2025年1月6日月曜日

においをだれもが同じに感じるか?

においは物質に特有な性質です。においを感じるためには、「においのもと」の物質が、私たちの鼻の奥にある「嗅細胞」に触れなければなりません。嗅細胞が「においのもと」によって刺激を受けると、つながっている神経細胞を通じて刺激が脳に送られ、「においがする!」と感じることができます。

「においのもと」である物質は、空気中を移動して嗅細胞にたどり着かなければならないので、そのような物質は揮発性物質でなければなりません。揮発性物質とは、日常的な温度で液体あるいは固体から気体になりやすい物質のことです。一般に揮発性物質は温度が高くなると、より揮発しやすくなります。ホットコーヒーからは香りが立ち昇ってきますが、アイスコーヒーからはそれほど香りを感じないのは、このような理由です。

だれもが同じにおいを感じているわけではありません。たとえば、ヒトをはじめとする動物に有害なシアン化水素は、特徴的な「アーモンド臭」がすると言われます。みなさんが食べ物としてよく知っているアーモンドの香ばしいにおいではなく、収穫前の甘酸っぱいようなにおいですが、60%ほどの人はこのアーモンド臭を認識できます。残りの40%の人は、アーモンド臭を認識できないことが知られています。これは遺伝的に認識できないためです。このように、においの感じかたには遺伝的な個人差などがあり、さらにそのにおいをよいにおいと感じるか、あるいはそうでないかには個人の経験にも左右されます。

就寝前のひとときなどに、自分のリラックスできるにおいを感じる環境を用意できれば、安眠できるかもしれません。

この話題に関係のある NHKラジオ「子ども科学電話相談」の質問と回答のやりとりを「読む」ことのできる NHK「読むらじる」が、以下の URL から公開されています。ぜひご覧ください。



2025年1月5日日曜日

ほこりはどこから出てくるのか?

読者のみなさまからいただいた質問に、「埃(ほこり)はどこからでてくるのか?」というものがありました。いつも掃除をしているはずなのに、どこからともなく出現する埃。喘息やアレルギー疾患のある方は、埃には気をつけて生活されていることと思います。

さて、埃をよく見ると、ふわふわしたものでできているように見えるはずです。このふわふわしたものは、細い「繊維クズ」からできています。私たちが生活する中で、衣服を着ていますが、この衣服からはどうしても繊維クズが生じます。布地が折れ曲がったり、擦れたりしただけで少しずつ繊維が切れていきます。その証拠に、長く着用した衣服は薄くなっていきます。

この繊維クズはとても小さく軽いので、部屋の中の空気の流れに乗って、空気が溜まりやすいところに集まってきます。部屋の中で、埃は部屋の真ん中には現れません。部屋の隅や、物陰にできます。そのようなところは空気が溜まりやすいということです。さらに、繊維クズが絡まってもらわないと、ふわふわにはなりません。

繊維クズを絡ませるのは、空気の渦です。激しい渦でなくても、部屋の中の空気は移動中に渦を巻き、その渦にのって繊維クズも一緒にコロコロと移動するのでしょう。

埃には繊維クズ以外にも、ティッシュペーパーの繊維や、ダニの死骸や排泄物、カビの胞子なども含まれます。これらが集まって、やがて立派な(?)「ふわふわした埃」になるのです。

このような埃の発生を防がなければならない半導体の製造工場などでは、「クリーンルーム」が設けられていて、繊維クズが発生しないような素材の服を着て、クリーンルームへの入室時に埃のもとが入り込まないように強力な空気を入室者に当てるなど、さまざまな工夫が凝らされます。

日常生活で埃の発生を防ぐことは難しいので、適切な間隔で掃除することが必要なのですね。


2025年1月4日土曜日

新刊『「なぜ・どうして」からはじめる物理学』(培風館)

2024年 11月に培風館から『「なぜ・どうして」からはじめる物理学』が発売されました。このページをパソコンでご覧いただいている方は、画面の右側にこの書籍の表紙をご覧いただけるはずです。

培風館は、2024年に創業 100周年を迎えた理工学専門の老舗出版社です。培風館のホームページにアクセスすると、『多変数の微積分』や『物性研究者のための場の量子論』、『宇宙流体力学』など、大学生〜専門家向けの書籍を主に発行していることがわかるでしょう。私たちも大学生だった頃から、培風館の書籍で勉強しておりました(私より一世代前のみなさんは、高校数学の参考書で馴染みがあるかもしれません)。

培風館から、文系の大学生を対象とした物理学の教科書を書いてみないか、と打診されたのは2019年のことでした。どんな内容がいいのかを考えながら過ごしていると、あっという間に時間が過ぎ、気がつけばコロナ禍に突入しておりました。コロナ禍になると大学の授業はオンラインとなり、街は人の行き来がなくなり、授業の内容もいくぶん変化しました。

そんな時期を過ぎてさらに数年、ようやく 2024年の出版に漕ぎ着けたという書籍です。

この書籍は、「大学の教科書」ということもあり、余白に十分な空白が設けられています。また、判型も大きめのB5版です。内容は文系の大学生に向けたもので、物理学に関心をもってもらえるようなものにしています。もちろん、大学生だけではなく、学生でない一般の方々にも「科学に触れてみたい」と感じたときに気軽に読むことができるような構成にしています。

世の中のとても多くの自然現象が「物理学」で説明されます。こう書くと、高校までの物理学の授業を思い出し、「公式がたくさん出てくるのでしょ」とか、「数式がいっぱい出てくるのでしょ」と感じる人がいらっしゃるでしょう。物理学は数学で記述されることによって、一般的な法則として扱うことができるようになるのですが、一方で数式は多くの読者にとって「受け入れがたい」ものであることも事実です。

そこで、この書籍では数式を使わずに、現象を説明するような書き方にしました。さらに、各章のタイトルは疑問で示すようにしました。文系の学生が疑問に感じることをそのまま示した形です。具体的な章の構成は、
  1. なぜ地震が起こるのか?
  2. なぜ天気は変わるのか?
  3. なぜ太陽は輝くのか?
  4. なぜ空と海は青いのか?
  5. 地球や月はどのように形成されたのか?
  6. 宇宙にはどのような天体が存在するのだろうか?
  7. 宇宙はどのような構造をしているのだろうか?
  8. どうして夜空は暗いのだろう?
  9. 宇宙はどうやって観測しているのだろうか?
  10. 宇宙で物質はどのように生じたのだろうか?
  11. 私たちの身の回りの物質は何に由来するのか?
  12. 極微の世界と日常の世界に違いはあるのだろうか?
  13. 宇宙はこれからどうなるのだろうか?
  14. 生命はどのように生まれたのか?
  15. 私たちはどのように生きていくべきか?
となっています。「あれ? 地学じゃないの?」と思うかもしれません。でも、自然科学には「これは物理」「これが地学」という境界はなく、一つの現象をいろいろな見方で考えた結果、より理解が深まるのです。地学と考えがちな領域も、「地球物理学」「宇宙物理学」など物理的な側面でいろいろな研究が行われています。

ぜひ、科学に関心をもちはじめた人に読んでいただきたいと願っています。


2025年1月3日金曜日

白パンはなぜ白い?

みなさま、あけましておめでとうございます。2025年がみなさまにとって素晴らしい一年になることをお祈り申し上げます。


さて、2024年 12月 30日に放送された、NHKラジオ「冬休み 子ども科学電話相談」。小学校2年生のお友だちから、「食パンはやわらかいのに、焼くとどうしてカリカリになるの?」という質問について、関連した質問がこのサイトに寄せられました。


【質問】────────────
「食パンを買ってくると、焼かれて外側が茶色に色づいています。切ってトースターで焼けば、白かったところが茶色になりますが、『白い食パン』とか『白パン』などの名前で販売されているパンは、焼いているはずなのに白いのはなぜ?」
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パンは焼くと色がつくもの。そう思っている人も多くいらっしゃるかもしれませんが、確かに「白パン」などは焼かれているはずなのに白いままです。パンや肉など、焼くと色がつくのは「メイラード反応」という化学反応によるものです。メイラード反応とは、糖とアミノ酸が反応して茶色の物質(メラノイジン)が生じる反応です。パンが焼けて茶色になったり、生肉が焼けて褐色に変化したりするのはこのためです。茶色の物質ができるだけでなく、香ばしい香りを生じる物質も作り出されます。

このメイラード反応は、180 ℃ほどになると急速に進みます。それより低い温度でも、進み方はゆっくりですが反応は起こります。その一例が、白パンです。白パンが工場で焼かれるとき、150〜160 ℃くらいの比較的低い温度で焼きます。そのため、急速なメイラード反応が起こらず、表面が白いままなのです。

フライパンの上のような高い温度でなく、低い温度でメイラード反応が起こっている例に、味噌があります。味噌は大豆や米が種原料ですが、これらに含まれる糖とアミノ酸でメイラード反応が起こり、時間の経過とともに色が濃くなっていきます。

ほかにも、刻んだ玉ねぎを弱火で炒めると飴色に変わるのも、メイラード反応によるものです(ただし、焦げてさらに色が濃くなってしまった状態は、炭化です)。

なお、メイラード反応の「メイラード」とは、この反応メカニズムを明らかにしたフランスの化学者、ルイ=カミーユ・マヤール(マヤールは英語読みだとメイヤードになり、日本語では「メイラード」になったようです)に因みます。


2024年11月3日日曜日

紫金山・アトラス彗星

 2024年 10月後半から、夕方の西の空に見えるようになった「紫金山・アトラス彗星(C/2023 A3)」ですが、10月 20日(日)に望遠鏡で確認してからは天気に恵まれず、観測できませんでした。

11月 3日(日)は久々に東京地方も晴れ渡り、望遠鏡を持ち出して観測しました。先月の夜よりは気温も下がり、しっかりと着込まなければいけません。

双眼鏡を使って探してみましたが、残念ながら私にはわかりませんでした…   でも、望遠鏡では確認できました(というより、探してくれた?)!

紫金山・アトラス彗星(Seestar S50 で撮影)

先月よりも暗くはなっていますが、まだ尾が伸びている様子を確認できます。3日は日没後、月が出ていなかったので、より観測しやすかったのかもしれません。この彗星は双曲線軌道を描くと計算されているので、この後は太陽系から飛び出していくことになりそうです。

11月上旬の朝方の東の空に観測される(かも)と予想されていた、「アトラス彗星(C/2024 S1)」は、太陽に接近している最中に、コマの部分が崩壊してしまった可能性が高いようです。ただ、コマが崩壊しても尾の部分だけが残って輝く場合もあるとか。ニュースで話題になるかもしれません。