2025年2月18日火曜日

銀河 M109 と NGC2903

昨日の 17日(月)は、恒例の「おとなの星空探検隊!」でした。法政大学多摩キャンパス周辺は、夕方までは雲がやや多めでしたが、暗くなってからはきれいな星空になり、無事に観測することができました。

金星・木星・火星と惑星の位置を確認して、冬の代表的な星座の一つ「オリオン座」を確認してから、「ヒアデス星団」や「プレアデス星団」を双眼鏡で観測しました。ヒアデス星団とプレアデス星団は、双眼鏡で非常にきれいに見ることができます。特にプレアデス星団は、肉眼でも「もやっと」した白い塊として認識できます。そこを双眼鏡で覗くと、青っぽい色をした星々を見ることができます。

電子望遠鏡 eQuinox2 を使って、いくつかの銀河を確認することもできました。メシエ天体の中では暗くて観測しにくいとされている銀河 M109 を捉えることができました。

M109

これは「棒渦巻銀河」に分類されている銀河で、中心核を棒状の構造が貫いています。棒は銀河の他の部分と同じように、たくさんの星が集まっているものです。その棒の両端から、腕が伸びています。

同じ棒渦巻銀河で、NGC2903 も確認することができました。棒状構造と腕の構造は、NGC2903 のほうがわかりやすいようです。

NGC2903

棒渦巻銀河は、観測されている銀河のおよそ半分を占めています。私たちの銀河系も、棒渦巻銀河です。一般に、棒渦巻銀河の中心核と棒の部分には古い星が多く存在し、腕の部分には若い星が多く存在しています。

私たちの銀河系は、かつて渦巻銀河だと考えられていました。私が小さい頃に見た図鑑にも、銀河系は渦巻銀河として描かれていました。銀河系がどのような形をしているかは、「スピッツァー宇宙望遠鏡」の赤外線による観測などをもとに、銀河系の詳細な地図が研究によって示され、どんどん精確になっています。

銀河系の想像図(©︎NASA/JPL-Caltech/ESO/R. Hurt

銀河系の形は、どんなに精確なデータを手に入れても、想像することしかできません。それは、私たち人類は銀河系全体を見下ろして観測することができないためです。自分自身を見ることができないことと同じです。

その代わり、似たような形の銀河をたくさん観測することで、私たちの銀河系との比較などを行いながら、さらに精確な銀河系の形や特徴を探し出しているのです。

2025年1月30日木曜日

馬頭星雲

もう1月も30日…   この調子だと、2025年もあっという間に終わってしまいそうです。

東京はしばらく雨が降っておらず、空気が非常に乾燥しています。研究室には加湿器がありますが、朝から運転しても湿度が 20% を上回らないという状況で、さらに花粉の襲来を受けています…

空気の乾燥は困りますが、夜の天体観測には最適です。昨日、電子天体望遠鏡 eQuinox 2 内部のミラーの傾き調整を行った後、馬頭星雲に望遠鏡を向けました。




写真の中心部に黒く「馬の頭」のシルエットが浮かび上がっています。この星雲は、オリオン座の三つ星のうち、最も東側(向かって左)の星 アルニタクのすぐ近くにあるものです。この黒い部分は、背景の星からの光を遮っているために黒く見えているところで、この部分にはまわりよりも密度が高くなっている星間ガスや塵が存在しています。このようなものを「暗黒星雲」と呼びます。馬頭星雲は代表的な暗黒星雲です。

2025年1月24日金曜日

時期はずれのクリスマスツリー

昨年のクリスマスは、楽しく過ごされましたか? まだまだ先のことですが、今年のクリスマスも、楽しいことがあるといいですね。

1月になっておりますが、夜空にはまだクリスマスツリーが輝いています。23日の夜に、天体写真を撮ってみました(星雲フィルターを使用し、画像編集ソフトで赤を強調しています)。



この写真に収められている星々の集まりは、「クリスマスツリー星団」(NGC 2264)と名付けられています。「どこがクリスマスツリー?」と聞こえてきそうです… こんなふうに手描きで線を入れれば、それなりに見えるでしょうか? 


青い星々が、クリスマスツリーのオーナメントとなって、ツリーに巻きついているかのように見えませんか? この星団は、地球から 2,500光年離れたところにあり、誕生してから 100万〜500万年しかたっていない若い星が 100個ほど集まっているものです。青い星は若い星で、表面の温度が非常に高くなっていることを示しています。

この星団は、いっかくじゅう座にあり、オリオン座の近くです。位置を確認してみましょう。

いっかくじゅう座付近の星図(©︎Wikimedia Commons)

いっかくじゅう座の領域のかなり上のほうに、NGC 2264 があります。この時期はオリオン座がとても見やすくなっています。風邪などを引かないように、しっかり着込んで(北海道弁では「まかなって」)夜空を眺めてみてはいかがですか?


2025年1月14日火曜日

低温やけど

寒い日が続いています。こんなときに「湯たんぽ」を使いたくなります。インターネットで検索したところ、ペットボトル(温めて販売されていたお茶など)に 50〜60 ℃ のお湯を八分目ほどまで入れ、しっかりふたをして、寝る 10 分ほど前に布団に入れておくという方法が紹介されていました。

「低温やけど」を防ぐため、布団に入るときはペットボトルは取り出します。ところで、低温やけどとふつうのやけどとは、なにが違うのでしょう?

火にかけていた鍋を触れてしまったり、熱湯がかかったりして起こる「高温やけど」とは違い、低温やけどは 44〜50 ℃ くらいの温度のものが皮膚に長時間触れていることで、組織に損傷が生じたものです。条件によっては数分でも低温やけどを起こすことがあります。

見た目はひどくなくても、皮膚の深いところの組織が損傷を受けていることがあり、低温やけどの可能性があるときには医療機関の受診が必要です。初期の症状は
  • 皮膚が赤くなる
  • ヒリヒリした感じがする
というものですが、皮膚の深いところが損傷を受けていると、1週間ほど(あるいはそれ以上)になってから
  • 皮膚の感覚がなくなる
  • 皮膚が黒ずんでくる
などの症状になることがあります。低温やけどのやっかいな点は、表面から見ただけでは皮膚の深いところが損傷を受けているかどうかを判断できない、ということです。
  • 湯たんぽは寝るときには布団から取り出す
  • 電気毛布は寝るときにはスイッチを切る
  • 使い捨てカイロは直接皮膚に当てずに服の上から使う
など、低温やけどにならないように気をつけて、快適な冬を過ごしましょう。「低温やけどになったかな?」と思ったら、速やかに医療機関を受診しましょう。

2025年1月13日月曜日

2024年の夏は暑かった… それだけではなく…

2024年の夏、みなさんはどんな夏だったと記憶していますか? ここ数年は毎年暑く、私などはいつの年が暑かったかの比較ができないほどですが…

欧州連合(EU)の気象情報機関であるコペルニクス気候変動サービスは、2024年の平均気温が工業化以前(1850〜1900年)の平均気温と比較して、1.6 ℃ 高かったと発表しました。

また、アメリカ航空宇宙局(NASA)の発表でも、2024年の年間平均気温が1880年の観測開始以降で最も暑かったことがわかりました。NASAのデータによれば、工業化以前(1850〜1900年)の平均気温との比較では 1.47 ℃ 高かった、と報告されています。

この記録は2年連続で更新されました。「1.5 ℃」の基準は、2015年のパリ協定で採択されたもので、パリ協定は「地球の平均気温の上昇を工業化以前の平均気温に比べて 1.5 ℃ 未満に抑えるための取り組みを進めよう」と国際間で取り決められたものです。

単年度で 1.5 ℃ を越えたからといって人類が今にも滅亡してしまう、というようなことではありません。しかし、 1.5 ℃ を上回る平均気温が長期的に続いてしまえば、気候変動の影響はより深刻になるであろうという研究報告書はいくらでもあります。パリ協定で 1.5 ℃ という基準が採択されたのは、人為起源の変化があるレベルを超えると、気候システムにしばしば不可逆性を伴うような大規模な変化が生じる可能性があると考えられ、これは産業革命前と比べて、 1 ℃ から 2 ℃ の間の気温上昇で生じると考えられたためです。このような「後戻りできなくなる段階」を「ティッピング・ポイント」といいます。今、私たちは確実にティッピング・ポイントに向かっているのです。

NASAゴダート宇宙研究所の Gavin Schmidt 氏によると、今から 300万年前(鮮新世)の温暖だった時代の平均気温は、産業革命前より 3 ℃ 高かったに過ぎない、とのことです。この時代の海面は、現在に比べておよそ 25 m 高かったと考えられています。Schmidt 氏は、最近の150 年間で、鮮新世の暖かさの半分にまで到達しているのだ、と言います。地球の非常に長い歴史の中で成し得た気温変化を、人類による工業化はあっという間に実現してしまったことになります。

地球温暖化に対しては、いろいろな考え方があります。気温の変化は、今、なにかを行ったからといって、すぐに成果の出るものではありません。目先のことだけを考えていればいいような状況とは本質的に異なるのだ、ということを理解しなければならない問題です。



上の動画は、NASA’s Scientific Visualization Studio に収録されています。1880年1月からの月別の地球の平均気温が、1951〜1980年の月別平均気温に比べて、どれほどの差があったかを視覚的に示したものです。

私たちが「過ごしやすい日本の夏」を取り戻すことはできるでしょうか?