2018年9月18日火曜日

夏休み子ども科学電話相談

今年も NHKラジオ「夏休み子ども科学電話相談」が8月31日(金)に無事に終了しました。ただ、今年の放送では、この番組のすべての放送の「聞き逃し」サービスが、9月末日まで延長されています! 聞き逃しはこちらからアクセスできます。さらに、いくつかの質問は NHK が文字起こしをして、ホームページに公開されています。ぜひ多くの方々にお聴きいただき、またテキストをご覧いただきたいと思います。

この番組で私は「科学」という分野を担当していますが、この「科学」という枠組みはとても広いと思われがち。でも、世の中のすべての現象はきっと「物理学」という学問で説明できると信じて(?)いる私にとっては、いかに矛盾なく現象を説明できるか、ということを考えて説明しています。物理学といえば、みなさんもすぐに連想するであろう、運動・熱・波などを扱う分野です。これらの法則を使って、きっと世の中は説明できるだろうと考えて、小さなお友だちにもわかるように説明しているのです…

毎日の天気の移り変わりや、テレビに映像が出るしくみ、生き物の心臓が動くことも、物理的に説明することができます。物理というのは自然科学の分野のなかでも、もっとも基本的な領域なのです。

「なんでも科学で説明できます」と言っても、世の中には現代の物理では説明できないことがあるかもしれません。でも、それはきっと、

  • 私たちがまだ知らない科学法則があるから
  • 私たちが見たり認識したりした現象が、じつは正しく認識されたものではなかったから
のどちらかなのだろうなぁ、と私などは思ってしまいますが。

でも、子どもたちはそんなことにお構いなく、質問を投げかけてきます。こんな質問には、みなさんならなんと答えますか? 「妖怪って、いるんですか?」

これはかつての放送で実際に取り上げられた質問で、私が答えた(「これも科学なの?」とネット上で呟かれたのですが)ものですが、みなさんなら、なんと答えますか? 後ほど、私からの回答を取り上げます。それまで、みなさんの回答をご用意ください。



2018年8月29日水曜日

コアラのゲノムを解析!

法政大学の私のゼミナールでは、最先端の科学研究の成果を伝える Nature Video の内容について解説記事を作成し、Nature ダイジェストのホームページから発信されています。8月号の記事が公開されましたので、ご紹介します。

今月は「コアラのゲノム解析」についての話題です。愛くるしい姿で多くの人気を集めるコアラですが、出産した子どもを腹部の袋で育てるという、オーストラリア大陸で特異な進化を遂げた動物の一種。動画にはとても可愛いコアラが収められています。

コアラは、多くの動物が食べないユーカリを食べて生きています。ユーカリの葉には毒があり、ふつうの哺乳類が食べてしまうと死んでしまうほどの強い毒をもっています。なぜ、コアラはそんなユーカリを食べることができるのでしょうか?

また、コアラの世界では「クラミジア」という感染症が大流行しています。コアラにとってクラミジアは失明、膀胱炎、さらには不妊の原因となる病気。野生動物の病院に入院するコアラの40%は、クラミジア感染症の末期の状態にあるといわれます。なぜ、コアラの間でクラミジアが流行しているのでしょうか?

それらの問いの答えは、コアラのゲノム解析によって明らかになっていくでしょう。ほかにも、コアラを含む有袋類という種類の動物に共通と考えられている、母乳の大切な役割についても解説されています。


ブログをお読みの方で、なにかご質問がありましたら、こちらからお寄せください。ご遠慮なくどうぞ。

2018年8月27日月曜日

「不安定な」大気って…?

ブログをご覧の方から、質問をいただきました。「不安定な大気って、なにが『不安定』なのですか? 天気が不安定っていうこと?」というものです。

27日の関東地方は、まさにこの「大気が不安定な」状況になり、急激な雷雨が発生しました。東京では浸水被害もあったとニュースで伝えられています。

確かに、大気が不安定になると、結果的に天気は急変します。大気の不安定とは、「大気の構造が非常に変化しやすい状態になる」ことをいいます。ものの性質として、同じ体積だと温かいものは上方に、冷たいものは下方に運動します。よく混ぜていないお風呂と同じです。とくに沸かしたばかりのお風呂では、上は熱くても下の方は冷たいことがありますね。

大気の上の方が冷たく、下の方が温かい場合、下にある大気が上に向かって上昇していきます。すると大気が冷やされていくので、大気に含まれていた水蒸気が水滴や氷の粒となって現れてきて、急速に雲が発生します。このような雲は「積乱雲」です。温かい大気が大量に存在すると、それだけ積乱雲も大きくなります。

積乱雲の内部では、水滴や氷がぶつかることで静電気が発生し、雷が発生します。ぶつかることによって大きくなった水滴などは重くなり、上昇気流で浮かんでいることができなくなり、雨となって地表に降ってきます。このようにして、激しい雷雨が起こるのです。


ブログをお読みの方で、なにかご質問がありましたら、こちらからお寄せください。ご遠慮なくどうぞ。

2018年8月2日木曜日

サンゴ礁を取り巻く危機

Nature Video の日本語解説記事の最新版が、Natureダイジェストのウェブページにアップロードされました。この暑さですので、涼しげなサンゴの研究を取り上げました。ぜひ、お読みください。簡単に内容をお伝えすると…

サンゴ礁は「海の熱帯雨林」とも呼ばれており、多くの生き物のすみかとなっていて、生態系で重要な役割を果たしています。サンゴ礁はクラゲやイソギンチャクと同じ仲間のサンゴによって造られます。そう、サンゴ礁は動物が造ったものなのです。サンゴは石灰質の骨格をつくります。小さな小さなサンゴが、長い年月をかけて大量に集まってサンゴ礁を造り上げていたのです。

サンゴの生態はよくわかっていません。それは、小さなサンゴを海中で直接観察することが難しい、ということがあります。近年、海中で使用できる顕微鏡が開発され、サンゴの生態が明らかになってきました。ウェブページの映像をご覧ください。

そのサンゴ礁が、危機に脅かされています。それは海水温の上昇と、海中のゴミのためです。サンゴは海水温が高くなると、内部に共生させている「褐虫藻」という植物が逃げ出してしまい、最悪の場合はサンゴが死んでしまうのです。また、海中に捨てられたゴミがサンゴを傷つけ、プラスチックの表面に付着した病原菌がサンゴを弱らせているのではないか、という研究も報告されています。

プラスチック製品は私たちの生活を便利にしてくれましたが、環境に及ぼす影響は、私たちが考えているよりも大きいようです。つい最近、スターバックスがプラスチックストローの削減を発表しました。プラスチックを使っても、どこかに捨てるのではなく、定められた方法できちんと処分するということが、私たちにできる方法かもしれません。


2018年8月1日水曜日

トンネルと新幹線

今日から8月。すでに NHKラジオ第一放送の「夏休み子ども科学電話相談」が7月23日から始まっておりましたが、私のこの夏の担当は今日が初日。いろいろな質問が寄せられておりました。

さて、本日の放送で取り上げた、「新幹線はどうして滑り台みたいな形をしているの?」という質問への答えで、私が考えていた内容を正しく伝えられなかったところがあったように思っていました。

新幹線の先頭の形が滑り台みたいな形(流線型)をしているのは、2つの理由があります。

  1. 空気が乱れず、スムーズに流れるようにすることによって、より速く走行できるようにするために、流線型になっています。
  2. 列車がトンネルに入ったとき、反対側から「ドーン」という音が発生します。この音は、空気鉄砲と同じようなしくみで発生するものです。トンネルに列車が入ると、トンネル内の空気がぐっと縮められます。トンネル内の空気を、列車が「押し込んで」いるわけです。この押し込まれた空気が、音の原因です。この空気はそのままトンネル内を進み、トンネルの出口まで到達すると一気に解放され、「ドーン」という音が発生します。この音の発生をできるだけ抑えるためには、トンネル内の空気を一気に押し込まないようにすればいいわけです。そのため、新幹線の先頭の形は、流線型になっています。
放送では「空気がトンネルから出るときに音が出る」のか、「列車がトンネルから出たときに音が出る」のかについて、適切に伝わらなかったようで、失礼いたしました。上に書いたとおり、「空気がトンネルから出るときに音が出る」のです。

番組の最後にもお話ししましたが、気をつければ正しく伝わるところを、うまく説明できないと、「もやもや」します。飴玉をお湯に入れたときの「もやもや」が気になるように、「もやもや」は気になるもの!?

2018年7月31日火曜日

火星、土星、木星・・・

東京の町田市にある法政大学多摩キャンパスは、自然が豊かな環境にあります。当然、夜空にはきれいな星を見ることができます。ということは、今夜の火星大接近を見てみたくなるのは誰でも同じ。

「明日は朝早いので…」とやや後ろ向きな私(じつは天体望遠鏡を操作するのがあまり得意ではない…)でしたが、いろいろな人々に要望(?)され、天体望遠鏡を出して火星を観ることに。この時期は火星だけでなく、土星や木星も観測できます。土星はリングが存在する様子を確認できるのでは、と期待して望遠鏡を向けていきます。

学生たちだけでなく、「大きなお友達」にも声をかけてみました。そのときの写真が下のものです。一人がレンズを覗きながら、「あ、わぁー」と声をあげると周りの皆さんは笑い声を上げますが、じつは皆さん、大なり小なり同じような歓声を上げます。

観測している前を車が通り過ぎました。キャンパス内の
この場所はほとんど街灯がなく、観測には最適です。
インターネットやテレビ、図鑑などを見れば、きれいな写真を見ることはできますが、やはり自分の目で見ることが大切なのかもしれません。「科学する心」というのは、今日の土星や火星を見たときのような、臆せず歓声を上げられる心なのかもしれませんね。

2018年7月30日月曜日

火星大接近!

ここ数日であれば、真夜中に真南の30°くらいの高さに、赤く輝く星を見ることができるはず。これは火星です。国立天文台は「今日のほしぞら」というホームページを通じて、どんな天体が、いつ、どの位置に見えるかという情報を提供しています。このページは天体観測の強い味方になりそうです。

新聞やテレビでも大きく取り上げられているとおり、火星は7月31日に地球に大接近します。これから9月ごろまでは明るく輝いて見えているので、明日が曇って星を見ることができなくても、次の機会を待ちましょう。

大接近といっても、このときの火星までの距離は 5759万キロメートル。月までの距離の150倍という遠いところにある天体ですので、双眼鏡で何かが見えるというわけにはいかないようですが、天体望遠鏡を使えば、火星表面の模様は確認できるとのこと(ビックカメラの特設ページ)。

「これを機会に天体望遠鏡を買おう!」という人以外は、近くの科学館やプラネタリウムで観望会などが行われるでしょうから、ぜひお出かけください。「科学館」とお住いの地名などでインターネット検索をすれば、近くの施設を知ることができるでしょう。

子どもたちにとっても、思い出に残る夏休みになるといいですね。

2018年7月24日火曜日

太陽系の過去のピースを持ち帰る

数日前、日本の小惑星探査機「はやぶさ2」の現在の状況について、宇宙航空研究開発機構(JAXA)から記者発表がありました。現在(7月24日)は、「はやぶさ2」は小惑星リュウグウから20キロメートル離れたところに位置しています。8月に入ると、リュウグウから5キロメートルのところまで接近して、表面の状況などを観測することになっています。

「はやぶさ」は、世界で初めて小惑星(イトカワ)の一部を地球に持ち帰り、その成分を分析したという成果を残しました。「はやぶさ2」はその後継機であり、「はやぶさ」を上回る成果を得るため、さまざまな工夫が凝らされています。

この「はやぶさ2」が何を目的をしていて、どんな工夫がされているかを紹介した Nature Astronomy に掲載された日本語記事『太陽系の過去のピースを持ち帰る』(原題:“Bringing home a piece of our past” が一般公開されていますので、ぜひご覧ください(無料でご覧いただけます)。

Nature Astronomy は天文学の最新の成果が発表される学術雑誌です。科学探査機の目的や、期待される成果などが詳細に紹介されることもあります。今回は「はやぶさ2」による探査に関して取り上げられた記事が掲載され、多くのみなさんに知っていただくために日本語に翻訳されました。

「はやぶさ2」の最新の状況は、こちらのページで確認できますので、関心のある方はご覧ください。

2018年7月23日月曜日

つまめる水!?

今日は法政大学多摩キャンパスの近くにある、グリーンヒル寺田という団地で、サイエンスカフェが行われました。この団地には「グリーンヒルおひさま広場」と名付けられた部屋で、法政大学がこの地域のみなさんとの交流活動を行なっています。

昨年度は、私がサイエンスカフェで科学に関するいろいろな話をしたり、夕方から夜にかけて「星空探検隊」と称した観望会などをそれぞれ3回ほど行なったりしました。今年度は今日が第1回目です。

子どもたちも夏休みに入ったこともあり、また暑いので水を使った実験を行いました。今日の実験テーマは「『つまめる水』をつくろう!」です。大勢の子どもたちと「大きなお友達」で会場が満席になりました。この実験は、食品添加物となっているものを使ってつくるものですので、子どもたちも安心して参加できます。

金曜日から日曜日の3日間で、子どもたちにも簡単にできるように実験をしてみましたが、私の作った「つまめる水」は下の写真のものです。私が3日間で習得した技術を、子どもたちは30分で獲得したという…



今日の子どもたちの作ったものは、食用色素やジュースで色をつけたので、もっと見栄えのするものになりました。小さな滴になるようにすると、まるで「人工イクラ」のように見えたり、うすい緑色をつけると涼しげに見えたりと、みなさん楽しんで参加されていました。

この実験は、アルギン酸ナトリウム(昆布のねばりの主成分)の水溶液を、乳酸カルシウムの水溶液に入れることでできあがります。中身は水ですので、水を持ち運ぶことができるわけです。これはイギリスの研究者たちが “Ooho!”(オーホー)と名付けてレシピを公開したもので、ペットボトルなどを使わずに水を持ち運ぶ方法を探ったものです。

実験中の写真があると、とても楽しそうに実験に取り組む子どもたちと「大きなお友達」の姿をみなさんにもご覧いただけたのですが、そこまで気が回らなかった私。今日の実験は、法政大学経済学部4年生の井藤大輔くんが「実験のお兄さん」として大活躍してくれました。ありがとうございました。

子どもたちは楽しい夏休みを過ごせるといいですね。

2018年7月22日日曜日

海水から真水をつくる

先日の海の塩分の質問をされた方には、もう一つの質問がありました。「海水からどうやって真水をつくるのですか」というものです。

大きく分けると2種類の方法があります。一つは、海水を蒸留させて、真水にするもの。海水を温めていくと、やがて液体の水がどんどん水蒸気となっていきますが、この水蒸気を集めて冷やすと、液体の水に戻ります。これらを集めて、使用するものです。海水を加熱する必要があるため、運用し続けるにはそれなりにコストがかかりますが、中東諸国ではこの方法を用いて真水を手に入れています。

もう一つは、海水を膜を通して塩分を除き、真水にするものです。非常に目の細い膜を通すため、水に強い圧力をかけて濾しとる(ろ過する)ことになります。そのときに使われている膜は、下の写真にあるようなものです。真ん中に濾しとられた水が通ります。膜自体は非常に小さな穴(2ナノメートル以下(ナノメートルは1ミリメートルの百万分の一)が空いていて、そこを海水が通り抜けて、不純物を通さないようにしているわけです。

©︎ David Shankbone

蒸留する方法でも、ろ過する方法であっても、採取された真水は飲み水にするためには適していない段階で、殺菌や滅菌、あるいいはミネラルを添加して飲めるようにする必要があるそうです。