2017年10月3日火曜日

重力波天文学の未来

2017年のノーベル物理学賞の受賞者は、重力波の初観測に貢献したレイナー・ワイス氏、バリー・バリッシュ氏、キップ・ソーン氏の 3名に決まりました。

重力波は一般相対性理論を構築したアインシュタインが予言したものです。アインシュタインは、時間と空間が互いに関連したものであると考え、「時空」という考え方を生み出しました。さらに、質量をもった物質は時空の構造をゆがませると考えました。その質量が十分に大きければ、そのゆがみはほかの物体を引きつける力、つまり重力の原因となるのではないかと考えたのです。そしてアインシュタインは、時空が伸びたり縮んだりして生じたゆがみが波となって宇宙を伝わっていくだろう、とも考えました。この波が重力波と呼ばれるものです。

最先端の科学記事を紹介している Nature の動画を、法政大学の私の研究室のゼミ生とともに、日本語でできるだけわかりやすく説明しているページには重力波の解説記事「ついに捉えられた重力波」が収録されていますので、関心のある方はぜひごらんください。


これまでは観測できないと考えられていた重力波を観測できるようになったことで、重力波を利用してブラックホールや中性子星などを研究する「重力波天文学」が誕生したわけです。まだまだ謎に包まれているブラックホールを明らかにするツールを人類が手に入れました。今後の研究成果に期待が持たれています。

2017年9月30日土曜日

黒潮の蛇行

気がつけば、もう 9月末。あと 3カ月も経てば今年も終わりですね。

29日に気象庁から「黒潮は、8月下旬から、紀伊半島から東海沖で大きく離岸して流れる状態が続いており、12年ぶりに大蛇行している」という発表がありました。黒潮とは日本近海を流れる海流のひとつです。

この黒潮は、本州の太平洋岸に沿って流れる状態(非蛇行)と、紀伊半島から東海沖で大きく離れる状態(蛇行)の 2つの状態を繰り返すことが知られています。大きく蛇行すると漁業に大きな影響を及ぼすほか、船の航路にも影響が及ぶため注意が必要です。下の図は黒潮の非蛇行(左)と蛇行(右)の状態を数値シミュレーションで再現した状況です。

黒潮の非蛇行(左)と蛇行(右)の状態を示した数値シミュレーション。
本州の太平洋岸に沿って流れる海流が黒潮です。
Matsuura & Fujita, Journal of Physical Oceanography, Vol. 36, No. 7, 1265-1286, 2006

実は、なぜ黒潮がこのように蛇行したり、しなかったりするのかについての理由はよくわかっていません。以前、私の所属していた研究チームで、海流の運動の状態を 2つの渦の相互作用で説明することができるのではないかという研究を行なっており、そのときに発表した論文の一部が上の図でした。

黒潮のような海流は、単なる海の水の流れではなく、巨大なパイプの中を流れる海水の流れのようなものだと専門家から聞いたことがあります。確かに、この黒潮にのって温かい海にすむ魚たちが北上し、それらを捕獲して私たちは食べているわけです。そのため、黒潮が蛇行すると漁場が南下していきます。経済的には漁船は港から離れて操業することになるため、費用がかさむというわけです。

回転する方向が違う 2つの渦が並んで存在しているとき、2つの流れが接して同じ方向に流れるところでは、流れのパターンが直進的になったり、ならなかったりという状態を周期的に繰り返します。この物理的なメカニズムが、黒潮の蛇行・非蛇行に応用できるのではないかという研究でしたが、現在も多くの研究者がこの問題に取り組んでいます。

宇宙はまだまだわからないことがたくさんありますが、実はこの地球上のことにもわからないことがたくさんあるのでした・・・

2017年9月17日日曜日

血液は鉄の味?

ブログをご覧の方から、「血液の味は鉄の味がすると誰もが感じますが、鉄を食べたことはないのに、どうして鉄の味っていうのでしょうね。そもそも本当に血液は鉄の味なのでしょうか?」という質問が寄せられました。

確かに、冬など乾燥した時期に唇が切れて血が出てしまったとき、「鉄の味」といいますね。鉄を食べる人はいませんが、どうして鉄とわかるのでしょうか。

血液をつくり上げている成分のうち、赤血球には確かに鉄が含まれています。赤い色を示すヘモグロビンがそれです。ヘモグロビンはおもに脊椎動物の赤血球に含まれる成分で、酸素の豊富なところでは酸素と結びつき(こういう状態になったヘモグロビンをオキシヘモグロビンといいます)、酸素が少ないところでは酸素を放出する(こちらはデオキシヘモグロビンといいます)という性質をもった物質です。酸素が豊富な肺で酸素を取り込み、毛細血管で酸素が少ないところでは酸素を手放して、私たちの体じゅうに酸素を届けます。

このヘモグロビンが鉄のような味の原因なのだと思います。出血したものが舌に触れたとき、赤血球の細胞膜が壊れて、赤血球の内容物が外に出てくるので、その味を感じているのかな、と思います。この赤血球の細胞膜が壊れてしまう現象を溶血といいます。高校の生物などで浸透圧などを習った方もいらっしゃると思います。人間をはじめとする哺乳類の浸透圧は 0.9%の濃度の食塩水と同じなのですが、それより薄い溶液に赤血球がおかれると、赤血球が破裂してしまいます。溶血はこれだけでなく、血液を乱暴にかき混ぜたり、冷凍させたりなど、さまざまな原因でも起こります。

ただ、食べたことのない「鉄」の味、ということをなぜ認識しているのか、答えが見つかりません。鉄棒遊びやおもちゃ遊びなど、小さい頃からのいろいろな経験から、鉄の味を認識させてくれるのでしょうか。

鉄分の補給を目的に、鉄瓶など鉄製品を利用しようとしている方もいらっしゃることでしょう。果たして鉄瓶の利用が生物に対して鉄分補給に役立つのでしょうか? このような研究をテーマにした研究論文がありました。対象はラットですが、鉄鍋を使って作成した餌には鉄分の補給に役立つということです。日本人に必要な毎日の栄養素が紹介されているページはこちら(江崎グリコ)ですが、これだけの量を鉄瓶や鉄鍋だけで補給することは難しいでしょうが、鉄分の摂取が不足気味の人には、補助的な効果を期待できるかもしれませんね。

好き嫌いなく、いろいろなものをバランス良く食べる、ということが健康の秘訣かもしれませんね。

2017年9月16日土曜日

宇宙で最初の星

ブログをお読みの方から、「宇宙で最初の星が巨大だったのはなぜ?」というご質問をいただきました。この話題は、NHKカルチャーラジオ「ミクロの窓から宇宙をさぐる」で、宇宙で最初に輝いた星について説明したことについての質問です。

宇宙で最初の星は、当時、宇宙に存在していたガス雲が現在よりも巨大だったため、大量のガスが降り積もり巨大な星になった、ということが答えでしょうか。

ここでいう星とは恒星のことで、太陽のようにみずから光り輝く星です。恒星のもとはガスや塵(ちり)でできたガス雲です。もちろん太陽もガスや塵から生まれました。太陽は今から約 50億年前に生まれたと考えられていますが、宇宙で最初の恒星はいつ生まれたのでしょうか。

これは現在も研究が進められている問題で、いくつか学説がありますが、宇宙が誕生してから約 2億年後に最初の恒星(これを「ファースト・スター」と呼びます。特定の 1個の星を指しているわけではなく、このころに次々と星が生まれるようになったと考えられています)が輝き出しました。

宇宙の最初のころ、どのような元素が存在していたかというと、ほとんどが水素です。このころ宇宙に存在していたガス雲は、とてつもなく巨大だったと考えられます。巨大なガス雲は、やがて重力のはたらきによって少しずつ収縮して行きます。その中でより収縮した「芯」のところに恒星が生まれます。ガスがまわりから供給されれば、どんどん芯に向かってガスが流れ込んで行きます。現在も、銀河の内部やガス星雲の内部では星が誕生していますが、現在のガス雲は宇宙初期のガス雲に比べると小さいと考えられます。現在の宇宙では、いろいろなところでガスが収縮し、分裂してしまっているためです。

ファースト・スターが誕生した頃は、収縮するガスが大量に存在していたために、巨大な星がつくられたと考えられています。

恒星がどのように生まれ、輝く続けるのかに関心のある方は、国立科学博物館のこちらのページをご覧ください。

2017年9月9日土曜日

「おともだち」の気持ちがわかりました・・・

8日(金)の午後 8時から、東京を放送エリアとしている FM放送局 J-WAVE の “JAM THE WORLD” という番組内の CUTTING EDGE というコーナーで 10分ほどでしたが、太陽フレアについて話をしました。NHK「夏休み子ども電話科学相談」のリスナーの中にも、J-WAVE の番組をお聴きいただいた方がいらっしゃいました。ありがとうございます。

このコーナーでは、ジャーナリストの青木理さんの質問に答える形式で進んでいきます。生放送ではありますが、私は電話で出演するというものです。NHKの「夏休み・・・」も生放送で、スタジオにいる回答者は、電話で結ばれているおともだちに話をしていきます。昨日の J-WAVE の番組は、その逆で、私が電話に向かって話をするのです。

「夏休み・・・」の番組では、私たちは NHKの担当の方が放送中にどのようにおともだちに電話をしているのか、目にすることはありません。スタジオの外に電話機があるためです。マイクからの音とスピーカーの音が重なってしまうと、ハウリングと呼ぶ「キーン」という耳障りな音が発生してしまうため、スタジオ内では電話をかけないのだろうと思います。ときどき、アナウンサーが「ラジオのスイッチを切ってもらえるかな?」と呼びかけているところをお聞きになったことがあるかもしれません。ハウリングを止めるためです。

J-WAVE の担当の方からは「8時 20分ころから始まりますので、電話をお待ちください」と言われたものの、放送のために電話を待つことが初めて(!)の私は、夜8時の放送時間から、すべての音が出るもののスイッチを切って、じっと電話の前で待っておりました。このときの私の気持ちは「子ども・・・」でおともだちが待っている気持ちと同じなのかな、と思いながら、相変わらずじっと待ちます。

無事に電話がかかってきて、青木さんからの太陽フレアについての質問に答え、10分ほどのコーナーは終わりました。スタジオで質問に答えるときとはまったく違う感覚に少々戸惑いましたが、考えていたことはお話しできたかな、と思います。放送の内容は、このブログに書かれていることと重なります。J-WAVEの担当の方も、このブログを目にしたとか。いろいろな方々にお読みいただいているのですね。

「待っている間はラジオをつけていていいんだ」と気がついたのは、私の電話が終わってから。電話がかかってくるタイミングは、ふつうは番組を聴きながら待ちますよね・・・

2017年9月8日金曜日

太陽フレアの意外な影響

昨日は太陽フレアによる日常生活への脅威について書きましたが、ふだんは見られない現象が起こることがあります。それは「低緯度オーロラ」と呼ばれるもので、みなさんの想像するオーロラとはちょっと違うもの。

太陽フレアやコロナ質量放出によって、地球の磁場が乱されることは昨日説明したとおりですが、地球の磁場が乱されることによって発生する現象に、オーロラがあります。北極や南極で観測されるオーロラは、太陽からやってきた陽子や電子などの荷電粒子が、地球大気の窒素や酸素に衝突することで光を放つ現象ですが、そのしくみについてはよくわかっていないところもあります。

私たちがよく聞くオーロラは、夜空に浮かんだカーテンのようなイメージでしょうが、このようなオーロラは緯度の高いところでしか発生しません。一方、低緯度オーロラは北海道などでも観測される場合がありますが、地球の磁場が大きく乱されたときに発生します。

私も大学生だったころ、函館で低緯度オーロラを見たことがありました。カーテンという表現ではなく、空が赤くなるような感じですが、夕焼け空の赤みよりも深い色だった記憶があります。

夕方から夜にかけての天気が良ければ、北海道で 8日と 9日の夜、いつもと夜空の色が違うかどうか、確認してみてはいかがでしょう。

2017年9月7日木曜日

太陽フレアの脅威

日本時間の 2017年 9月 6日 午後 6時ころ、太陽の表面で大規模な爆発現象が起こりました。「太陽フレア」です。ほとんどが水素でできている太陽は、中心核で水素からヘリウムに核融合を行うことで莫大なエネルギーをつくり出しています。それだけではなく、太陽は活発に活動しています。そのような活動のひとつが、太陽フレアです。

太陽の表面で起こる爆発現象で、巨大な炎が噴き上がるように見えます。太陽に限った現象ではなく、太陽のようなガスでできていて自ら光を放つ「恒星」に見られる現象です。太陽フレアのエネルギー源は現在も研究が続けられていますが、磁気エネルギーであると考えられています。

太陽は活発な時期と静穏な時期をおよそ 11年周期で繰り返しているのですが、現在の太陽は静穏な時期に向かっているところで、この時期に起こる大規模な太陽フレアは珍しいものです。さらに、今回は太陽フレアよりもさらに激しい現象である「コロナ質量放出」も確認されました。こちらは太陽から大量の陽子や電子など、電気を帯びた微粒子(荷電粒子)の塊が噴き出してくるものです。地球は巨大な磁石でもありますから、地球の周辺に磁場をつくり、太陽からやってくる荷電粒子の影響が地上に及びにくくなっています。しかし、あまりにも大量の荷電粒子がやってくると地球の磁場が一時的に乱されて、無線通信や送電システムに悪影響が及ぼされる可能性があります。

2017年 9月 6日(アメリカ東部標準時・日本時間では 7日)に、NASA のSolar Dynamics Observatory で観測された太陽。右下部分に見える明るい閃光が太陽フレア。このとき、コロナ質量放出も確認された。(画像:NASA/GSFC/SDO)


今回のコロナ質量放出は地球に向かっており、日本時間の 9月 8日の午後には地球に到達すると考えられています。残念ながら、現在の科学技術ではこれらの巨大な太陽フレアやコロナ質量放出からの影響を逃れる方法はありません。

現代社会は精密な電子機器で構成されています。電気を帯びた荷電粒子が流れ込むことで必要以上の電気が流れ、電子機器が壊れてしまう可能性も否定できません。2003年には、宇宙空間を飛行している多数の人工衛星が機能停止してしまったこともあります。

今回、場合によっては 1週間ほどにわたって影響が及ぶ可能性があります。なにごとも起こらないように祈るしかないのが現状です・・・

2017年9月2日土曜日

インターネットってどこにあるの?

このブログをお読みいただいている方からいただいた質問の中に、「インターネットって具体的になんなのでしょうか」というものがありました。「夏休み子ども科学電話相談」にも同じような質問がありました。今や多くの人々が活用しているインターネットですが、同じように不思議に思っておられるかたも多いと思います。

インターネットは、テレビとかパソコンのように形のあるものではなく、実体が目に見える形で存在しているわけではありません。インターネットとは「コンピューターの集合とそれらを結ぶ電話回線や無線回線をまとめたもの」ということができると思います。会社組織と同じようなものでしょうか。本社や支社の建物は確かに存在しますが、会社は建物だけでは成り立ちません。その会社のはたらきを担う社員が決まったルールで仕事をしていて、全体として会社を成り立たせています。そういう意味で、「これが〇〇株式会社本社です」ということはできても、「これが〇〇株式会社です」と示すことはできませんね。

たとえば、このブログを読むために何をしているのか、具体的に考えましょう。私はこのブログの文字情報を、Google が管理しているコンピューターに保存させます。このブログが保存されているコンピューターには「住所」が割り振られていて、それが「アドレス」このブログでは https://st-journalism.blogspot.jp です)。このアドレスは、インターネットを構成しているコンピューターのうち、住所を教えてくれる案内係の役割をする世界中のコンピューター(これをDNSサーバーと呼びます)に通知されます。ここまでで、私のブログを見ていただく準備ができました。

では、お読みになるみなさんは何をするでしょうか。まず、パソコンやスマートフォンなどでインターネットに接続しなければなりません。インターネットという世界には、だれでも自由に入ることができるわけではなく、インターネットにアクセスしようとしている人が本当にその人かどうかを確かめなければなりません。インターネットにアクセスするためには、たとえば@nifty や BIGLOBE などのインターネットプロバイダーと契約して、プロバイダーから提供された「アクセスポイント」や「ログインID」、「パスワード」を設定することで、本人かどうかを確認しているわけです。インターネットにアクセスするたびに、この操作を行う必要があるわけですが、実際にはここまでの操作は自動化されていて、パソコンを初めて設定するときやスマートフォンを買ったときに設定されていて、ほとんど意識することはありません。

無事にインターネットの世界に入ることができたら、あとは Safari や Google Chrome などのインターネットブラウザを起動させて、見たいサイトのアドレスを入力すれば、DNSサーバーに保存されている住所のデータを探し出し、私のブログのデータを保管するコンピューターまで道案内して接続する、というわけです。

インターネットを構成するコンピューターには、ほかにもセキュリティー(悪意ある通信かどうかを確認する)を担当するものや、通信を安定に行うための役割をするものなど、多くの役割を担うコンピューターが接続されていて、これらが協働してサービスが提供されるようなしくみになっているのです。

もともとは大学で研究用に活用されていたインターネットですが、今は広く使われるようになっています。それでも、フィッシング(詐欺)サイトや迷惑メールの被害が後を絶ちません。セキュリティーには十分に注意して、インターネットの世界をお楽しみください。

2017年9月1日金曜日

夏といえばスイカですね

夏といえばスイカ。私は毎日食べても飽きないほど、スイカが好きですが、みなさんはどのようなスイカを選んでいるでしょうか。最近のスーパーに並ぶ果物は、あらかじめ糖度が調べられているので、どれを買ってもそれほど違いはないでしょうが、見た目だけでより甘いスイカを判断できる方法があります。

それはスイカの黒い縞模様が重要です。縞模様のあるところに沿ってスイカを切ると、そこには種が多くあります。種は植物にとって大切なもの。黒い部分は栄養分、つまり糖分を多く供給しているところということだそうです。黒い縞模様が太く、はっきりしているものはそれだけ甘みが強いことになります。

さらに、その黒い縞模様が「あみだくじ」のように横にもつながっているものがあります。これはさらに糖分が多い証拠。買うならこのようなものを選ぶと間違いはないはず。

さて、スイカを食べるときに、食塩をふりかける人もいらっしゃるでしょう。子どもたちにとっては、甘いものに塩をかけるのはどうしてだろうと疑問に思うようです。塩分は甘みをより強く感じる、という効果があります。これは 2種類の味を感じたとき、強い方の味をより強く感じるのです。スイカに塩をかけるとき、ほんの少しをかけるはずです。この「少し」が大切なのです。

このような効果を利用したものに塩キャラメルなどがあります。羊羹なども食塩が含まれているものがあります。食品を買うときに成分表示を見てみると、どうしてこの成分が入っているのだろうと疑問に思うものもあるでしょうが、それには必然的な理由があるのですね。

2017年8月29日火曜日

納豆の「ねばり」のもと


「納豆はどうして粘るのですか」・・・ こんな質問が寄せられました。放送でも回答したものです。「納豆は好きなんだけど、あの粘りがなければもっといいのに」と思っている人や、「納豆は粘るから納豆でしょ」と思っている人など、さまざまでしょう。

納豆は大豆を蒸したものに、納豆菌を加えて発酵させたもの。納豆菌が大豆のタンパク質をアミノ酸にへと分解していきます。このような菌のはたらきを「発酵」といいます。菌のはたらきと聞いて、多くの人の頭には「腐敗」という言葉も浮かぶことでしょう。実は、発酵も腐敗も、菌にとっては同じことをしていることを指す言葉。人間に役立つはたらきだったら「発酵」、人間に迷惑なはたらきだったら「腐敗」というのです。

さて、納豆に話をもどすと、この発酵によって「ムチン」と「ポリグルタミン酸」がつくり出されます。ムチンは生物がつくる粘液に含まれる、粘りをもった成分で、放送では言わなかったのですが、私たちの気管から分泌される「痰(たん)」の成分もムチンです。ポリグルタミン酸は、うまみ成分のグルタミンが繋がったもので、これが糸を引く物質の主成分。納豆をかき混ぜればかき混ぜるほどポリグルタミン酸がちぎれてグルタミン酸になり、うま味が増すのです。ほどほどの混ぜ具合というものがあるようですが、少なくとも数回かき混ぜるよりは、たくさんかき混ぜた方がよさそうです。

納豆の粘りは痰と同じ成分なんだ〜、というのもちょっと食欲を減退させてしまいそうな気がしたので、放送では話しませんでした。でも、ムチンは生物の粘液に含まれていて、微生物や小さなゴミを粘液にくっつけて、体の内部に入っていかないようにしてくれている、大切な物質です。