本日放送されたNHKラジオ「子ども科学電話相談」で、
みかんを触った手でパソコンを操作してはいけない、とお母さんに言われました。プラスチックが溶けてしまうからと言われたのですが、手は溶けないのですか?
という質問がありました。みかんに含まれるなにが、プラスチックを溶かすのでしょうか。
みかんをはじめとする柑橘類の皮には、「リモネン」という物質が含まれています。リモネンには柑橘類に特有の香りをもった物質です。このリモネンが、プラスチックを溶かします。しかし、すべてのプラスチックを溶かすわけではありません。一言にプラスチックと呼ばれるものにも、いろいろな種類があります。ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリスチレンなどです。プラスチック製品には、「樹脂識別コード」と呼ばれるマークがついている場合があります。リサイクルのために付けられたマークですが、三角形に配置された矢印の中に、数字が示されたものです。もし、PETボトルが身近にあれば、ぜひ見てみましょう。三角形の矢印の中に「1」と示されているはずです。ポリエチレンテレフタレート(PET)の樹脂識別コードが「1」なのです。
リモネンで溶けるプラスチックは、樹脂識別コードで6番になっている「ポリスチレン」です。非常に幅広く使われている素材で、文房具や雑貨にも使われます。緩衝材や保冷ボックスなどに使われる「発泡スチロール」は、ポリスチレンに空気を大量に含ませて成型したものです。
私たちの体はポリスチレンでつくられていないので、みかんを触っても手が溶けることはありません。また、ジュースをつくるためのジューサーなどにプラスチックが使われていることがありますが、これらが溶けてしまわないのは、ポリスチレン以外のプラスチック製品が使われているからです。
さて、どうしてリモネンはポリスチレンを溶かすのでしょう。ここからが、番組で触れなかった内容です。
プラスチックにはいろいろな種類があると説明した中で、「ポリ◯◯」という物質を示しましたが、「ポリ」とはたくさんつながった、という意味です。ポリスチレンとは、スチレンがたくさん繋がっている状態になった物質なのです。
リモネンは、スチレンととても似た構造をしています。有機化学を学んだ人であれば、ベンゼン環をイメージできるでしょうか。スチレンもリモネンも、ともにベンゼン環をもつ化合物で、構造式がよく似ているのです。
ポリエチレンにリモネンが触れると、ポリスチレンとなってたくさん繋がっているスチレンが、リモネンに置き換わってしまいます。すると、せっかく繋がっていたエチレンの鎖がぷっつりと切れてしまうのです。これが、ポリスチレンが「溶けた」状態です。
身の回りにポリスチレンと柑橘類があったら、どんなふうに溶けるのか、確かめてみてください。ポリスチレンに柑橘類の皮を擦り付けたら、どんな感じになるでしょう? ぜひ、お試しください。