2022年5月5日木曜日

「テクネチウム」って、なに?

5月5日(木)は、NHKラジオ第一放送の「子ども科学電話相談」の担当でした。大型連休の特別編成ですので、放送時間は朝8時5分から 11時 50分までのおよそ4時間に、「科学」の分野では4人のお子さんが番組に登場しました。

元素についてとても関心のある小学校1年生の男の子は、元素がどれだけあるのかを質問してくれました。彼は元素をしっかり覚えていて、元素名と元素記号をきちんと理解しているようです(こんなときに備えて、私のノートに元素の周期表が貼ってあったのでした…   すべての元素を覚えているはずもない私…)。

結論から言うと、元素は現在 118種類が認められていて、119番目の元素を求めて、日本をはじめ各国の研究機関が研究を進めています。宇宙で最初に誕生した元素は水素です。高温・高圧の初期宇宙では核融合によって、さらに大きな原子核がつくられていきます。このような核融合は、私たちの身の回りの「ふつうの状態」(常温常圧とも言います)では起こりえません。

恒星は核融合で生じたエネルギーをもとにして輝いています。太陽よりも重い恒星の中心部では、鉄までの元素が順につくられていきます。しかし、恒星の中心核で鉄が生成されると、恒星中心部の核融合はそこで止まってしまいます。つまり、恒星内部では、鉄より重い元素はつくられません。それは、鉄より重い元素をつくろうとすると、莫大なエネルギーが必要になり、エネルギーが足りなくなってしまうためです。こうなると、恒星の大気を支えていたエネルギーが失われ、恒星大気が一気に中心部に向かって落下してきます。このとき、大規模な爆発現象(超新星爆発)が起こり、このときに解放されたエネルギーによって鉄より重い元素の合成を進みます。

それでも、この超新星爆発によってつくられる元素はウラン(原子番号 92)まで。それ以降の番号の元素は、人間が科学の力で作り出した、人工的な元素なのです(ただし、ウランが中性子を捕獲することができれば、プルトニウムになることがあります)。

さて、番組の中で、お子さんが「テクネチウム」という元素を口にしました。みなさんはこの元素を聞いたことがあるでしょうか。原子番号 43番で、元素記号は Tc です。実はこの元素は変わり者で、安定同位体のない元素と考えられています。どういうことかと言うと、テクネチウムは放っておくと放射線を出しながら別の種類の元素に変わっていってしまう、ということです。このような状態を「安定同位体がない」と呼びます。

このテクネチウムは、SPECT と呼ばれる医学検査に利用されています。テクネチウムがガンマ線を放射することに着目し、CTでガンマ線を放射している位置を計測することでさまざまな情報を得ることができるのです。

身の回りで目にすることはなくても、いろいろな場所でさまざまな元素が使われている、という事例を紹介しました。

本日の放送分は、6月 30日(木)まで NHKの「聴き逃し」でお聴きいただけます。 

2022年5月4日水曜日

連休で静かな大学構内

大型連休です。みなさんはいかがお過ごしでしょうか。私はいつもとほとんど変わらない毎日です。

日中は暖かくても、朝夕はまだ気温が低い日々が続いていますが、大学の構内は緑が眩しい季節になりました。研究室の前の並木にも若葉が見え、きれいな景色です。

法政大学 多摩キャンパス 研究・実験棟からの風景

今日は連休時の移動ピークということで、あちこちの高速道路が渋滞しているようです。街中も車が多いように思います。

そんな連休中ではありますが、明日の5日(木・こどもの日)はNHKラジオ「子ども科学電話相談」の回答担当にあたっています。4・5日は特別編成なので、朝8時5分から11時50分までの放送となります。どんな質問が取り上げられるでしょうか…   ぜひ、お聴きください(「聴き逃し」でも提供されます

2022年5月1日日曜日

キラウエアを監視する科学の目

 Natureダイジェストのページで提供されている「Nature Video 活用事例」で、新しい記事が更新されました。今回は「キラウエアを監視する科学の目」です。キラウエアはハワイにある活発な火山。たびたび噴火しており、とても流れやすい溶岩が海岸にまで達します。

日本での火山は爆発的な噴火を伴いますが、そのような火山噴火とキラウエアの噴火は様子が違います。映像をご覧いただき、その違いを確認してください。掲載されている記事では、日本に火山が多い理由や、キラウエアの特徴なども解説しています。

私の出身地の北海道・道南地区には、駒ヶ岳や恵山などの活火山があり、夜景で有名な函館山もかつては火山でした。函館山はおよそ100万年前に噴火し、私の出身・函館中部高校の校歌にも、〽︎火柱のはためく峰も 年経りて緑の臥牛 と謳われています。「臥牛」とは函館山の別名で、街の方から函館山を眺めると「牛が寝そべっている」ように見えるため、そう呼ばれるとのこと。

函館山は気象庁の示す活火山に指定されていませんが、駒ヶ岳は活火山です。周辺には大沼や小沼(「沼」と呼ばれていても湖です…)など駒ヶ岳の噴火によって形成された湖があり、北海道でも有数の観光地になっています。駒ヶ岳はきれいな形をしている火山ですが、もともと駒ヶ岳は富士山などと同じ成層火山で、円錐のような形だったとか。1640年の大噴火で、上の部分が吹き飛び、現代のような形になったことがわかっています。

噴火はときに大災害を引き起こしますので、火山に近いところに住んでいるみなさんは、普段から備えておく必要がありそうです。

2021年5月17日月曜日

うがいでは、毎回うがい薬を使うべき?

 「新型コロナウイルスの感染を防ぐために、手洗い・手洗いを心がけています。毎回気になって、うがい薬を使っているのですが、うがい薬にどれほど効果があるのでしょうか?」という質問がありました。

厚生労働省の「新型コロナウイルス感染予防のために」には、うがいは含まれていません。昔から、外から帰ったらうがいをすることは風邪の予防になると言われてきましたが…

うがいの有効性についての研究はそれほど多く行われているわけではないようですが、2005年に日本人研究者によって、上気道感染症(いわゆる風邪)に対するうがいの効果についての学術論文が発表されました。この論文では、18歳から65歳の387人を次の3グループにわけ、60日間の健康状態を確認しました。

  1. 水で1日に3回、うがいする
  2. ポビドンヨード液(うがい薬)で1日に3回、うがいする
  3. ふだんどおりの生活をする(うがいについての指示をしない)
60日間に、130人が上気道感染症に罹りました。結果のみを示すと、もっとも罹りにくかったのは「水で1日に3回、うがいする」グループで、次が「うがい薬を使ったグループ」ということだったそうです。統計的に、水でうがいすることに効果があることが確認されたものです。ただし、なぜ水でうがいをすることが風邪を防ぐ効果があるのかは、よくわかっていません。

殺菌効果をもつうがい薬は、口の中の常在菌を殺してしまうため、一日に何度もうがい薬を使うべきではない、と私のかかりつけ医は考えているようです。水でのうがいで考えられる副作用はないようですので、気になるようであれば帰宅時にうがい薬を使い、それ以外は水でうがいする、という使い分けをするという考え方もありますね。

風邪を引いてしまっても、水によるうがいには症状を和らげる効果があると、先の論文には示されていました。

2020年9月13日日曜日

『ブロックで学ぶ素粒子の世界』

9月に白揚社から翻訳書『ブロックで学ぶ素粒子の世界』が発売されました。このサイトでも紹介しているとおり、目を引く美しい表紙で、大手の書店では表紙を示して販売されているようです。

この書籍の翻訳は、私のゼミでの学生たちの活動の成果でもあります。ゼミの活動では Nature Video の解説記事の制作などの文章制作を手がけており、その一環です。書籍を作るには原稿を書くだけでなく、原稿のファイルを順番にまとめたり、表現を統一したり、さらにゲラを確認して修正すべき点を確認し、その修正が適切に行われたかなど、行うべき作業は膨大です。必要に応じてこれらの作業を分担し、出版にこぎつけることができました。本書の最後に示されている「翻訳協力」のメンバーもぜひお目通しください。学生たちの名前が輝いています。

この書籍の内容の一部を、白揚社のホームページでご覧いただけます。全ページフルカラーで、とても美しい内容です。

素粒子物理学は高等学校までの物理学でそれほど詳細に扱われるわけではありません。一方で近年のニュースで加速器やヒッグス粒子など、素粒子の話題を見聞きすることもよくあります。「ものとはいったい何からできているのだろう」、「陽子や中性子はさらに分解できるのだろうか」などの疑問に答えるのが、素粒子物理学です。

そんなニュースを知って、素粒子物理学を学んでみようと思った人が入門書を手にすると、「まるで入門書ではない」ような数式がたくさん出てきて挫折してしまった、ということがあるかもしれません。この本はそのような数式は扱っていません。ものをつくり上げている基本的な粒子を「レゴブロック」に置き換えて、ものがブロックの積み上がる状態で表しています(ある意味、非常に挑戦的な表し方ではあります)。

ブロックには「ポッチ」(スタッドというそうです)があることで上下に組む(つまりものの構成要素になる)ことができますが、ブロックの中には上面が平坦で「ポッチ」のないものもあります。「ポッチ」のないブロックは、ものを構成することができません。このようにして、ものをつくり上げている粒子と、そうでない粒子をうまく表現しながら、素粒子の世界の説明が進められています。

この書籍で「難しいなぁ」と感じたところは読み飛ばしてかまいません。大事なことは後からなんども言い方を変えて登場します。「あぁ、そういうことだったのか」と読みとってもらえるはずです。そして、「イントロダクション」が実はもっとも難解なので、もしかすると第1章の「基本ブロックと組み立て方のルール」から読んでいただいた方がいいかもしれません。


「素粒子について考えたことのない」というみなさんに、いくつか興味を持たれるような話題を示してみます。

  1. みなさんが学校で習った原子核を振り返ってみましょう。原子核には正の電荷をもった陽子と、電荷をもたない中性子が「ぎっしり」詰まっています。よーく考えると、ちょっと不思議です。正電荷を帯びたものは、互いに反発し合うはずです。なぜ、ぎっしりと詰められているのでしょう。これは私たちがよく学んだニュートン力学で扱う「力」では説明できず、素粒子物理学で扱う「力」の一種によって説明できます。この力は、私たちが感じることはできない力なのです。そんな世界をのぞいてみたいと思いませんか?
  2. さらに、素粒子物理学は宇宙にも関係します。なぜなら、宇宙のはじまりは非常に小さなもので、そのような世界に存在したものは素粒子だからです。そこからどうしてこんな大きな宇宙になったのか、知りたくありませんか?

ぜひ、書店で手に取ってお買い求めください。


もちろん、このブログをお読みいただいているみなさまが、この書籍をお買い上げいただき、疑問な点をtwitterでお知らせくだされば、訳者の私がきっちりと回答いたします! ので、ご安心を。タグは「ブロックで学ぶ素粒子の世界」でしょうか。