2018年5月5日土曜日

足尾銅山で使われた削岩機

前回紹介した「足尾銅山写真データベース」から、1枚を示します。足尾銅山でどのような技術が使われていたかを知ることができます。下の写真をご覧ください。

所有:小野崎敏氏

鏨岩機(さくがんき)とは削岩機のこと。削岩機にはドリル式とハンマー式があり、圧縮された空気で動かしたものです。削岩機で岩盤に孔をあけ、そこにダイナマイトを挿入して発破しました。このような技術によって採鉱の効率が上がったことで、銅の生産の飛躍的増大が可能となりました。



圧縮された空気は地上のコンプレッサーでつくられ、数キロ離れたところからパイプで送られていました。コンプレッサー自体の動力は、初めは木材を燃やして駆動していましたが、次にスチーム、やがて電気となりました。足尾銅山で水力発電が早期に建設された理由の一つだったのです。




削岩機のホースはこの写真では1本。削岩機を使用すると、視界を遮るほどに粉塵が発生したとのことです。肺に沈着すると珪肺病(よろけ)にかかってしまいますが、この時代では作業員の安全対策はとられていませんでした。その後、削岩機に2本のホースが取り付けられるようになります。1本は圧搾空気、もう1本は水で、この水が粉塵対策でした。


この写真は、実際の作業を行なっている場面ではないことがわかっています。というのは、実際の採掘作業では、上下方向で2カ所を掘削することはありえないためです。万一、上の部分からの岩石が落下した場合、下で作業している人が怪我をする恐れがあるため。この写真は、作業員が撮影のためにポーズをとったものと考えられています。

2018年5月3日木曜日

足尾銅山写真データベース

先日のブログで触れた、足尾銅山の話題について、このブログをお読みいただいている方々から、問い合わせをいただきました。そのため、私たちの研究グループが作成を進めていた、「足尾銅山写真データベース」のウェブサイトのアドレスをお知らせします(どんな写真が収録されているのだろうか、を知りたいだけであれば、入力箇所にはなにも入れずに「検索」のボタンを押すと、すべての写真が表示されます。もちろん、どなたでも無料でアクセスできます)。

このデータベースを活用してもらうことで、足尾銅山が操業していたころの写真を現在に再びよみがえらせ、『今に生きる私たちは足尾銅山の鉱毒事件を教訓にできているだろうか』と考える機会にもなると考えています。

以下、このデータベースが発表されたときのプレスリリースの一部を転載します。文章の執筆は小出五郎さん(故人)です。

足尾、水俣、フクシマ。有害廃棄物の処理ができないシステムは、人間の健康を損ない生態系を脅かします。足尾銅山の教訓はその原点としていまなお貴重です。足尾銅山・映像データベース研究会(代表者:小出五郎)が4年がかりで作成してきた「足尾銅山写真データベース」を、Web上に正式に公開します。
 栃木県日光市にある足尾銅山は、明治時代の国策「殖産興業、富国強兵」の国策を牽引する象徴的な産業でした。海外の最先端技術を導入、国産化し、優秀な人材を養成、輩出しました。生産した銅は絹製品に次ぐ輸出品で、外貨獲得に寄与しました。見物に来る外国人で横浜に次ぐ賑わいだったといいます。
しかし同時に大量の鉱毒の混じった土砂、廃水が、渡良瀬川を通じておよそ100km下流に至る北関東一帯を汚染することになりました。田中正造を指導者とする反鉱毒運動激化に、社運を賭けて実行された明治30年の鉱毒予防工事も、一定の効果をあげるにとどまりました。
 その一部始終を記録していた写真家がいました。小野崎一徳です。足尾に来た明治16年(1883年)から46年間、昭和6年(1929年)に亡くなるまで銅山と人の営みを白黒の写真に記録しました。
最先端技術を輸入して国産化した削岩機、100馬力の水車4基の水力発電所、銅の純度を飛躍的に挙げた転炉、電気鉄道、ロープウェイの輸送システム・・・。作業員の顔つきや服装、労働の様子。森林が消え荒廃した山肌、鉱毒予防工事命令を受けて建設中の広大な沈殿池、砂防ダム、世界初の排煙脱硫塔・・・。産業遺産、その光と影。小学校、山神祭り、運動会、裁判の様子、芸者たち、迎賓館、町並み・・・。鉱山都市の人の営み。
 実は、一徳の写真は、時代の流れとともに散逸していました。1000枚を越える写真を改めて収集したのは、一徳の孫に当たる小野崎敏氏です。問題は写真に説明がないことでした。そこで足尾銅山・映像データベース研究会は、金属の専門家であり足尾歴史館の中核でもある小野崎敏氏からの聞き取りを行い、文献も参照して1枚ごとに説明を付してきました。
 「足尾銅山写真データベース」は、これまでの成果として足尾銅山の光と影をWebに公開するものです。さらに、「足尾、水俣、福島」の今日性と国際性を考慮して英語版を作成し、世界に発信する計画です。

ぜひ多くの方々にご覧いただき、関心をお寄せいただきたいと思います。

2018年5月2日水曜日

雨が降ったときの匂い

5月の雨が降っています。毎日晴天ばかりだと雨不足になってしまいますから、適度な雨も必要です。

NHKラジオの「夏休み子ども科学電話相談」で、毎年寄せられる質問に「雨が降ると、どうして匂いがするのですか」という質問です。みなさんはそんな匂いを感じることはありますか。コンクリートに囲まれたオフィス街の真ん中で過ごしていると、なかなか感じないかもしれませんが、ちょっとした植え込みなどでも感じられるものです。

この匂いは「ゲオスミン(ジオスミンとも呼ばれます。英語では geosmin)」という物質です。土の中の微生物がつくりだすもので、もともと土の中に含まれています。雨が降ることで土の表面がわずかにかき乱されて、内部のゲオスミンが空気中に出てきて、私たちはこの匂いを感じるそうです。

「雨の匂い」と表現されますが、「カビのような匂い」と表現する人もいます。実は、人間はこのゲオスミンの匂いにはとても敏感で、ほんのわずか(5 ppt = 5兆分の1)の濃度でも、この匂いを感じるとか。あまりに高い濃度では具合が悪くなりそうですが、雨の匂いは落ち着く、という人もいるようです。図書館の地下書庫に入ると、なんとなく落ち着きますが、それはわずかなカビの匂いに理由があるのかもしれませんね。

2018年5月1日火曜日

松前公園の桜

今日から5月になりました。東京では5月にもなれば木々の緑が美しい季節ですが、北海道は例年であればちょうど今頃から桜が咲きはじめます。梅と桜が同時に咲くのが北海道の春です。

北海道の桜の名所といえば、松前町の松前公園でしょうか。北海道の南西部、江戸時代に築かれた松前城を中心とした公園です。函館市や松前町、大沼公園などがある渡島半島は北海道の中でも暖かい地方ですので、桜もほかの地域より早く咲きはじめます。

松前公園には、250種1万本以上の桜が植えられており、およそ1ヶ月にわたっていろいろな桜の花が咲き続けます。桜といえばソメイヨシノという名前しかピンとこない私ですが、松前町ツーリズム推進協議会が運営している「北海道松前藩観光奉行」のこちらのページには松前公園にある桜の種類が写真付きで紹介されています。いろいろな名前の桜を見ると、名前でどんな花かを想像できるものから、そうではないものまで、多様なものがあります。

多数の品種の桜を楽しむことのできる松前公園。桜を楽しみたい方々には、来年以降のこの季節の旅行先として最適かもしれません。

2018年4月30日月曜日

宇宙の外側はどうなっているか

物理学の授業では、毎回の授業内容の確認問題と合わせて、学生がどのような感想をもったか、何か質問があるか、などを自由に記述してもらうことにしています。多数の質問が寄せられますが、もっとも多いものの一つが、
宇宙の外側はどうなっているのか
というものです。

これは実に難しい質問でもあります。私たちが知っている物理法則は、「この」宇宙の内側で成立すると考えられているものです(例外はブラックホールの内側)。言い方を変えれば、この宇宙ではないところ(たとえば「宇宙の外側」や「別の宇宙」)では私たちの知っている物理法則が適用できるかどうか、を判断する材料はなにもありません。

そういう意味では、この宇宙の外側にどういうものが存在しているのか、どのような世界になっているのか、ということについての現代物理学の答えは「わからない」ということです。それでも、宇宙は「真空」から生じたという理論が広く受け入れられていますので、「真空」という言葉はキーワードになるかもしれません。このあと、少しずつ宇宙論についても紹介することにしましょう。

2018年4月29日日曜日

古い書籍を探して

読んでみたいなぁと思う書籍があったので、インターネットで Amazon や大型書店の検索機能で探してみましたが、「在庫はありません」あるいは「現在お取り扱いできません」という結果が返ってきました。欲しいと思った書籍が、いつでもすぐに手に入るという状況はなかなか実現できません。近年は Amazon をはじめとしたインターネット通販の登場もあり、書籍はかつてよりも格段に入手しやすくなりましたが、それでも古い書籍の取り扱いはほとんどないようです(場合によっては古本のリンク先を紹介されています)。

年間、おおよそ80,000点もの書籍が新たに出版されているという統計があります。一日あたりにすると 200点以上の新刊書籍が発行されているということになります。これほどの数であれば、これまで発行されたすべての書籍を書店や出版社、あるいは流通業者が保管しておくことがいかに負担であるか、を理解できるような気もします。

最近の書籍は電子化されたものも同時に(あるいは時期をずらして)発行されることも多いようで、保管に特別な空間を必要としない電子版が今後はさらに増えていくことでしょう。

読者の観点から言えば、古い書籍を先に電子化してアーカイブしていただけると需要があるはず。なかなかそうならないのは、きっと権利処理の関係が大変なんだろうなぁ、と思っておりましたが、実際は古い書籍の点数が膨大すぎて、とても作業が現実的ではないということが事実かもしれませんね。

私の読みたいと思っていた書籍(1960年の出版物)は、勤め先の図書館にありましたので、連休明けにでも借りに行くことにします。こういう古い書籍をすぐに確認できる図書館は、ありがたい存在です。

2018年4月28日土曜日

ゴールデンウィーク

毎年恒例の大型連休。人によっては、今日から9連休という方も多いとか。「ゴールデンウィーク」という言葉は、英語圏で使っても通じない、いわゆる和製英語です。英語で表現しようとすれば、“long vacation” とか “long holidays” でしょうか。

インターネットで提供されている『語源由来辞典』によれば、ゴールデンウィークとは1951年(昭和26年)に公開された映画の広報活動に合わせて、かつての映画会社「大映」で作り出した造語とか。

この時期になるとよく耳にするゴールデンウィークですが、NHKではこの言葉は使わないことが、NHK放送文化研究所のホームページで説明されています。NHKでは「大型連休」あるいは「春の連休」などのように表現するとか。なぜ、このようにしているかという理由が上記のリンク先に示されているので、ぜひご確認ください。

連休とはいえ、本来は5月1日・2日は平日ですから、通常どおりに勤務・通学する人もいることでしょう。朝の通勤・通学の電車は空いているのかもしれませんね。現代社会では多くの人が一斉に休日を取ってしまうと、世の中が動かなくなってしまうようになりました。私が子どもだったころは、日曜日や祝日は(今から見れば)不便だったような気もします。逆に土曜日は午前中は普通に学校もありましたし、仕事もあったのですが、今は社会的には休日であることが当たり前、という雰囲気ですね。

さて、皆様のゴールデンウィークはどう過ごされるのでしょうか。健康と事故には気をつけてお過ごしください。

2018年4月27日金曜日

バナナの斑点「シュガースポット」

昨日紹介した、バナナの話。バナナはバショウ科バショウ属に分類されます。バショウ属の植物には、繊維として利用されるマニラ麻があります。ちなみに、湿地に見られる美しいミズバショウは、サトイモ科の植物です。

バナナは熟すると黄色くなり、そのころには表面に黒い斑点が出てきます。この斑点のことを「シュガースポット」と呼ぶそうですが、これは果実の糖度が高くなった状況を示す目安になるそうです。

なぜシュガースポットが出現するかというと、バナナの皮に含まれているポリフェノール類が酵素によって酸化され、褐色の物質へと変化するため。「熟する」ということは、言い方を変えれば細胞の老化が進んでいることになります。細胞が老化すると、細胞内のつくりも弱くなり、細胞内に蓄えられていたポリフェノールがもともと存在していた場所を離れて、酸化酵素と触れ合ってしまうために起こる現象です。

実は、バナナの果実が熟することと、シュガースポットの出現するしくみとは関係がないことがわかっています。あくまで目安というわけです。シュガースポットが出現した頃にはすでに十分に果実は甘くなっているので、おいしく食べられるというわけです。シュガースポットが出現したけれど、今は食べられない! というときは、冷蔵庫に入れてしまいましょう。バナナの皮は黒ずんでしまいますが、バナナは13℃以下では追熟できないので、熟しすぎることなく、食べることができるのです。

2018年4月26日木曜日

バナナの追熟

先日、スーパーマーケットで「青い」(熟していないような)バナナを見かけました。最近のバナナは甘い食感を消費者が好んでいるということなのか、かなり熟しているものが店頭に並べられていることが多いようで、青いバナナはずいぶん久しぶりに見たような気がします。私が学生だった頃は、バナナは青いものがかなりあったように思ったのですが…   私はそれほど甘くないバナナが好みなのですが。

日本バナナ輸入組合の発表によると、日本の2016年のバナナ輸入量はおよそ96万トンで、どのような国々から輸入されているのかというと、

  1. フィリピン(78.5%)
  2. エクアドル(16.5%)
  3. グァテマラ(1.8%)

が上位3カ国となっています。

バナナは熟した状態で輸入されるのではなく、現地では熟す前の状態で収穫されます。熟した状態では傷みやすいことと、害虫がつくことを防ぐためたとか。日本に輸入された後、検疫を受けたら、まだ熟していないバナナを追熟するための施設に運ばれます。この施設では温度管理された「室(むろ)」と呼ばれる部屋で、エチレンガスや二酸化炭素、湿度をコントロールしながら保管されます。エチレンガスは果実の呼吸を盛んにし、果実を柔らかくしたり、糖分を高めたりするはたらきをするものです。

八王子には「バナナ熟成センター」と看板を掲げた施設があり、どういうことをしているのか疑問だったのですが、こういうことをしていたのですね。それほど追熟の進んでいないバナナをもう少し見かけることができるようになると、嬉しいのですが。

2018年4月25日水曜日

「チョウ」と「ガ」の違いはなに?

春になるといろいろな種類のチョウが飛び始め、花から花へと飛び移っていくようすを見かけます。同時に夕方を過ぎるとガが目立ち始めます。街頭近くにはずいぶん多くのガが集まっています。

朝、玄関付近に止まっている虫がチョウなのか、あるいはガなのか、どっちなのだろうと思うことがあります。きれいな羽だからチョウなのか、羽を開いて止まっているからガなのか、そういえば見分け方がはっきりしないように思います。どのように分類されているのでしょうか。生物の分類は広い順に、ドメイン/界/門/綱/目/科/属/種と分類されていきます。たとえば私たちヒトは、「真核生物/動物界/脊椎動物門/哺乳綱 /サル目/ヒト科/ヒト属/Homo sapiens」と学術的に分類されています。

実は、チョウもガも鱗翅目(りんしもく)というグループの昆虫。この鱗翅目とは、大きな2対の羽を持ち、羽にうろこ状の鱗粉(りんぷん)がならんでできた模様を持つものです。この鱗翅目をさらにグループ分けして、セセリチョウ科・アゲハチョウ科・シロチョウ科・シジミチョウ科・シジミタテハ科・タテハチョウ科の6つの科に属しているものを「チョウ」、それ以外の鱗翅目のものを「ガ」と呼んでいます。

チョウにも夜を好んで活動するワモンチョウやジャノメチョウなどもいますし、ツバメガというガは美しい羽をもっています。

チョウという名もガという名も、結局は人間の都合でつけたもの。それでも人間がつけた名である以上、名付け方のルールや名前の由来があるのですね。