね。

2016年5月25日水曜日

宇宙から地球を見る

 欧 州宇宙機関(ESO)の SMOS(スモス/Soil Moisture and Ocean Salinity)は、土壌の水分量と海洋の塩分濃度を全球的に観測するために 2009年に打ち上げられた人工衛星。これらは水循環のサイクルを研究するために重要な観測です。観測成果は気象予報の精度向上や、気候変動・異常気象のメカニズムを理解するために活用されています。

2016年5月の土壌水分量 (C) ESA/Cesbio
農業による食糧生産は世界の人々を支えるために重要な活動の一つです。また、地球上の植物は光合成によって二酸化炭素を吸収するため、地球温暖化の原因の一つと考えられている大気中の二酸化炭素を減少させる役割を果たします。このような人工衛星からの土壌水分の観測は、地球上の植物の光合成や成長をモニタリングすることができます。

 気候が変化することによって、これまで農耕に適していなかった地域が豊かな耕作地に変わる可能性も指摘されています。そうすれば、農業を輸出産業として育成することができる国も出てくるでしょう。温暖化によって豊かになる国があり、一方では海面上昇によて海に沈んでしまう国があります。このような状況が、気候温暖化に対する政策決定を強く打ち出さない原因であることは否定できません。


2016年5月24日火曜日

地球温暖化対策へのモチベーション

 4月21日号の Nature に、“Recent improvement and projected worsening of weather in the United States” という論文(日本語訳「米国における気象の近年の改善と予測される悪化」)が掲載されました。

 「地球の平均気温が上昇し、これは人間活動が大きく影響している」と言われていることは皆さんもよく聞くことと思います。過去の気温変動について詳細に調査されており、過去30年のそれぞれの10年は、1850年以降のすべての10年より温暖で、世界平均の気温データは1880-2012年の間で 0.85℃ の上昇を示していることが国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書で発表されました。

世界の地上気温の経年変化(年平均)(C) 全国地球温暖化防止活動推進センター


 将来の気候変動によって、世界の多くの地域が次第に人間が住むためには適さない環境になっていくことが予想されています。しかし、現実には気候変動を抑えるための社会的な対策になかなか支持を得られません。なぜでしょうか。

 先の論文の著者 P Egan と M Mullin は、アメリカ国民の 80%が 40年前よりも気象が好ましい地域に住んでいることを明らかにしました。現在、ほとんどのアメリカ国民は彼らが一般的に好む非常に温暖な冬を過ごしており、以前よりも不快な夏の暑さになったという悪い変化を感じていないらしいことを示しています。そのため現状の気象状況では、アメリカ国民が気候変動の対策として政治的な要求を行う動機付けにはなりにくいと考えられています。将来予測によると、いずれアメリカの夏は冬よりも温暖化するため、アメリカ国民は気候温暖化をより実感し「好ましくない」と判断するだろうとも考えられています。

 社会的な要求は、それぞれの個人が日常的な経験をどのように実感するかにかかっている、という主旨の論文です。科学者が気候変動の結果を示し、世界的な取り組みが必要であると考えるときには、市民を納得させる手法を考えなければならない、ということでしょうか。

2016年5月23日月曜日

太陽を見る

 皆既日食や部分日食があれば太陽を見る機会もありますが、そうでもなければなかなか見ることもありません。太陽はあって当たり前の存在なので、ふだん気にすることもないということも一因でしょうか。もちろん、太陽を直接見つめることはできません。長い時間太陽を見つめると目を傷め、ひどいときには失明してしまいます。

 太陽を観測するときには、専用のフィルターを使う必要があります。「直視用太陽メガネ」などという名前で販売されています。かつてはガラスをロウソクの炎にかざして「すす」をつけたもので観測する方法が行われていましたが、この方法では目に有害な赤外線などを十分に遮断することができず、危険です。

 天体望遠鏡を使うときは、太陽を投影する機材を取り付けることで安全に観測できます。下の写真は、5月 18日午後 2時ころの太陽を観測したもの。中心近くに黒い点を確認できます。これは黒点と呼ばれる、太陽の表面にある温度の低い部分。それでも 4,000℃ ほどもあります。


 今後、日食はいつ観測できるのでしょうか。
太陽の一部が欠ける部分日食は
  2019年 1月 6日(日本全域)
  2019年12月26日(日本全域)
太陽の大部分が隠れ、周囲だけが残される金環日食は
  2030年 6月 1日(北海道)
太陽のすべてが隠される皆既日食は
  2035年 9月 2日(北陸・関東の一部)
となっています。珍しい現象であるうえに、晴れていないと見ることができませんから、見ることができた人にとっては貴重な経験になりますね。

2016年5月22日日曜日

温度の単位

 今日は北海道の北見市では 30℃ を超えたとか。このところ、北海道で季節外れの高い気温になっていることがニュースで報じられています。私たち日本人が日常生活で使用する温度の単位は ℃ ですが、30℃ を 86℉ と示すこともできます。℃ を「セルシウス(セ氏)温度」、℉ を「ファーレンハイト(華氏)温度」といいます。歴史的には ℉ の方が古く、これはファーレンハイト氏が 1724年に提唱したもの。一方で ℃ は 1742年にセルシウス氏が提唱したもの(ただし、後にほかの科学者たちによって改良が行われました)と言われます。

 かつては温度の単位として ℉ が世界で広く使われていましたが、世界的に計量単位を統一しようという動きがあり、1875年には欧州を中心として国際条約の「メートル条約」が締結され、日本は 1885年に加盟しています。このメートル条約では温度の単位として「ケルビン温度(K)」を採用しており、セルシウス温度の1度のメモリがケルビン温度の1度の目盛りと一致しています。

 現在、セルシウス温度は世界中の広い範囲で使われており、ファーレンハイト温度を日常的に使用している国はアメリカ・パラオ・バハマ・ベリーズ・ケイマン諸島となっているようです。

 アメリカの天気予報などで突然大きな数字を見ると驚いてしまいますが、なかなか ℃ の単位に変換するのは難しいものです。厳密な計算式がありますが、大まかな変換で事足りる場合は、(ファーレンハイト温度[℉]− 30)÷ 2 で求めることができます。アメリカに出かけた時、活用してください。