2025年1月12日日曜日

インフルエンザが流行中です…

ニュースで繰り返し流れているとおり、インフルエンザが流行しています。現在の方法で統計を取り始めた 1999年以降、最大の患者数になったとか。インフルエンザだけでなく、新型コロナウイルスや、いわゆる風邪に罹ってしまう人も多いようです。

インフルエンザは典型的には、38 ℃ 以上の発熱や悪寒、関節痛、それに全身のだるさなどの全身症状と、喉の痛みや咳などの風邪に似た症状が現れます(すべての症状がでるとは限りません)。インフルエンザワクチンを接種した人は、感染しても上記のような激しい症状にはならないようですが、それでもつらいことに変わりはありません。

新型コロナウイルスが大流行した 2020〜2021年には、インフルエンザは流行しませんでした。これは、人の接触が減ったことと、多くの人が感染症の対策を心がけたことが原因と考えられています。思い出してみましょう。きっとみなさんも、よく手を洗ったり、除菌シートなどを使っていたはずです。今よりもマスクもつけていた人が多かったのではないでしょうか。

インフルエンザや新型コロナウイルスのような呼吸器の感染症は、主に鼻や口からウイルスが入ってきます。食事の前に手を洗えば、口に入ってくるウイルスの数を減らすことができます。また、ヒトはよく顔を触る生き物です。ついつい、鼻や口元を触っていませんか。手指にウイルスが付着していると、顔を触ることで鼻や口にウイルスが入りやすくなります。

一般的なマスクは直接的にウイルスの侵入を防ぐことはできません。マスクの繊維の隙間は、ウイルスにとっては「スカスカ」です。しかし、感染している人がウイルスの含まれている飛沫を飛ばしてしまうことを防ぐには有効です。感染症は潜伏期間がありますから、その間に他人に広めてしまうことを防ぐという意味で、マスクは有効なのです。

さらにマスクには、鼻や喉の乾燥を防ぐ効果も期待できます。この季節は空気が非常に乾燥しています。鼻や喉の粘膜が乾燥すると、ウイルスや細菌に対する防御力が落ちてしまうので、マスクで乾燥を防ぐことは感染予防に有効です。少しずつ、こまめに水分を摂ることも重要です。

これから受験シーズンになり、感染症により一層、気をつけなければならない人もいることでしょう。自分が感染しないことはとても大切なことですが、周りの人々に移さない、という心がけも感染症の予防には大切です。

2025年1月10日金曜日

太陽に再接近した探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」

アメリカ航空宇宙局(NASA)が2018年に打ち上げた太陽探査機 Parker Solar Probe(パーカー・ソーラー・プローブ)が、2024年 12月 24日に、太陽表面からおよそ 610万 km という、これまでで最も太陽に接近したことが明らかになりました(NASAのパーカー探査機のウェブサイトはこちら)。パーカー探査機は地球付近と太陽周辺を結ぶ楕円軌道を描きながら、太陽を観測しており、これまでも太陽に最接近した記録をつくってきましたが、その記録が更新されました。「パーカー」は、太陽物理学者であったユージン・ニューマン・パーカーを称えて名付けられたものです。

太陽は地球から最も近いところにある恒星ですが、まだ物理学的にわかっていないことも多くあります。例えば、
  • 太陽表面(およそ 6, 000 ℃)よりも高い温度をもつ太陽コロナ(およそ 100万 ℃ 以上)を加熱したり、極めて高温のプラズマ(電荷を帯びた気体)である太陽風を加速したりするエネルギーがどのように流れているか
  • 太陽風が流れ出している部分で、磁場がどのような構造をしているのか
などを明らかにすることが、パーカー探査機の目標です。

太陽表面からの距離が 610万 km といわれてもねぇ…   という声が聞こえてきそうですが、太陽と水星の距離は 5, 800万 km で、太陽に最も近い惑星よりもさらに太陽に近いところに到達したことがわかります。

太陽に再接近したときの温度は、およそ 980 ℃になったと予測されていますが、パーカー探査機の設計上は、さらに高い温度でも問題が生じないとのことです。パーカー探査機は耐熱のために炭素素材でできたシールドをもっていますが、接近につれて色がより白くなったことが確認されています。白くなれば、それだけ太陽からのエネルギーを反射できるのです。

太陽への再接近後も、観測のための計測機器に異常は確認されておらず、正常に稼動しています。今から数週間後には地球近辺まで到達し、再び太陽へ接近していきます。

パーカー探査機は太陽に最も接近した人工物体になりましたが、同時に人類がつくり出した最も高速で移動する物体にもなり、時速 69万 km で移動したことが確認されました。太陽周辺という過酷な環境の観測活動では、さまざまな記録が生み出されているようです。

2025年1月9日木曜日

「手作りバター」はいかがですか?

先日、ある会合で「科学実験」の実演依頼がありました。飲食を伴う会場で化学薬品を使うことは少々気がひけるので、「手作りバター」をつくる実験を計画しました。みなさんは体験したことがあるでしょうか?

バターは牛乳の成分のうち、乳脂肪分を固めたものです。生クリームは乳脂肪分を濃縮しているので、簡単にバターを作ることができます。生クリームに含まれている乳脂肪を、振ることによって衝突・合体させて、どんどん集めれば、やがてバターができる(まるで太陽系の形成過程の一部?)のです。

用意するものは
  • 生クリーム
  • ペットボトル
  • 衛生的なガーゼ
  • はさみ
だけ。作ったバターをそのまま味見するのはなかなかきついでしょうから、味の薄いパンがあればなおよいでしょう。塩がかかっていないクラッカーにバターをつけて食べることも、予備実験で行ってみましたが、クラッカーの味そのものがかなり強く、バターを味わうには難しいようです。

生クリームは原材料に「牛乳」あるいは「生乳」と示されたものでなければなりません。植物性クリームからはバターはできませんので、ご注意ください。

今回は、500 mLの水を購入して、ペットボトルを使いました(衛生面から、飲み終わったものを使うのは控えたほうがよさそうです。水は氷を入れた容器に移します)。このペットボトルに、生クリームを 100 mL 入れます。しっかりふたをして、あとはペットボトルを振るだけです。ときどき、氷水にいれて冷やしましょう。

振っていると、やがて音がしなくなります。これは、生クリームがホイップクリームに変わった合図です。ふたを開けて、中を覗いてみましょう。きれいなホイップクリームになっていることがわかります。透明なペットボトルを使っていれば、内側全体がクリームで覆われている状態です。

さらに振り続けます。ここからはちょっと時間がかかるかもしれませんが、根気よく振り続けます。すると、突然、「バシャバシャ」という音に変わります。透明なペットボトルでは、固形分と液体に分かれていることを確認できるはずです。この固形分がバターです。ここまできたら、ペットボトルを切り、中身をガーゼで濾して、ガーゼに残った固形分を取り出します。

濾過した液体は、乳清(ホエイ)です。ヨーグルトに上澄みができることがありますが、それと同じもので、栄養分が含まれています。ホットケーキに混ぜるとふわっと仕上がるそうです。

このようにしてできたバターは、いわゆる「塩分不使用バター」です。日本人は日常的に塩分を摂りすぎという統計がありますので、このままパンなどにつけて味わってみてください。会合では、できあがったバターの半分に、ココアパウダーとグラニュー糖を混ぜたものも作りました。しっかり味がついて、お子さんには喜ばれるかもしれません。

一般に生クリームは商品名のあとに、「35」「42」「47」などの数字が示されています(メーカーによってこれらの数字は違います)。これは、乳脂肪の比率です。数字が大きいものを使えば、それだけバターも多くできます。夏休みの自由研究などで、乳脂肪分とバターの収量を確認してみるのも面白いかもしれません。

今年は「巳年」なので、パンの上にバターをヘビの形にできないかな〜と、予備実験でバターを注射器に入れて出そうとしました。しかし、バターは相当固いので、注射器で形成することはできませんでした。絞り袋に入れても、やはり無理。予備実験って、やはり大切なのですね…

2025年1月8日水曜日

白身の魚? それとも赤身の魚?

昨日はアスタキサンチンについての記事を配信しました。アスタキサンチンの話題をもう一つ、提供しましょう。

鮭(サケ)の身(筋肉)には赤い色がついていますが、じつは白身の魚です。その身が赤いのは、エビと同じくアスタキサンチンによるものです。エビもサケも、自分でアスタキサンチンを作り出すことはできず、食べ物から取り入れます。では、アスタキサンチンはもともとどんな生き物に存在していたのでしょう?

藻類に「ヘマトコッカス」とよばれる種類があり、この種の藻類は通常の環境ではアスタキサンチンをもちません。強い太陽光や高い温度などのストレスを受ける環境にさらされると、ヘマトコッカスはアスタキサンチンを作り出します。アスタキサンチンは活性酸素から細胞のダメージを防ぐと説明しましたが、このはたらきによってストレス環境下でもヘマトコッカスは生き延びることができるのです。

ヘマトコッカスは動物プランクトンの餌となり、さらにこのような動物プランクトンをエビやサケが食べることで、アスタキサンチンが体内に蓄積されていきます。つまり、食物連鎖によってエビやサケにたどり着くのです。この事例のように、環境に存在する物質の濃度よりも高い濃度で、生物の体内に物質が存在することを「生物濃縮」といいます。

天然のサケは、自然環境に存在するアスタキサンチンを取り入れた結果、身が赤くなりますが、養殖されているサケはそのままでは白身の魚に育ちます。かつて『ジェーン・グドールの健やかな食卓』(日経BP社 2011年)を共訳で出版したことがあります。ジェーン・グドールはチンパンジーの生態について研究する動物行動学者です。この書籍は、自然環境に配慮した食生活がいかに重要であるかを述べたもので、その中にサケの養殖についての記述があったことを思い出します。養殖されているサケの餌には、ピンク色の染料が混ぜられているそうです。論文(参考1)を調べてみると、サケの養殖では、餌にアスタキサンチンおよびカンタキサンチンを混ぜているようです(添加量は農林水産省令によって上限が決められています)。カンタキサンチンもアスタキサンチンと同様のカルテノイド色素です。

天然の環境と養殖の環境とでは、さまざまな違いがあります。「白身のサケ」では市場価値が下がるということから、わざわざ餌にアスタキサンチンなどの色素を混ぜて育てている、というわけです。もし、私たちが「白身のサケ」でも同じように購入するのであれば、わざわざ色素を混ぜる必要はない、ということなのでしょうが…


(参考1)K. Suzuki, et al.「養殖サケ・マス類中のカロテノイド系色素及び酸化防止剤の分析」Ann. Rep. Tokyo Metr. Inst.P.H., 57, 219, 2006

2025年1月7日火曜日

アスタキサンチンと活性酸素

今月5日(日)の NHKラジオ「子ども科学電話相談」で、「エビはどうして炒めると赤くなるの?」という、小学1年生の男の子の質問が取り上げられました。お母さんの料理のお手伝いをしていたとき、エビの色が変わったことに気がついたそうです。

エビなどの甲殻類は、アスタキサンチンと呼ばれる赤い色素をもっています。同時に、クラスタシアニンというタンパク質ももっています。エビに熱が加えられる前は、クラスタシアニンがアスタキサンチンと結びついていて、赤い色にはなりません。ところがエビを炒めたり、茹でたり、焼いたりするとタンパク質のクラスタシアニンが壊れてしまいます。タンパク質は熱に弱いのです。その結果、アスタキサンチンとの結びつきがほどけて、赤い色が現れてくるというわけです。

アスタキサンチンという物質、とくに女性の方々は「どこかで聞いたことがあるような…」と思っているかもしれません。この物質は、強い抗酸化作用をもつことが知られており、物質が酸化することを強力に妨げます。このことから、皮膚で生じた活性酸素を除去することを期待して化粧品に配合しているものが販売されています。

活性酸素は「ほかの物質を酸化させるはたらきが非常に強力な酸素」のことで、私たちが呼吸で取り込んだ酸素のうち、およそ2%が活性酸素になると考えられています。活性酸素はその強力な酸化作用のため、私たちの体の中で細菌やウイルスを死滅させるという役割を担っています。ところが、活性酸素が増えすぎると、細胞にダメージを与え、老化やメタボリックシンドロームなど、いろいろな疾病の原因となることも知られており、人体がどのようなしくみで活性酸素量を認識・調整しているかについて研究が行われています(参考1)。

このように、一つの物質のもつ「強力な酸化作用」が、私たちの体の中では免疫のしくみを担っていたり、一方では細胞にダメージを与えてしまうという「両刃の剣」になっているというのはよくあることで、活性酸素に限りません。なにごとにもバランスが大切、ということでしょうか。