2025年1月9日木曜日

「手作りバター」はいかがですか?

先日、ある会合で「科学実験」の実演依頼がありました。飲食を伴う会場で化学薬品を使うことは少々気がひけるので、「手作りバター」をつくる実験を計画しました。みなさんは体験したことがあるでしょうか?

バターは牛乳の成分のうち、乳脂肪分を固めたものです。生クリームは乳脂肪分を濃縮しているので、簡単にバターを作ることができます。生クリームに含まれている乳脂肪を、振ることによって衝突・合体させて、どんどん集めれば、やがてバターができる(まるで太陽系の形成過程の一部?)のです。

用意するものは
  • 生クリーム
  • ペットボトル
  • 衛生的なガーゼ
  • はさみ
だけ。作ったバターをそのまま味見するのはなかなかきついでしょうから、味の薄いパンがあればなおよいでしょう。塩がかかっていないクラッカーにバターをつけて食べることも、予備実験で行ってみましたが、クラッカーの味そのものがかなり強く、バターを味わうには難しいようです。

生クリームは原材料に「牛乳」あるいは「生乳」と示されたものでなければなりません。植物性クリームからはバターはできませんので、ご注意ください。

今回は、500 mLの水を購入して、ペットボトルを使いました(衛生面から、飲み終わったものを使うのは控えたほうがよさそうです。水は氷を入れた容器に移します)。このペットボトルに、生クリームを 100 mL 入れます。しっかりふたをして、あとはペットボトルを振るだけです。ときどき、氷水にいれて冷やしましょう。

振っていると、やがて音がしなくなります。これは、生クリームがホイップクリームに変わった合図です。ふたを開けて、中を覗いてみましょう。きれいなホイップクリームになっていることがわかります。透明なペットボトルを使っていれば、内側全体がクリームで覆われている状態です。

さらに振り続けます。ここからはちょっと時間がかかるかもしれませんが、根気よく振り続けます。すると、突然、「バシャバシャ」という音に変わります。透明なペットボトルでは、固形分と液体に分かれていることを確認できるはずです。この固形分がバターです。ここまできたら、ペットボトルを切り、中身をガーゼで濾して、ガーゼに残った固形分を取り出します。

濾過した液体は、乳清(ホエイ)です。ヨーグルトに上澄みができることがありますが、それと同じもので、栄養分が含まれています。ホットケーキに混ぜるとふわっと仕上がるそうです。

このようにしてできたバターは、いわゆる「塩分不使用バター」です。日本人は日常的に塩分を摂りすぎという統計がありますので、このままパンなどにつけて味わってみてください。会合では、できあがったバターの半分に、ココアパウダーとグラニュー糖を混ぜたものも作りました。しっかり味がついて、お子さんには喜ばれるかもしれません。

一般に生クリームは商品名のあとに、「35」「42」「47」などの数字が示されています(メーカーによってこれらの数字は違います)。これは、乳脂肪の比率です。数字が大きいものを使えば、それだけバターも多くできます。夏休みの自由研究などで、乳脂肪分とバターの収量を確認してみるのも面白いかもしれません。

今年は「巳年」なので、パンの上にバターをヘビの形にできないかな〜と、予備実験でバターを注射器に入れて出そうとしました。しかし、バターは相当固いので、注射器で形成することはできませんでした。絞り袋に入れても、やはり無理。予備実験って、やはり大切なのですね…

2025年1月8日水曜日

白身の魚? それとも赤身の魚?

昨日はアスタキサンチンについての記事を配信しました。アスタキサンチンの話題をもう一つ、提供しましょう。

鮭(サケ)の身(筋肉)には赤い色がついていますが、じつは白身の魚です。その身が赤いのは、エビと同じくアスタキサンチンによるものです。エビもサケも、自分でアスタキサンチンを作り出すことはできず、食べ物から取り入れます。では、アスタキサンチンはもともとどんな生き物に存在していたのでしょう?

藻類に「ヘマトコッカス」とよばれる種類があり、この種の藻類は通常の環境ではアスタキサンチンをもちません。強い太陽光や高い温度などのストレスを受ける環境にさらされると、ヘマトコッカスはアスタキサンチンを作り出します。アスタキサンチンは活性酸素から細胞のダメージを防ぐと説明しましたが、このはたらきによってストレス環境下でもヘマトコッカスは生き延びることができるのです。

ヘマトコッカスは動物プランクトンの餌となり、さらにこのような動物プランクトンをエビやサケが食べることで、アスタキサンチンが体内に蓄積されていきます。つまり、食物連鎖によってエビやサケにたどり着くのです。この事例のように、環境に存在する物質の濃度よりも高い濃度で、生物の体内に物質が存在することを「生物濃縮」といいます。

天然のサケは、自然環境に存在するアスタキサンチンを取り入れた結果、身が赤くなりますが、養殖されているサケはそのままでは白身の魚に育ちます。かつて『ジェーン・グドールの健やかな食卓』(日経BP社 2011年)を共訳で出版したことがあります。ジェーン・グドールはチンパンジーの生態について研究する動物行動学者です。この書籍は、自然環境に配慮した食生活がいかに重要であるかを述べたもので、その中にサケの養殖についての記述があったことを思い出します。養殖されているサケの餌には、ピンク色の染料が混ぜられているそうです。論文(参考1)を調べてみると、サケの養殖では、餌にアスタキサンチンおよびカンタキサンチンを混ぜているようです(添加量は農林水産省令によって上限が決められています)。カンタキサンチンもアスタキサンチンと同様のカルテノイド色素です。

天然の環境と養殖の環境とでは、さまざまな違いがあります。「白身のサケ」では市場価値が下がるということから、わざわざ餌にアスタキサンチンなどの色素を混ぜて育てている、というわけです。もし、私たちが「白身のサケ」でも同じように購入するのであれば、わざわざ色素を混ぜる必要はない、ということなのでしょうが…


(参考1)K. Suzuki, et al.「養殖サケ・マス類中のカロテノイド系色素及び酸化防止剤の分析」Ann. Rep. Tokyo Metr. Inst.P.H., 57, 219, 2006

2025年1月7日火曜日

アスタキサンチンと活性酸素

今月5日(日)の NHKラジオ「子ども科学電話相談」で、「エビはどうして炒めると赤くなるの?」という、小学1年生の男の子の質問が取り上げられました。お母さんの料理のお手伝いをしていたとき、エビの色が変わったことに気がついたそうです。

エビなどの甲殻類は、アスタキサンチンと呼ばれる赤い色素をもっています。同時に、クラスタシアニンというタンパク質ももっています。エビに熱が加えられる前は、クラスタシアニンがアスタキサンチンと結びついていて、赤い色にはなりません。ところがエビを炒めたり、茹でたり、焼いたりするとタンパク質のクラスタシアニンが壊れてしまいます。タンパク質は熱に弱いのです。その結果、アスタキサンチンとの結びつきがほどけて、赤い色が現れてくるというわけです。

アスタキサンチンという物質、とくに女性の方々は「どこかで聞いたことがあるような…」と思っているかもしれません。この物質は、強い抗酸化作用をもつことが知られており、物質が酸化することを強力に妨げます。このことから、皮膚で生じた活性酸素を除去することを期待して化粧品に配合しているものが販売されています。

活性酸素は「ほかの物質を酸化させるはたらきが非常に強力な酸素」のことで、私たちが呼吸で取り込んだ酸素のうち、およそ2%が活性酸素になると考えられています。活性酸素はその強力な酸化作用のため、私たちの体の中で細菌やウイルスを死滅させるという役割を担っています。ところが、活性酸素が増えすぎると、細胞にダメージを与え、老化やメタボリックシンドロームなど、いろいろな疾病の原因となることも知られており、人体がどのようなしくみで活性酸素量を認識・調整しているかについて研究が行われています(参考1)。

このように、一つの物質のもつ「強力な酸化作用」が、私たちの体の中では免疫のしくみを担っていたり、一方では細胞にダメージを与えてしまうという「両刃の剣」になっているというのはよくあることで、活性酸素に限りません。なにごとにもバランスが大切、ということでしょうか。




2025年1月6日月曜日

においをだれもが同じに感じるか?

においは物質に特有な性質です。においを感じるためには、「においのもと」の物質が、私たちの鼻の奥にある「嗅細胞」に触れなければなりません。嗅細胞が「においのもと」によって刺激を受けると、つながっている神経細胞を通じて刺激が脳に送られ、「においがする!」と感じることができます。

「においのもと」である物質は、空気中を移動して嗅細胞にたどり着かなければならないので、そのような物質は揮発性物質でなければなりません。揮発性物質とは、日常的な温度で液体あるいは固体から気体になりやすい物質のことです。一般に揮発性物質は温度が高くなると、より揮発しやすくなります。ホットコーヒーからは香りが立ち昇ってきますが、アイスコーヒーからはそれほど香りを感じないのは、このような理由です。

だれもが同じにおいを感じているわけではありません。たとえば、ヒトをはじめとする動物に有害なシアン化水素は、特徴的な「アーモンド臭」がすると言われます。みなさんが食べ物としてよく知っているアーモンドの香ばしいにおいではなく、収穫前の甘酸っぱいようなにおいですが、60%ほどの人はこのアーモンド臭を認識できます。残りの40%の人は、アーモンド臭を認識できないことが知られています。これは遺伝的に認識できないためです。このように、においの感じかたには遺伝的な個人差などがあり、さらにそのにおいをよいにおいと感じるか、あるいはそうでないかには個人の経験にも左右されます。

就寝前のひとときなどに、自分のリラックスできるにおいを感じる環境を用意できれば、安眠できるかもしれません。

この話題に関係のある NHKラジオ「子ども科学電話相談」の質問と回答のやりとりを「読む」ことのできる NHK「読むらじる」が、以下の URL から公開されています。ぜひご覧ください。



2025年1月5日日曜日

ほこりはどこから出てくるのか?

読者のみなさまからいただいた質問に、「埃(ほこり)はどこからでてくるのか?」というものがありました。いつも掃除をしているはずなのに、どこからともなく出現する埃。喘息やアレルギー疾患のある方は、埃には気をつけて生活されていることと思います。

さて、埃をよく見ると、ふわふわしたものでできているように見えるはずです。このふわふわしたものは、細い「繊維クズ」からできています。私たちが生活する中で、衣服を着ていますが、この衣服からはどうしても繊維クズが生じます。布地が折れ曲がったり、擦れたりしただけで少しずつ繊維が切れていきます。その証拠に、長く着用した衣服は薄くなっていきます。

この繊維クズはとても小さく軽いので、部屋の中の空気の流れに乗って、空気が溜まりやすいところに集まってきます。部屋の中で、埃は部屋の真ん中には現れません。部屋の隅や、物陰にできます。そのようなところは空気が溜まりやすいということです。さらに、繊維クズが絡まってもらわないと、ふわふわにはなりません。

繊維クズを絡ませるのは、空気の渦です。激しい渦でなくても、部屋の中の空気は移動中に渦を巻き、その渦にのって繊維クズも一緒にコロコロと移動するのでしょう。

埃には繊維クズ以外にも、ティッシュペーパーの繊維や、ダニの死骸や排泄物、カビの胞子なども含まれます。これらが集まって、やがて立派な(?)「ふわふわした埃」になるのです。

このような埃の発生を防がなければならない半導体の製造工場などでは、「クリーンルーム」が設けられていて、繊維クズが発生しないような素材の服を着て、クリーンルームへの入室時に埃のもとが入り込まないように強力な空気を入室者に当てるなど、さまざまな工夫が凝らされます。

日常生活で埃の発生を防ぐことは難しいので、適切な間隔で掃除することが必要なのですね。