2020年3月1日日曜日

東向きの方位磁針は作れる?

3月1日(日)のNHKラジオ「子ども科学電話相談」(10:05〜11:50)に科学担当で回答しました。今回は番組内で「鉄道」の質問と合わせて10問が取り上げられました。質問を寄せていただいたお友達や、放送をお聞きいただいたみなさま、ありがとうございました。

それらの質問の中に、『東を向く(方位)磁石はありますか?』という小学校3年生のお子さんからの質問がありました。お子さんの質問を聞いた瞬間には、

  • Q:どうして方位磁針は北と南を向くのか?

という質問だと考えました。そのため、

  • A:方位磁針とは赤い針が北を向くもので、それは地球が大きな磁石になっているから。東というのは北でも南でもないので、針が向くことはない

という回答を思いついたのですが、その直後、いくつか疑問が浮かびました(回答者なのに…)。もしかすると、この質問は

  • Q’:東を示すようなしくみをもった器械を作ることはできないのか?

という質問なのかなと(なぜか)瞬間的に考え直し、先ほどの回答に加えて

  • A':北を向いた針と直角に針をつければ、東の方角を向く器械を作ることができます。北に向かって右手を東というのですよね

というようなことを回答しました。お子さんは納得(?)してくれましたが、お子さんのこの質問には次のような内容が含まれていたのでした。

  • Q'':将来的に東の方向が変わることはないの?

という、とてもおもしろく、興味深い疑問です(私はどうして将来的に東が変わるかもしれない、と思ったのかを聞いてみたい衝動に駆られたのですが)。地球は大きな磁石になっていますが、それは方位磁針のN極が北を向くということから、地球という磁石は北極が磁石のS極、南極が磁石のN極であることになります。ところが、この状態は過去も、そして未来も続くわけではありません。今から77万年前から258万年前までは、北極が磁石のN極、南極が磁石のS極であったことがわかっています。このようなことを「地磁気逆転」といいます。過去360万年の間に11回の逆転現象がありました。

ごく簡単に、このようなことを回答したのですが、私の頭の中に、一つ大きな疑問が浮かんでしまいました…

  • Q''':地磁気が逆転するとしたら、東という方角を現在と同じように定義できるのだろうか? もし逆転したとしても、これまでと同じ方向を北と定義し直したりすることもあったりして…    最近の地磁気逆転が起こった77万年前は、このような方角などという文化はなかったわけだし…

と考え出し、『あ、そっか…   (東の定義を考え直す必要があるかもしれない…    でも、今の質問はこういうことじゃないから)まぁ、いいか』という独り言が、しっかり放送に流れてしまったのでした。


これまでにこのような地磁気の逆転現象があったわけですから、今後も同様にこのようなことが起こると考えられますが、それがいつのことかはわかりません。この回答中、私が大学生のころ、この地磁気逆転に非常に興味を覚えていろいろな専門書を読んだ記憶が鮮明に甦りました。

さらにもう一つ言えば、地球の自転軸の北端(北極点)と地球が磁石からできていると考えたときの「地磁気北極」とはわずかにずれています。じつはもう一つ、北極があるのですが、そのことはまた明日。

2018年9月18日火曜日

夏休み子ども科学電話相談

今年も NHKラジオ「夏休み子ども科学電話相談」が8月31日(金)に無事に終了しました。ただ、今年の放送では、この番組のすべての放送の「聞き逃し」サービスが、9月末日まで延長されています! 聞き逃しはこちらからアクセスできます。さらに、いくつかの質問は NHK が文字起こしをして、ホームページに公開されています。ぜひ多くの方々にお聴きいただき、またテキストをご覧いただきたいと思います。

この番組で私は「科学」という分野を担当していますが、この「科学」という枠組みはとても広いと思われがち。でも、世の中のすべての現象はきっと「物理学」という学問で説明できると信じて(?)いる私にとっては、いかに矛盾なく現象を説明できるか、ということを考えて説明しています。物理学といえば、みなさんもすぐに連想するであろう、運動・熱・波などを扱う分野です。これらの法則を使って、きっと世の中は説明できるだろうと考えて、小さなお友だちにもわかるように説明しているのです…

毎日の天気の移り変わりや、テレビに映像が出るしくみ、生き物の心臓が動くことも、物理的に説明することができます。物理というのは自然科学の分野のなかでも、もっとも基本的な領域なのです。

「なんでも科学で説明できます」と言っても、世の中には現代の物理では説明できないことがあるかもしれません。でも、それはきっと、

  • 私たちがまだ知らない科学法則があるから
  • 私たちが見たり認識したりした現象が、じつは正しく認識されたものではなかったから
のどちらかなのだろうなぁ、と私などは思ってしまいますが。

でも、子どもたちはそんなことにお構いなく、質問を投げかけてきます。こんな質問には、みなさんならなんと答えますか? 「妖怪って、いるんですか?」

これはかつての放送で実際に取り上げられた質問で、私が答えた(「これも科学なの?」とネット上で呟かれたのですが)ものですが、みなさんなら、なんと答えますか? 後ほど、私からの回答を取り上げます。それまで、みなさんの回答をご用意ください。



2018年8月29日水曜日

コアラのゲノムを解析!

法政大学の私のゼミナールでは、最先端の科学研究の成果を伝える Nature Video の内容について解説記事を作成し、Nature ダイジェストのホームページから発信されています。8月号の記事が公開されましたので、ご紹介します。

今月は「コアラのゲノム解析」についての話題です。愛くるしい姿で多くの人気を集めるコアラですが、出産した子どもを腹部の袋で育てるという、オーストラリア大陸で特異な進化を遂げた動物の一種。動画にはとても可愛いコアラが収められています。

コアラは、多くの動物が食べないユーカリを食べて生きています。ユーカリの葉には毒があり、ふつうの哺乳類が食べてしまうと死んでしまうほどの強い毒をもっています。なぜ、コアラはそんなユーカリを食べることができるのでしょうか?

また、コアラの世界では「クラミジア」という感染症が大流行しています。コアラにとってクラミジアは失明、膀胱炎、さらには不妊の原因となる病気。野生動物の病院に入院するコアラの40%は、クラミジア感染症の末期の状態にあるといわれます。なぜ、コアラの間でクラミジアが流行しているのでしょうか?

それらの問いの答えは、コアラのゲノム解析によって明らかになっていくでしょう。ほかにも、コアラを含む有袋類という種類の動物に共通と考えられている、母乳の大切な役割についても解説されています。


ブログをお読みの方で、なにかご質問がありましたら、こちらからお寄せください。ご遠慮なくどうぞ。

2018年8月27日月曜日

「不安定な」大気って…?

ブログをご覧の方から、質問をいただきました。「不安定な大気って、なにが『不安定』なのですか? 天気が不安定っていうこと?」というものです。

27日の関東地方は、まさにこの「大気が不安定な」状況になり、急激な雷雨が発生しました。東京では浸水被害もあったとニュースで伝えられています。

確かに、大気が不安定になると、結果的に天気は急変します。大気の不安定とは、「大気の構造が非常に変化しやすい状態になる」ことをいいます。ものの性質として、同じ体積だと温かいものは上方に、冷たいものは下方に運動します。よく混ぜていないお風呂と同じです。とくに沸かしたばかりのお風呂では、上は熱くても下の方は冷たいことがありますね。

大気の上の方が冷たく、下の方が温かい場合、下にある大気が上に向かって上昇していきます。すると大気が冷やされていくので、大気に含まれていた水蒸気が水滴や氷の粒となって現れてきて、急速に雲が発生します。このような雲は「積乱雲」です。温かい大気が大量に存在すると、それだけ積乱雲も大きくなります。

積乱雲の内部では、水滴や氷がぶつかることで静電気が発生し、雷が発生します。ぶつかることによって大きくなった水滴などは重くなり、上昇気流で浮かんでいることができなくなり、雨となって地表に降ってきます。このようにして、激しい雷雨が起こるのです。


ブログをお読みの方で、なにかご質問がありましたら、こちらからお寄せください。ご遠慮なくどうぞ。

2018年8月2日木曜日

サンゴ礁を取り巻く危機

Nature Video の日本語解説記事の最新版が、Natureダイジェストのウェブページにアップロードされました。この暑さですので、涼しげなサンゴの研究を取り上げました。ぜひ、お読みください。簡単に内容をお伝えすると…

サンゴ礁は「海の熱帯雨林」とも呼ばれており、多くの生き物のすみかとなっていて、生態系で重要な役割を果たしています。サンゴ礁はクラゲやイソギンチャクと同じ仲間のサンゴによって造られます。そう、サンゴ礁は動物が造ったものなのです。サンゴは石灰質の骨格をつくります。小さな小さなサンゴが、長い年月をかけて大量に集まってサンゴ礁を造り上げていたのです。

サンゴの生態はよくわかっていません。それは、小さなサンゴを海中で直接観察することが難しい、ということがあります。近年、海中で使用できる顕微鏡が開発され、サンゴの生態が明らかになってきました。ウェブページの映像をご覧ください。

そのサンゴ礁が、危機に脅かされています。それは海水温の上昇と、海中のゴミのためです。サンゴは海水温が高くなると、内部に共生させている「褐虫藻」という植物が逃げ出してしまい、最悪の場合はサンゴが死んでしまうのです。また、海中に捨てられたゴミがサンゴを傷つけ、プラスチックの表面に付着した病原菌がサンゴを弱らせているのではないか、という研究も報告されています。

プラスチック製品は私たちの生活を便利にしてくれましたが、環境に及ぼす影響は、私たちが考えているよりも大きいようです。つい最近、スターバックスがプラスチックストローの削減を発表しました。プラスチックを使っても、どこかに捨てるのではなく、定められた方法できちんと処分するということが、私たちにできる方法かもしれません。