2022年6月6日月曜日

「灰汁(あく)」ってなに?

 5日(日)の NHKラジオ「子ども科学電話相談」で、『コンニャクとゴボウ・ニンジンを炒めたら、コンニャクが緑色に変わってしまいました。熱のためですか、それとも野菜のためですか?』という質問がありました。

確かめるには、(1) コンニャクのみを炒めて色が変わるかを確かめる、(2) コンニャクとゴボウを炒める、(3) コンニャクとニンジンを炒める、の3パターンを確認すれば、なにがコンニャクの色を変えるのかがわかります。でも、今日のお昼ご飯のおかずだったので、そんな時間はないし、作っちゃったし…   となれば、「子ども科学電話相談」に電話! でしょうか。

コンニャクの色を変えたものは、ゴボウでしょう。ゴボウには「クロロゲン酸」という物質が豊富に含まれていて、クロロゲン酸はアルカリ性になると緑色を示します。よく耳にする「ポリフェノール」の一種で、ポリフェノールは植物がもつ苦みや色素の成分の総称で、5,000種以上もあるといいます。ポリフェノールには酸性やアルカリ性のもとでは、色が変わるものがあります。たとえば、紫キャベツに含まれるアントシアニンもポリフェノールです。

よく、野菜を調理するときに「灰汁(あく)を取る」ことがありますが、クロロゲン酸は灰汁の成分の一つで、「苦み」や「えぐ味」をもちます。子どもが野菜を嫌うのは、この苦みのせいだと言われることがありますが、逆に大人はタラの芽やコゴミなどの独特の苦みを楽しんだりします。

子どもはもともと、野菜の素材がもつ苦みは好みません。大人になるまでの過程で、いろいろなものを口にして「慣れていく」ことで、ふつうに食べられるようになるとか。みなさんにも経験があるのではないでしょうか。そんなことが記された記事を、かつて Science Window (科学技術振興機構)の「いただきますの向こう側」(2010年春号)という特集記事にまとめましたので、興味のあるかたはぜひ、PDFでご覧ください。

2022年6月4日土曜日

宇宙ゴミ ―スペース・デブリ―

宇宙ゴミに関心がある学生さんも、少なからずいるようです。

宇宙ゴミ(スペース・デブリともいいます)は、人間が打ち上げたロケットの部品や、役目を終えた人工衛星がそのまま地球の衛星軌道上に漂っているものです。宇宙飛行士がうっかり落としてしまった工具や手袋などまであるそうです。

この宇宙ゴミがどれだけあるかを NASA が発表しています。以下の図は、NASAで確認している直径が 10 cm を超える宇宙ゴミを白い点で示しています。


直径 10 cm 以上の宇宙ゴミ ©︎NASA


これらの白い点が宇宙ゴミです。「こんなにたくさん…!」と思うかもしれませんが、さらに遠方まで広がっています。宇宙に打ち上げられた人工衛星やロケットの切り離した部品は、回収されてこなかったため、こんなにあるのです。

この宇宙ゴミは、現在活動している人工衛星や宇宙ステーションに衝突することもあります。わずかな凹みなどで終わればいいのですが、加速した宇宙ゴミは凶器と同じです。人工衛星を破壊してしまうことも考えられます。 2011年6月28日には、国際宇宙ステーションに宇宙ゴミが接近し、乗員が避難した騒ぎもありました。また、2009年には、アメリカの衛星携帯電話会社 Iridium Satellite 社の通信衛星 “Iridium 33”と、すでに役目を終えて宇宙ゴミとなっていたロシアの軍事衛星 “Cosmos 2251” が衝突し破壊され、さらに700個近い新たな宇宙ゴミをつくり出してしまいました。

現在とられている対策は、ロケットの打ち上げ時には破片が出ないような設計をする、あるいは役目を終えた人工衛星は地球の大気圏に再突入させてしまう、などのほか、宇宙ゴミを回収する人工衛星の開発が進められていますが、まだ有効な手段は明確になっていません。

2022年5月17日火曜日

電子はいつも均等に分布するのか?

今年度の「物理学」の授業では量子物理学を扱っています。原子の構造は、原子核(陽子と中性子の集合体)の周囲に電子が存在していますが、この電子は「電子雲」のように広がった存在をしています、という話題を提供しました。中学校や高等学校では、以下のような図を学んでいて、とても規則正しく電子が位置しているようなイメージをもっているはずです。

酸素原子は原子核に8個の陽子をもつので、その周囲には8個の電子が存在して、電気的に中性(つまり、プラスマイナス0)になっています。

酸素原子の原子核(中心部)と周囲の電子の配置モデル

受講者から、こんな質問が寄せられました。

電子が電子雲として存在しているのであれば、電子が偏って存在することもあるのですか。

答えを先に言うと、「あります」。一般に、高等学校までの学習内容では、分子は電気的に中性になっていると学びますが、実際には必ずしもそうなっているわけではないのです。

身近な物質で、電子が偏って存在しているものがあります。その例は水です。水は酸素原子が1個と水素原子が2個でできる分子ですが、このとき電子が偏って存在します。高等学校までの知識では、プラス1の電荷をもつ H が2個と、マイナス2の電荷をもつ O2− が結びつけば、電気的に中性的になると考えられます。

ところが実際には、分子は必ずしも中性を示しません。水は、以下の図のように電子が偏って存在しています。

©︎ Kyowa Interface Science Co., Ltd.

1個の水分子でも、酸素に近いところは電子が偏って(つまりこの付近は電気的にマイナス)存在しています。逆に、水素の付近では電気的にプラスになっています。こうすると、水分子同士は酸素原子のマイナスの電荷と水素原子のプラスの電荷が引き合って、「水素結合」と呼ばれる結びつき方を示します。水分子で、この水素結合が強いことが、水の表面張力がほかの物質に比べて大きいことを説明できると考えられています。

2022年5月13日金曜日

ダイヤモンドと鉛筆の芯

ダイヤモンドと黒鉛は、ともに炭素(C)からできています。黒鉛がピンとこない人は、鉛筆の芯を思い浮かべてください。鉛筆の芯の主成分は黒鉛で、硬さを調整するために粘土を混ぜてつくります。

これらのダイヤモンドや黒鉛は、純粋な炭素からできていていますが、ダイヤモンドは自然界でもっとも硬いといわれる一方で、黒鉛は非常に軟らかいものです。同じ炭素でできているはずの物質(このように、同じ種類の元素でできているにもかかわらず、性質が全く異なる物質を「同素体」と呼びます)なのに、なぜもこんなに違うのでしょうか。

それは、炭素原子どうしの結びつき方の違いにあります。

炭素の結びつき方の違い(©︎sience-stock)

上の図のとおり、ダイヤモンドは1個1個の原子が周りの原子としっかり結びつき、このときの炭素原子は「共有結合」という方法で結びついています。

一方、黒鉛は六角形をつくりためには炭素原子は共有結合によってしっかりと結びついていますが、図の上下方向には非常に弱い力でしか結びついていません。この弱い結びつきは「ファンデルワールス力」と呼ばれるものです。

黒鉛がぼろぼろと崩れるのは、このファンデルワールス力が弱い結びつきであるためです。結晶構造が違うと、このように同じ炭素原子でできているのに全く違う性質を示すことができるのです。

2022年5月6日金曜日

「みんなで解決! 子ども科学電話相談」は7日(土)午後6時5分から

「子ども科学電話相談」がテレビに登場! 5月7日(土)の夜6時5分から、NHK総合テレビで「みんなで解決! 子ども科学電話相談」が放映されます。5日(木)のラジオでちょっとだけお話ししたとおり、私の大学のゼミ生とともに、実験を行なった様子が収録され、放送の予定です。何を実験したかは、放送をお楽しみに!

子どもたちからは、とても多くの質問が寄せられます。実際に放送で取り上げられるのは残念ながら、ごく一部。答えられなかった質問の中には、私自身がうまく説明できない、あるいはわからない、というものもあります。

答える内容について自分自身が理解できても、それを子どもたちにわかってもらえる内容にしないと意味がありません。説明を終えて「わかったかな?」と尋ねたときに、電話の向こうのお子さんから「わかんな〜い!」と返答されると、がっくり(orz)くるのです…   そうならないように、何かの喩え話をしてみたり、スケールを変えてみたりしながら、具体的な絵が思い浮かぶような話をします。そのとき、喩え話が正しいのか、自分で実際に確かめたくなります。

また、私自身がまったくわからない、という場合には、実験できるのであれば実験したくなります。ただ、すぐにできる実験もあれば、そうでない実験もあったりします。また、実験ができたとしても、疑問の答えがすぐに結びつくかどうかもわかりません。

今回のテレビで扱われる実験は、なかなかできない実験で、お子さんの質問にはまだ答えを出せていないのですが、ゼミの学生たちと一緒に答えを探している最中なのです…

ぜひ、5月7日(土)の夜6時5分から「みんなで解決! 子ども科学電話相談」をご覧ください!